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静岡市 様

静岡市「おもてなし職員コンシェルジュ」事業の概要
“職員総コンシェルジュ”の実現を目指す

  • 人材育成

静岡市では、平成30年度の試行実験を経て、令和元年7月から、「おもてなし職員コンシェルジュ」をスタートさせました。コンシェルジュは決められた日時に3庁舎(静岡庁舎、清水庁舎、駿河区役所)1階フロアに立ち、来庁者への積極的な声掛けや担当課へのご案内、付き添いを行います。

フロアに立つコンシェルジュたち

コンシェルジュ事業の目的は「市民満足度の向上」と「職員の育成(応対能力のスキルアップ)」です。最終的には全職員に「おもてなしマインド」を波及させ、“職員総コンシェルジュ”の実現を目指しています。

コンシェルジュは若手職員を中心に抜擢され、これまで平成30年度(試行実験)の1期生14名を皮切りに2期生(令和元年度)以降は毎年度26名のコンシェルジュが誕生しています。令和4年度も5期生26名が活動中です。

出所静岡市「おもてなし職員コンシェルジュ事業」資料

  • 育成プログラムの全体像

    経験学習をベースとした人材育成プログラム

    コンシェルジュ事業の大きな目的の1つが「職員の育成(応対能力のスキルアップ)」です。この目的達成のために、コンシェルジュ活動の開始前の「事前研修」、コンシェルジュ活動中の「振り返り会議」という育成プログラムを実施しています。タンタビーバでは、事業立ち上げ初期段階から広報課広聴係の皆さんの伴走者として元気の種まき担当の板谷がプログラムの企画、事前研修の講師、振り返り会議のファシリテーターとして、わくわく関わらせていただいています。

    試行錯誤を経ての現在の育成プログラムの全体像を示すと以下のとおりです。

    事前研修① エンパワメント研修
    事前研修② 接遇研修
    ⇣ コンシェルジュ活動スタート
    振り返り会議① これまでの振り返りと改善策の検討とコミュニケーションスキルの向上
    振り返り会議② 活動の全体共有と局内研修の準備
    ⇣ 局内研修実施
    振り返り会議③ 活動全体の振り返りと今後に向けた提言
    ※ 上記プログラムのうち、「事前研修②接遇研修」以外のすべての講師を弊社板谷が担当

    上記は経験学習をベースとした人材育成プログラムとなっています。「社会人の学びの7割が仕事経験から生まれる」といわれます。こうした仕事経験からの学びが「経験学習」です。ただし、単に仕事を経験したのみでは学びは生まれません。経験学習の本質は経験をきちんと振り返ることです。
    アメリカの著名な教育哲学者ジョン・デューイは、次のような言葉を残しています。
    “We don’t learn from experience… We learn from reflecting on our experience”

    コンシェルジュ事業の育成プログラムの最大の特徴は、コンシェルジュ活動を振り返るフォローアップ研修(振り返り会議)を3回実施する点にあります。経験学習を取り入れた研修は、一般企業等でも数多く実施されています。しかしながら、同じ対象者に振り返りのフォローアップ研修を3回実施する企業はあまり見かけません。こうしたプログラム構成からも経験学習を重視した育成であることを確認できます。

    また、3期生から各コンシェルジュは、「おもてなしマインド」の伝道師として、局内メンバーに対して局内研修を実施する役割も担っています。そのための準備プログラムが第2回振り返り会議に組み込まれています。局内研修の講師を務めることは、コンシェルジュ経験からの学びの整理という意味で、コンシェルジュ自身の経験学習促進にも役立ちます。

    ※コンシェルジュ通信:おもてなし職員コンシェルジュの活動を伝える広報
    出所静岡市「おもてなし職員コンシェルジュ事業」資料

    事前研修:エンパワメント研修

    自分の強みを活かした“おもてなし”でオンリーワンのコンシェルジュを目指す

    事前研修の最初に実施されるのが「エンパワメント研修」です。コンシェルジュのなかには「自分はなぜコンシェルジュに選ばれたのか」という疑問や、「自分にコンシェルジュが務まるだろうか」という不安を抱いている人もいます。したがって、ポジティブな気持ちでコンシェルジュに取り組むためのモチベーション向上を重視したプログラムを実施しています。

    まず「おもてなし職員コンシェルジュ」という役割を前向きに意味づけられるよう、誰もが持っている“ハートフル”な心に灯がつくきっかけを提供します。そのうえで、自分らしさを発見する「強みワークショップ」、自分が目指したいコンシェルジュ像や自分の強みを活かした“おもてなし”をイメージするワークショップを行います。最後に各人がコンシェルジュとしての具体的な行動目標を宣言します。

    「自分の強み」を活かしたコンシェルジュ像をイメージすることにより、「不安」な気持ちが「自信」へシフトしやすくなります。同時に、コンシェルジュに対するエンジョイメントが高まります。その結果、「これならばできそうだ」「挑戦を楽しもう」「やってみたい」といったポジティブな期待のスイッチがオンになり、コンシェルジュ活動が自身の成長機会であることも認識できます。

    「エンパワメント研修」の様子

    エンパワメント研修に続き、ハートフルなおもてなしマインドを伝わるカタチにするためのトレーニングとして「接遇研修」も終えたコンシェルジュには、市長から熱いエールと共に特製ネームプレートが交付されます。こうして、いよいよ「おもてなし職員コンシェルジュ」としてデビューします。

    第1回振り返り会議

    各コンシェルジュが自身の活動を通して感じたKPTを洗い出し、全員で共有

    コンシェルジュ活動を開始してから数か月後に実施されるのが、第1回振り返り会議です。実際にコンシェルジュを経験し、感じたことを皆で話し合い、フィードバックすることにより、今後の更なる改善につなげる会議です。

    振り返りに際しては、Keep・Problem(Potential)・Try の3点に着目して振り返る「KPT 法」を使っています。「嬉しかったこと・やってみて良かったこと」および「困ったこと・わからなかったこと+潜在力、可能性」を明らかにし、それらを踏まえて「もっと工夫できそうなこと、これから挑戦したいこと」を導き出します。
    失敗体験のみならず、Keep成功体験もしっかり振り返ることが、各コンシェルジュの自信につながります。

    出所静岡市「コンシェルジュ通信 Vol.14 令和4年1月発行」を参考に作成

    振り返り会議の後半には、市民応対向上につながる「伝わるコミュニケーション」のトレーニングとして、聴く、訊く、伝えるなどのスキルをブラッシュアップする時間も設けています。

    「第1回振り返り会議」の様子

    第2回振り返り会議

    「おもてなしマインド」の伝道師として、局内研修に向けた準備を行う

    第1回振り返り会議からさらに数か月後に実施される第2回振り返り会議では、KPT 法に基づく振り返りがより深くなり、積極的な改善策や前向きな提案もでてきます。加えて、局内研修に向けた準備を行います。研修ファシリテーターの心構え、準備のコツ、伝え方のコツ、質問に対する回答のコツなどを学ぶと同時に、「おもてなしマインド」の伝道師として、研修で伝えるべきポイントをグループワークで整理していきます。

    「第2回振り返り会議」の様子

    こうした準備を経て、各コンシェルジュはオリジナリティあふれる局内研修を実施しています。

    局内研修を受講した職員の感想(一部抜粋)

    • 同じ局内の職員が講師だと、モチベーションが上がります。研修で得た知識や講師の思いを、課内で他の職員にも広げていきたい。
    • 成功体験や失敗経験を踏まえ、改善策を前向きに考えており、講師の「おもてなしマインド」が伝わった。
    • 市職員としての在り方を改めて考えるきっかけになった。コンシェルジュでなくても、自然と相手を思いやった行動がとれるような職員になりたい。
    • コンシェルジュ事業は、市民ニーズに応える必要性の高い事業であり、コンシェルジュだけではなく、職員一ひとりの意識改革が必要だと思う。
    出所静岡市「コンシェルジュ通信 Vol.15 令和4年3月発行」

    局内研修の準備から実施までの一連の流れは、経験からの学びを定着させる大切なプロセスです。各コンシェルジュが局内研修で伝えたいことの整理は、コンシェルジュ経験で学んだことの教訓化とほぼイコールであり、それを他者に伝える行為は、学んだことの再現性を高めることにつながります。

    第3回振り返り会議

    コンシェルジュ活動全体を振り返り、自身の成長を実感!

    年度の最後にコンシェルジュ活動の総まとめとして実施されるのが第3回振り返り会議です。これまでの活動を振り返り、コンシェルジュを経験したからこそ思うことや、コンシェルジュ事業への意見・提案などを共有します。コンシェルジュ経験全体を前向きに振り返り、改めて自身の強みを確認するための「インタビュー記事の作成」ワークなども組み込んでいます。

    こうした大きな振り返りによって、各コンシェルジュは自身の成長を実感することができます。

    実際のコンシェルジュの声(一部抜粋)

    • 「職員総コンシェルジュ」の実現には、一人ひとりの心掛けが大切だと気付いた。
    • 研修で「自分の強み」を考える機会があった。強みを意識して市民応対をしてみると、自然と行動できることが多くあったので、これからも業務の中で活かしたい 。
    • 実際にコンシェルジュをやってみると、来庁者から、事業の内容など想定外の質問をされて戸惑った 。その経験のおかげで、今では他課の業務にも詳しくなり、市民に寄り添った応対を自然と心掛けるようになった。
    • 局内研修で他の職員にも「おもてなしマインド」を広げることができてよかった。
    • 自分の活動を内省し、それを他者とも共有し、自己知識や経験値を高めていくことは 、すごく価値がある!
    • やってみて損はなかった。局内研修では、この経験を庁内の職員に伝えることができた。濃厚な1年だった。
    • 自分を大きく変えなくても、強みを活かしてやっていけばいいと思うことができた 。そこからは、肩の力を抜いてコンシェルジュをやることができた。
    出所静岡市「コンシェルジュ通信 Vol.16 令和4年3月発行」

    まとめ

    チャレンジ経験と振り返り会議を重ねるにつれて、自信を深め、自覚が高まっていくコンシェルジュたちのいきいきとした姿は実に頼もしいです。業務経験を通じて成長していく本気の若手職員の取り組みは、組織を元気にするポジティブな影響力も発揮しています。

    コンシェルジュ経験を通して成長していく職員たち

    「おもてなしコンシェルジュ」は、“市民のお役に立つ”ためにスタートした事業です。つまり、職員による市民応対力や仕事の質の向上が必須です。静岡市では、そのために御旗を掲げることや、職制を通じた通達で済ませるのでなく職員一人ひとりの「おもてなしマインド」に灯がつく経験と成長機会の提供にエネルギーを注ぎました。丁寧な準備期間と試行実験を経て、毎年「職員総コンシェルジュ」を目指して改善しながら継続し、ポジティブ影響力の環をどんどん広げています。

    この静岡市の取り組みは、トップの強いコミットメントと、なによりも歴代担当者をはじめとする関わる職員の皆さんの熱意により実現している見事な人材開発プログラムです。結果として、いきいき組織開発へと繋がっています。タンタビーバでは、わくわくしながら伴走させていただいています。