人とビジネスのいきいきをデザインする

太平洋精工株式会社 様

PEC PARK~「オフィス×工場」の新しいカタチ(後半)
PEC PARK建設の効果と今後について

  • 新オフィス・工場建設支援
  • カンパニープロフィール

    1961年設立。岐阜県大垣市に本社を置き、自動車用ヒューズのリーディング・カンパニーとして国内・海外でトップクラスのシェアを誇る太平洋精工株式会社(PEC)様。海外にも生産・販売拠点を持つグローバル企業であり、自動車用ヒューズ以外に精密金属プレス加工・金型製作も行っています。2023年3月期の売上高(単体)234億円、2023年6月1日時点での国内従業員数411人(グループ全体967人)。

    《ビジョン:PECが未来に向けて持ちつづける志》
    独創性を追究し、安全・快適なクルマ社会の「新しい流れ」を創りつづけます

    事例概要

    1961年の創業以来、世界の自動車産業の発展に貢献してきた太平洋精工株式会社様。

    「独創性を追究し、安全・快適なクルマ社会の『新しい流れ』を創りつづけます」というPECのビジョンには、未来に向けて真のグローバル企業へ成長していく、という強い意志が込められています。

    2020年にはビジョン実現のための新たな働き方をサポートする新本社社屋「PEC PARK」が完成しました。「PEC PARK」は、オフィスと工場が一体化した新しいカタチのワークプレイスであり、2021年度の日経ニューオフィス賞の中部ニューオフィス推進賞にも選ばれました。

    PEC PARK建設において、タンタビーバはコンセプト策定、ネーミング開発、空間デザイン、サイン計画のお手伝いをさせていただきました。また、コーポレート・スローガン制定、ポスターの制作・展開などPEC PARK完成と連動した一連のコミュニケーション活動のお手伝いをさせていただいています。

    今回は小川茂彦取締役へのインタビューを交えながら、「オフィス×工場」の新しいカタチであるPEC PARK建設の効果などについてご紹介します。

    インタビューのご協力

    小川 茂彦 取締役

    PEC PARK建設の効果

    完成から約3年が経った今、PEC PARK建設の効果を小川取締役にお尋ねしました。

    効果1:距離ゼロ化~工場とオフィスの距離、経営者と従業員の距離が縮まる

    PEC PARKでは、工場とオフィスの距離、経営者と従業員の距離など、さまざまな距離感が縮まったようです。

    「やはり工場とオフィスが直結したことで、伝言ゲームではなく直接やりとりでき、情報が素早く、正確に伝わるようになったという点が一番大きいと思います。また経営者と従業員の距離という点でも、トップダウン、ボトムアップの両面でお互いの声が双方向に届くようになったと思います。社長室はガラス張りで、ドアも閉めておらず物理的・心理的にオープンな状態にしています。そういった中で社長に相談する頻度も多くなりました」(小川取締役)

    効果2:新たな人の交流~セレンディピティの場づくり

    工場とオフィスの中間にあり、両者の共有エリアとでも呼べるOASISでは、新たな人の交流も増えているようです。

    (1)OASISスタジアムでのオープンなイベント

    「多目的空間のOASISスタジアムでは、誰でも参加できるオープンな集いの場として、定時後に管理職が15分から30分程度でフリーのスピーチを行うイベントを毎月開催しています。多いときには80名、平均で50名ぐらいは集まっています。また、OASISエリアに卓球台があり、(事実上の)部署対抗の卓球大会が開催され、部署間の交流機会となっています」(小川取締役)

     

    (2)出会いの場としてのRELAXエリア

    靴を脱いでクッションに寝転びながらリラックスできるOASISのRELAXエリアも出会いの場として機能しています。

    「OASISのRELAXエリアは工場の従業員が休憩時間にリラックスするために利用することが多いのですが、工場とオフィスの共有エリアに集まることで、たまたまオフィスの従業員と出会って、『あとでオフィスで会おうか』という話になることもあるようです。その意味で『セレンディピティ(※)の場』にもなっているのかなと思います」(小川取締役)

    ※セレンディピティ(Serendipity)

    素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。近年、企業では部門の枠を超えた「偶然の出会い(セレンディピティ)の場」を意図的に設ける動きが広がっている。

     

    (3)従業員が一堂に会することができるOASIS Dining

    人の交流という面では、従業員が一堂に会して昼食を取ることができるOASIS Diningの存在も大きいようです。

    「新型コロナの影響もあり、現在は二部制になっていますが、部署、職種といったことを超えて、みんな一斉に同じ場所で食事が取れるOASIS Diningも、さまざまな出会いの場になってほしいと思っています。私自身、仕事上は繋がっていなくても、趣味などで繋がっているといった従業員同士の意外な人間関係を、食堂で気づくことがあります」(小川取締役)

     

    (4)PEC Loungeで部署・年齢が異なる従業員が集う昼食会

    また、会社として意図的に出会いの場を提供する取り組みも行っています。

    「OASIS Diningの奥にPEC Loungeという18名位が座れる特別な個室があり、そこで毎月社員を集めた昼食会を開催しています。初年度は誕生月を基準に集めていましたが、今年は干支を基準にしています。こういった部署も年齢も異なる従業員の集まりも、セレンディピティの場になってくれたらいいなと思っています」(小川取締役)

    ※左:RELAXエリア、右:PEC Lounge

     

    このように工場からもオフィスからも集まりやすい場づくりや、部門・部署の枠を超えた集まりの場を提供することで、さまざまなセレンディピティが生まれやすくなっています。

    効果3:オフィスの1フロア1スペース化でOne Teamの一体感

    3階オフィスに目を向けてみると、柱やパーテーションのない広々とした1フロア1スペースのフリーアドレスオフィスが従業員の一体感を生んでいるようです。

     

    (1)従業員同士のオープン・コミュニケーション促進(多方向に繋がる)

    「一般的な会社におけるフリーアドレス導入は、オフィスのフロア面積を小さくしたり、席数を減らすことでオフィス賃料を下げることを狙ったものが多いと思います。しかしながら、当社におけるフリーアドレス導入の狙いは、部門・部署の壁をなくして、1フロアでOne Teamであるという一体感を持って仕事に取り組むことです。広々としたオフィス空間を共有していることで、フロア全体が1つのチームであると実感しやすいと思います。また、フリーアドレスにすることで、部署・職制に関係なく話をする機会が増え、従業員同士が多方向に繋がりやすくなっています。実際に従業員同士のオープンなコミュニケーションが増えていると感じます。最終的にアメーバのように有機的に動くことができる、ピラミッド型ではない横広がりの組織になればいいと思っています」(小川取締役)

    ※広々とした空間で、部署・職制に関係なくコミュニケーションをとりやすいフリーアドレスオフィス

     

    (2)上司と部下の関係性変化(フラットな関係性)

    フリーアドレスオフィスは、上司と部下の関係性にも変化をもたらしました。

    「オフィスの中で、役員クラスだけが席が固定されていますが、それ以外はすべてフリーアドレスで毎日席が変わります。座席が物理的にフラットなので、上司と部下もフラットな関係を構築しやすくなったと思います。加えて、上司も部下も出勤したら、いきなり机に向かって自分の世界に没頭するのではなく、まず目線を上げて職場メンバーがそれぞれどこにいるのかを把握しなければなりません。そうした確認をしながら、『今日はあそこに相談しに行けばいい』『あとで○○さんに確認しよう』といった、その日の仕事をイメージするようになります。このように広い視界で目線を上げて職場メンバーを確認する行為自体が関係性構築にもプラスになっていると思います」(小川取締役)

     

    (3)ハラスメント防止効果

    さらにオープンなオフィス空間はハラスメント防止効果があると、小川取締役は指摘します。

    「最近の流れとして、組織のハラスメント防止が必須となっていますが、ハラスメントは密室的空間で起きやすい。反対に、PEC PARKのオフィスのような1フロア1スペースで、常に周囲から見ることができるオープンな空間では、ハラスメントは起きづらいでしょう。仮に少し過剰な言い方になりかけても、周囲の視線を感じて冷静になれる、歯止めがかかるという効果があると思います」(小川取締役)

    このように1フロア1スペースのフリーアドレスオフィスが、従業員の仲間意識やコミュニケーションの変化をもたらしています。

    効果4:オープンなオフィス空間による生産性向上

    物理的・心理的にオープンなオフィス空間は生産性向上などにも寄与しています。

     

    (1)プレゼンティーイズムの改善によるパフォーマンス発揮

    「健康経営に関連してプレゼンティーイズム、アブセンティーイズム(※)といった概念がありますが、オープンなオフィス空間は従業員がのびのびと働きやすく、心身ともに良好な状態でパフォーマンスを発揮しやすい環境だと思います。いくら能力を有する従業員であっても、心身が良好でなければパフォーマンスを発揮できませんからね。その意味でオフィス全体の生産性も向上していると思います」(小川取締役)

    ※プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム

    プレゼンティーイズムとは、従業員が出勤しても健康面で問題を抱え、集中力や意欲が減退している状態をさす。一方、アブセンティーイズムは従業員の欠勤、遅刻、早退をさす。

     

    (2)残業時間削減、勤務間インターバル制度の推進

    オープンなオフィス空間は残業時間削減や勤務間インターバル制度(※)に良い影響を及ぼしています。

    「オープンなオフィス空間は、他部署からの刺激を受けやすい環境とも説明できます。それが残業時間削減や勤務間インターバル制度の推進(PECでは11時間の勤務間インターバルを導入)にも良い影響を及ぼしていると感じます。他部署との比較があからさまに見えるので、他部署が早く帰っているのに自分たちの部署が遅くまで残っていれば、『なぜうちの部署だけ遅いのか』という問題意識で芽生え、改善に取り組むようになります。オープンなオフィス空間でなければ、ここまでの改善につながっていなかったと思います」(小川取締役)

    ※勤務間インターバル制度

    1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するもの。「労働時間等設定改善法」が改正され、2019年4月1日より勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務となった。厚生労働省は、勤務間インターバルとして9~11時間の休息を推奨している。

    こうしたプレゼンティーイズム抑制、残業時間削減等が生産性向上に寄与しています。

    効果5:自然環境との調和、地域への貢献

    PEC PARKのコンセプトの1つに「自然との調和」があります。敷地内に緑豊かな公園(PEC GARDEN)が整備され、建物内も自然の要素を取り入れた空間づくりが随所に見られます。

    「以前にオリンピック・メダリストも輩出している有名なスポーツ指導者の方に講演をお願いし、私がお迎えに行ったとき、その方が車中で開口一番『空が広いですね』とおっしゃいました。そうしたエピソードに象徴されるように、自然環境に恵まれているのは1つの大きな財産だと思います」(小川取締役)

    ※左:モニュメントが点在するPEC GARDEN、右:ライトアップされたPEC GARDEN

     

    近年では自然の要素を取り入れた空間デザインである「バイオフィリックデザイン」(※)が注目されています。アメリカのコンサルティング会社によれば、「自然光」や「植物」など、自然の要素を取り入れたオフィス環境で働いているワーカーは、そうでないワーカーに比べて幸福度が15%向上、同様に生産性6% 、創造性15%向上という調査結果もあります。

    ※「バイオフィリックデザイン」

    アメリカの社会生物学者エドワード.O.ウィルソンは、「人間には生まれつき『自然とつながっていたい』という欲求が備わっており、自然の中に身を置くことで不安やストレスが軽減し、思考が明晰になる」という「バイオフィリア仮説」を提唱した。この「バイオフィリア仮説」を適用した空間デザインが「バイオフィリックデザイン」である。

     

    PEC PARKの建物内も自然光を感じられる空間づくりが印象的です。自然の要素を取り入れたオフィス環境の効果について、小川取締役に尋ねてみました。

    「そうしたオフィス環境が従業員のパフォーマンスにどう影響しているのかは不明ですが、当社が効率性重視だけではなく、ゆとりや余裕を持てる働き方をサポートする会社であることを具体的に示すことはできていると思います」

    季節によって多様な表情を見せるPEC GARDENは、憩いの場として地域に開放しています。こうした地域とのつながりについて、小川取締役は次のように述べられています。

    「PEC GARDENには春になると桜の花が咲くのですが、それとは別にこの地域には『根尾谷薄墨桜』(※)という有名な古木があります。その苗木を当社がもらって敷地内に植樹しています。いずれは大きくなって綺麗な花を咲かしてくれると思います。そうなれば従業員のみならず地域の人々も喜んでくれるのではないでしょうか。自然・公園を介して地域の人々とつながることも当社にとっては重要な取り組みです」(小川取締役)

    ※根尾谷薄墨桜(ねおだにうすずみざくら)

    岐阜県本巣市の根尾谷・淡墨公園にある一本桜。樹齢1500年以上の古木は、山梨県の「山高神代桜」と福島県「三春滝桜」と並んで日本三大桜のひとつに数えられ、国の天然記念物に指定されている。

     

    また、毎年クリスマスの時期に実施しているイルミネーションも地域のランドマークとして定着しています。

    「地域の人々から『大垣といえば太平洋精工のクリスマスイルミネーションだよね』って言ってもらえると嬉しいですね。そのように地域と繋がり、地域の人々から褒めてもらえることは、会社にとっても、従業員一人ひとりにとっても、とても誇らしいことだと思います」(小川取締役)

    ※左:桜の時期のPEC GARDEN、右:クリスマス時期のイルミネーションに彩られた社屋

     

    このような「自然を愛する」「地元を愛する」取り組みは、まさにPEC PARKの名に相応しいものです。

    PEC PARKの未来

    最後にPEC PARKの未来について、小川取締役にお尋ねしました。

    「まず会社として、PEC PARKという器(ハード)を用意しました。ただし、ハードだけ用意しても、それをどのように活用すべきか(ソフト)がわからないと動いていかないので、そのきっかけとして会社側でさまざまな取り組み・イベント等を企画してきました。しかしながら運用から約3年が経って、会社主体で企画を提供するというフェーズは一巡したのかなと思っています。これからは社員自らが独自の発想でPEC PARKの効果的な使い方を企画し、回していくフェーズに入っていくことを期待しています」

    「小川社長がよく『建物は成長するものだ』という表現を用います。これは建物が持っているポテンシャルを引き出し、機能を広げていくのは使い手次第であるということです。その意味で、社員の皆さんにぜひPEC PARKのポテンシャルを引き出してほしいと思います」

    こうした期待はPECのビジョンにも示された「新しい流れ」の方向とも連動するものです。

    「流れというのは、どんどん水を供給しなければ途絶えてしまいます。これまでは会社がその水を供給していましたが、これからは社員の皆さんが新しい水を供給することを期待しています。会社としてもそれを後押しして、PEC PARKが流れの途絶えない器になってほしいと思います」(小川取締役)

    PEC PARKには、これまでご紹介したように様々な場所で、〈Colorful Creators〉と呼ばれている社員がつながりを感じられるアイデアやメッセージが施され、社員一人ひとりがつねにPECのビジョンや目標を身近に共有できる環境となっています。世界のPECに向けて発信された企業理念・スローガン・働き方を共有するグローバルポスターや、2030年への成長目標を共有するポスターもその一環です。

    ※左:工場内に掲示されている、全世界で活躍するPECグループ社員の顔写真入りポスター
    ※右:2030年に向けたPECグループ成長目標の啓蒙ポスター

     

    オフィス・リニューアルの意義は、「単に建物が新しく生まれ変わった…」というだけでなく、新しいオフィス環境によって社員一人ひとりに新しい働き方の意識や行動の変化が生まれることがゴールです。新しい「器づくり(空間づくり)」に留まらず、「人づくり」「組織づくり」まで包含するものだ、ということを今回のインタビューを通して皆様にご理解いただけたかと思います。

    一連のPEC PARKに対しての業務に関わらせていただいたことに心より感謝申し上げます。「小川が流れて大河となり、太平洋の大海原へと繋がっていく」という社名の由来のように、これからも「新しい流れ」が大海原へと繋がるお手伝いをさせて頂ければ幸いです。