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理念経営

いきいき組織紹介~株式会社陣屋様
改革を成し遂げた老舗旅館に学ぶ(2)
陣屋の理念経営~「毎日が、舞台だ」「アドリブを効かそう」

改革を成し遂げた老舗旅館に学ぶ(2) 陣屋の理念経営~「毎日が、舞台だ」「アドリブを効かそう」

旅館DX、週休3日制などで注目される老舗旅館 陣屋様の“いきいき”を紹介する4回シリーズ。第2回では、コンセプト、クレドといった陣屋グループの理念を掘り下げたいと思います。

〈インタビューへのご協力〉
株式会社陣屋 代表取締役 女将 宮崎 知子さん
株式会社陣屋 予約・フロント主任 本田 有希子さん
株式会社陣屋 接客主任 紺野 愛子さん

陣屋グループのコンセプト、クレド

(出所)陣屋グループ公式サイト

第1回でも述べたような、陣屋の従業員がいきいきと働いている背景には、このコンセプト、クレド大きく影響しています。

さまざまなメディアで紹介されている陣屋ですが、コンセプト、クレドについての話は意外に少ないかもしれません。

2.社是、クレドの制定プロセス

現在は理念として「コンセプト」「クレド」が示されていますが、2010年に陣屋で初めて理念を制定したときは「社是」「クレド」として制定されました。

陣屋で初めて理念を制定した経緯について、宮崎さんが説明してくれました。
「DX関連の話をするとき、いつも端折ってしまうんですけれども、社是・クレドの制定は初期の大きな取り組みの1つです。ちょうどパンフレットを刷新したくて相談していたデザイナーさんに、社是がないことを指摘されたのがきっかけです」(宮崎さん)

「それまで90年間、従業員と何となく『こんな感じ』って、ふんわりとやっていましたが、指針のようなものは具現化されていませんでした。お客さまに喜んでいただきたいという大前提があるにせよ、やりたいことがみんなそれぞれだったりしていたので、『じゃあこれを機に社是とクレド(行動指針)をつくろう』という話になり、そのデザイナーさんと一緒に取り組むことにしました」(宮崎さん)

株式会社陣屋 代表取締役 女将 宮崎 知子さん

(1)従業員約120名全員へのインタビューがベース

その制定のベースとなったのが、当時の従業員(社員およびパート)約120名全員へのインタビューです。

「私(宮崎さん)と主人(当時社長、現オーナー)は席を外して、デザイナーさんがインタビューしてくれました。『あの人とシフトを一緒にしないでくれ』『あの人に指示されたくない』『若いスタッフへの注意の仕方がわからない』といった、質問と関係のない不満や悩みを話す方もいたようですが、各スタッフが好き勝手洗いざらい話をしてくれたようです」(宮崎さん)

そのインタビュー内容から、社是とクレドの要素は抽出されました。
「インタビュー内容から陣屋の強み、弱み、好きなところなどが抽出されて、それを集約し、表現をブラッシュアップさせて完成させたのが、『物語に息吹を。』という社是と、『お客さまの物語の、名脇役であれ』『毎日が、舞台だ』『アドリブを効かそう』など5つのクレド(行動指針)です。制定まで約1年かかりました。クレドについては、リッツ・カールトンがクレドを掲げていたので、その影響です。「行動指針」だと製造業をイメージしてしまい、そうしたくなかったのでクレドとしました」(宮崎さん)

社是、クレドの制定

(2)ボトムアップ型の制定プロセスが不可欠だった

この社是、クレドの制定について、どうしてもボトムアップ型の制定プロセスが必要だったと、宮崎さんは強調します。

「社是が欲しかったのですが、そのためには従業員を巻き込まないと無理かなと思っていました。経営者主導で社是、クレドを制定して『私たちがこれを決めました。やってください』とお願いしても、従業員側は強制されているようで、やりたくなくなるじゃないですか。20年、30年働いてきた人たちにとって、『ポッと出てきた若社長(現オーナー)と女将が、いい顔して海外のホテルの真似して何かやっているけど』と他人事になりかねないので」(宮崎さん)

ボトムアップ型の制定プロセスが不可欠だった

「『みなさんの意見を聞きました。それらの意見を集約し表現を洗練させて、小説になぞられるような社是、クレドを作りました。したがって、この社是、クレドはみなさんが考えた、みなさんの総意です。だから実行しましょうね』というスタンスを確保するためにも、(トップダウンではない)ボトムアップ型の制定プロセスが必要だったんです」(宮崎さん)

トップダウン/ボトムアップの制定プロセス

(3)主要なクレドに込められた意味合い

主要なクレドに込められた意味合いを解説してもらいました。
※「お客さまの物語の、名脇役であれ」の解説は第1回で掲載しましたが、再掲載しておきます。

「『お客さまの物語の、名脇役であれ』は、お客さまの人生という小説の中で、私たちはそれ(お客さまの人生)を彩るための脇役になる、というものです。ただ『旅行に行ってきました』という日記の一部ではなくて、『旅行で陣屋に行きました。接客係の本田さんが、こんな話をしながら部屋まで案内してくれましたっ』という肉付けが、具体的に出るような役割を果たすという指針です。やはりお客さまの思い出に残らないと、私たちは生きていけないんですよね。なので、それがちゃんと実行できるようになろう、という意味合いが含まれています」(宮崎さん)

「『毎日が、舞台だ』。たとえば、お客さまのお誕生日や結婚記念日。実は毎日のようにお誕生日のお客さまがいらっしゃるんですけれども、そのお客さまにとっては、年に一回だけのお誕生日にわざわざいらしてくださっているので、『(私たちスタッフも)一回一回舞台に上がるように、自分たちの気持ちをリセットして、そのお客さまと向き合いましょう』という意味合いです」(宮崎さん)

「『アドリブを効かそう』。マニュアルがあってマニュアル通りに動いたとしても、お客さまは感動してくださらない。感動してもらうためにはアドリブが必要になります。もちろん、それは基礎があってのことだと思いますが。本当にお客さまのことを考えないと、お客さまにきちんと向き合わないとアドリブは出てきません。なので、そういった言葉がけができるようになろう、という意味合いです」(宮崎さん)

主要なクレドに込めた思い

(4)「旅館を憧れの職業に」というコンセプトが加わる

クレドは2019年にアップデートされ、先に示した4カテゴリー、18項目として示されました。また、「旅館を憧れの職業に」が新たに加わり、(社是であった)「物語に息吹を。」と共にコンセプトとして示されました。

「旅館を憧れの職業に」というコンセプトが加わった背景には、陣屋コネクトの影響があります。
「2012年に陣屋コネクトが設立され、そこで私たちの視野が広がったことが契機です。陣屋コネクトを他の旅館に販売するようになって、陣屋だけではなく旅館業全体のことを考えるようになり、『旅館を憧れの職業に』というコンセプトを掲げることにしました。これは陣屋コネクトも含めた陣屋グループ全体のコンセプトです」(宮崎さん)

「旅館を憧れの職業に」というコンセプトが加わる

クレドについては、その行動を確保するため、毎週金曜午前の定例会(定例ミーティング)で、ランダムに指名された従業員が「クレドに沿って先週何をしましたか。今週は何がしたいですか」について発表しています。

3.アドリブ的行動が求められる働き方

クレドが示すように、陣屋の従業員には(マニュアル的行動ではない)アドリブ的行動が求められます。

(1)台本は決まっていない。自分で考えて自分の言葉で伝える

アドリブ的行動の指導について、宮崎さんにお聞きしました。
「中途入社のスタッフがよく驚くのは、お客さまをお部屋までお連れする際の案内などの文言が決まっていないことです。避難経路、館内利用の留意点、部屋のしつらいなど初来館の方に説明すべき項目は存在します。ただし、それをどのように伝えるかは各スタッフに任せています。『台本は決まっていません。自分で考えて自分の言葉で伝えてください』と指導しています。先輩が説明している言葉を参考にする人もいれば、自分で一生懸命に練習を繰り返しながら、抜け落ちがないようにしている人もいます」(宮崎さん)

「説明すべきチェック項目が50-60あって、接客スタッフはそれらをよどみなく説明できるようにしなければなりません。そのため、チェック項目のテストを実施し、75点以上取らないと、独り立ちさせてもらえない決まりになっています」(宮崎さん)

アドリブ的行動の指導について、宮崎さんにお聞きしました。
「中途入社のスタッフがよく驚くのは、お客さまをお部屋までお連れする際の案内などの文言が決まっていないことです。避難経路、館内利用の留意点、部屋のしつらいなど初来館の方に説明すべき項目は存在します。ただし、それをどのように伝えるかは各スタッフに任せています。『台本は決まっていません。自分で考えて自分の言葉で伝えてください』と指導しています。先輩が説明している言葉を参考にする人もいれば、自分で一生懸命に練習を繰り返しながら、抜け落ちがないようにしている人もいます」(宮崎さん)

「説明すべきチェック項目が50-60あって、接客スタッフはそれらをよどみなく説明できるようにしなければなりません。そのため、チェック項目のテストを実施し、75点以上取らないと、独り立ちさせてもらえない決まりになっています」(宮崎さん)

台本は決まっていない。自分で考えて自分の言葉で伝える

単純にチェック項目の説明方法を考えればよいのではなく、シチュエーションに応じた説明も求められます。
「1つの項目についても、お客さまのシチュエーションによって全部違ってくるんです。お連れさまと二人でいらしたときの説明、ご高齢の方がいらっしゃったときの説明、お子さまがいらっしゃったときの説明など、注意していただくことがシチュエーションで違ってきます。そこで『今日はaパターンのお客さまでいきます』『今日はbパターンのお客さまでいきます』のようにシチュエーションを変えてテストしています。そうすると歩くスピードも違いますし、手すりのご案内も違ってきますし、そういったところも全部チェックするので、実際には100位の項目をテストでチェックしています。お付きで独り立ちするのに半年以上かかりますね」(宮崎さん)

(2)お客さまをきちんと見ていれば、毎回言葉が異なってくる

「枕詞じゃありませんが、同じことの繰り返しだと耳に触るから、『日本語にはたくさんバリエーションがあるんだから、たくさんバリエーションを使って説明してくださいね』といつも言っています」(宮崎さん)

「台本みたいな形になると、みんな女優さんじゃないから、毎回フレッシュな気持ちでしゃべることは難しい。そうすると、暗記したフレーズをただ言うだけで、お客さまを見なくなるんです。お客さまによって全部シチュエーションが違うから、言葉も違ってくる。大きなお荷物を持っていらっしゃる方に対しては、先にお荷物を預かって部屋に案内することもありますし、『私がお手伝いします』と声をかけることもあります。杖をついている方がいらっしゃったら、ゆっくり歩きたいですし、車椅子が必要かどうかをお伺いした方がいいかなとか、そういう気配りがシチュエーションで異なってくるんです」(宮崎さん)

お客さまをきちんと見ていれば、毎回気配りや言葉が異なってくる

「年齢層が高い方は体感温度が違うので、部屋の室内が暖かいか寒いか、設定温度がちゃんと心地良いかどうかを確認したいですし、普段は決まったところにエアコンのリモコンが置いてあるんですけれども、わかりやすく机の目の前に置いて、『○○度になっていますけれども、寒かったら調節してください』とか、『ブランケットは必要ですか? お部屋に持ってきますか』」とか、気配りすることや、お聞きして確認すべきことだけでもたくさんあるんですよ」(宮崎さん)

「結局、毎日違うことが起こるので、毎日新鮮な気持ちを持たなければいけないですし、お客さまによって言うことも異なれば、こちらが察するべきことも異なってきます。毎月のようにいらっしゃるお客さまに、わざわざ化粧室の場所のご案内や、大浴場のご案内をする必要はありませんし、なんだったらチェックインもそのままお部屋にお連れして、中でお話ししながらチェックインをすればよいので、フロントで待っていただく必要もないわけです。ただし、周りのお客さまで困って順番待ちしている方がいらっしゃるという状況であれば、そこに対する配慮も必要ですよね。順番を抜かされることが一番クレームにつながるので」(宮崎さん)

シチュエーション毎の気配りのお話から、お客さまの物語の名脇役となるためには、「毎日が、舞台だ」「アドリブを効かせよう」というクレドに沿った行動が不可欠であることをご理解いただけたと思います。

(3)アドリブでお客さまと会話する楽しさ

マニュアルがなく、アドリブが求められる接客について、紺野さんに従業員の立場から語ってもらいました。
「自分が客として他の施設に出かけたとき、マニュアル化された説明は、型にはまった通りいっぺんのものに感じてしまいます。その点、陣屋はマニュアルがないので、どのスタッフがお客さまと話をしても、自由にいろいろな方向からアドリブで会話するので、私がお客さまだったら楽しいのかなって思いますし、各スタッフも楽しいのではないかと思います。また、他のスタッフの接客を見て、『ああ、こういうふうに言うんだ』と学ぶことも楽しいですね」(紺野さん)

アドリブでお客さまと会話する楽しさ

「レストランでの話ですが、献立が変わって、私や他のスタッフが知らない料理が出てくることがあります。そんなときは、みんなで食材について調べながら、説明の仕方を考えて対応しています。マニュアルがあれば便利だなと思わなくもありませんが、自分たちで考えたほうがマニュアルで覚えるよりも、自分の身になるし、みんなで調べて学んで工夫する楽しさのようなものがあります」(紺野さん)

株式会社陣屋 接客主任 紺野 愛子さん

4.チームワークで顧客満足度を高める

クレドの中に「共に働く仲間を信頼し、チームワークを大切にしよう」という項目があります。情報共有をベースに、チームプレーで満足度の高いおもてなしを提供できることも陣屋の強みです。

(1)リアルタイムの情報共有によるおもてなし

こうしたチームプレーについて、紺野さんに説明してもらいました。
「みんなインカムを付けていますので、お客さまが楽しく、心地よく過ごせるために、スタッフは常に観察をしていて、気づいたスタッフが『○○様、食事がそろそろ終わるので、お部屋に戻ります』のような情報を発信すれば、全員で共有し、より良いサービスをご提供しています。お祝いのお客さまがいれば、『みんなでレストランの前でお見送りしよう』となり、足の状態が良くないお客さまがいれば、『おみ足が悪いのでキャッチしてください』のようにサポートします。情報共有することで、みんな常に自分が今何をすべきかを考え、行動することができます」(紺野さん)

レストランでも担当をきっちり決めないことで、チームでのおもてなしができると言います。
「個室でのお食事があれば担当は決まっていますが、レストランに関しては、A様は誰が担当、B様は誰が担当のように、きっちり決まっているわけではありません。大まかなエリアで担当を分けることはありますが。担当を決めたとしても、会場全体をよく観察していれば、担当以外のお客さまのことで気づくことも多いので、みんなでお客さま全員を見ていることが多いですね。そうした体制なので、チームでのおもてなしができるのだと思います。またマルチタスクであることが、スタッフ同士の連携や助け合いにつながっていると思います」(紺野さん)

チームによるおもてなし

(2)チームで「次につながるサービス」を提供する

本田さんは、調理場との連携について語ってくれました。

「お客さまからの感謝の声は、すぐに他のスタッフと共有するようにしています。特に調理場スタッフはお客さまからの『料理が美味しかった』といった声を直接聞くことができる機会が少ないので、そういったメッセージを伝えると、やる気が出るのではないかと思います。料理長はお客さまからの言葉をとても大切にしているので、『前回こういうパフォーマンスをしてすごく喜んでくださっていたから、久しぶりに来るから思い出してもらう意味でも、もう一度あのパフォーマンスしてみようか』といった提案をしてもらえます」(本田さん)

株式会社陣屋 予約・フロント主任 本田 有希子さん

「しっかり情報共有できているので、陣屋全体として『次につながるサービス』が提供できると思います。『次につながるサービス』ということが、私たちにしかできないことだと思って日々従事しています。その意味で、お客さまとのちょっとした会話も逃さないようにしています」(本田さん)

チームで「次につながるサービス」を提供

(3)仲間への感謝がお客さまへの感謝につながる

シチュエーションに応じたお客さまへの気遣いが求められる陣屋のスタッフだからこそ、仲間への気遣いの感度も高いのかもしれません。

従業員同士の仲間への気遣いについて、宮﨑さんが解説してくれました。
「自分が働いていて、『ここに人手が欲しいな』『自分が今これをやって離れられないけれども、あそこのお客さまがサインを送っているな』というのは、やっているとわかるようになります。そうすると、助けてもらうとありがたいですし、自分が助けてあげれば、相手のスタッフの気づきにもなります。(お客さまへ出す)お茶が欲しいと思っていたところに、先輩がタイミング良く持ってきてくれる。自分もそのように動かなければいけないと後輩スタッフが学ぶ。そのようなOJTを実施しています」(宮崎さん)

クレドの1つに「仲間に感謝と拍手を送ろう」という項目があります。仲間への感謝がお客さまへの感謝につながると、宮崎さんは指摘します。
「一人で働いているわけではないので、スタッフ同士が気遣い、助け合い、『ありがとう』と感謝することが、その先にいるお客さまへの気遣い、感謝にもつながると思います」(宮崎さん)

仲間への感謝がお客さまへの感謝につながる

以上、第2回では陣屋グループの理念である「コンセプト」「クレド」について取り上げました。特に従業員のクレドに沿った行動の実践が、いきいきと働くことにつながっていることをご理解いただけたのではないかと思います。第3回は、旅館DXを中心に陣屋の改革を取り上げる予定です。

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