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理念経営

「ホワイト企業大賞」表彰企業のいきいき組織づくり 【2】~理念経営を支える組織づくりのポイント (後半)

【カンパニープロフィール】
1970年に「道頓堀ホテル」を開業して以来、ホテル業を展開してきた株式会社王宮(本社:大阪府大阪市中央区)。現在ではブリッジホテルグループとして「道頓堀ホテル」をはじめ、「ザ ブリッジホテル心斎橋」「大阪逸の彩ホテル」「沖縄逸の彩ホテル」「天一ホール」を運営しています。約55億1千万円(2024年4月期)、従業員数約220名。

《経営理念》
誠実な商売を通して、心に残る想い出づくり
《ビジョン》
共に幸せと誇りを感じる会社
《私達の使命》
私達は日本と世界の架け橋になります

3.自発的行動を引き出す「フラットな組織」

ここからは王宮が目指す「フラットな組織」について掘り下げます。

王宮スタッフの自発的行動を引き出す土台として、フラットな組織があります。この場合の「フラットな組織」とは、役職・年齢などに関係なく双方向のコミュニケーションがとれる環境が整備され、スタッフ一人ひとりが自ら考え行動したり、みんながアイデアを発信し、議論を重ねることができる組織をさします。

(1)役職名での呼称は使わない
フラットな組織づくりは、橋本さんが経営者として、とても重視していることです。
「うちは○○支配人、○○マネジャー、○○主任といった役職名での呼称は使わず、みんな○○さんのように呼びます。私のことも若手社員は普通に『明元さん』と呼びます。昔からの社員の中にはいまだに馴れず『専務』と呼ぶ人もいますが。よく偉くなると椅子が大きくなったりする会社もあると思いますが、うちではそのようなことはなく、社長室すらもありません。社長とも偉い人信号のようなものを発するのは止めようと話しています」(橋本さん)

(2)期待して任せるからできるようになる
王宮では、経験浅いスタッフであっても積極的に仕事を任せています。フラットな組織づくりには権限委譲が不可欠であると、橋本さんは強調します。
「権限委譲すれば、スタッフ一人ひとりが自分で考えたり、何かにチャレンジするようになります。仮にチャレンジして失敗しても責任を追及したり、それを減点したりすることもありません。失敗しても許されると聞いて、甘やかすと駄目になると考える人がいるかもしれませんが、失敗を許容するからこそ、チャレンジがしやすくなり、その経験が成功/失敗に関わらず本人にとって成長の糧となります。それに任せることでスタッフはその期待に応えたいという思いが強くなり、自発性が出てきます」(橋本さん)

任せることでスタッフはその期待に応えたいという思いが強くなるというのは、心理学の分野でよく知られる「ピグマリオン効果」と合致するものです。

※ピグマリオン効果
アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された教育心理学における心理的行動のひとつ。 人は、他者から期待されると、期待に沿った成果を出す傾向にあるという現象をさす。

「権限委譲がうまくいっているか否は社風を測る良い尺度だと思います。権限委譲ができないのはスタッフを信用していないからです」(橋本さん)

(3)ガラス張り経営
経営情報を社員に対してもオープンにする「ガラス張り経営」も、王宮のフラットな組織づくりの重要な要素です。
「月次決算のデータをはじめ、さまざまな経営情報・数値を公開しています。社員の給与に関わる人件費も固定費・変動費に細かく分けてオープンにしています。決算賞与もみんなで頑張った分(利益)を、みんなで均等に分けるようなやり方に変更しました」(橋本さん)

橋本さんは、故稲盛和夫氏が塾長を務めていた盛和塾の塾生でした。「ガラス張り経営」は、稲盛氏が重視した原則の1つです。稲盛氏のオフィシャル・サイトには、「ガラス張り経営」について以下のように説明されています。

ガラス張り経営の原則
従業員との信頼関係を構築するためには、受注がどれほどあり、それが計画からどれくらい遅れているのか、また利益がどれくらい出て、それがどのように使われているのかなど、会社の置かれている現況について、幹部だけではなく末端の社員にも、よく見えるような「ガラス張りの経営」でなければなりません。

また、トップ自身が率先垂範して公明正大な姿勢を貫くことで、人間として普遍的に正しいことを追求するという経営哲学が貫かれ、社内に風通しのよい職場がつくられていきます。

(出所)稲盛和夫OFFICIAL SITE
https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/manager/accounting/accounting07.html
「フラットな組織づくり」と「ガラス張り経営」の関係がよく分かる説明ですね。

4.いきいきを生む組織風土~オープンで、失敗が許容され、仲間をリスペクトする

王宮には、フラットな組織づくりを支える組織風土が醸成されています。

(1)オープンな組織風土~先輩が後輩を支援する「恩送り」
岡さん、崎島さんにインタビューしていて感じたのは、王宮のオープンな組織風土です。
「私が入社したときには、先輩が後輩をしっかりサポートし、何でも相談できるオープンな風土ができていました。仕事の合間のちょっとした雑談も含めて、スタッフ同士のコミュニケーションが密なので、自ずと後輩が何かあれば先輩に相談するようになります」(岡さん)

オープンな組織風土が先輩・後輩の壁をなくし、何かあれば後輩が先輩に相談したり、先輩が後輩をきめ細かくフォローできる関係性が構築されていると推察されます。

岡さん(6年目)と崎島さん(3年目)も普段は異なる職場で働いており、今回で会うのが3回目とのことでしたが、そうは思えないフレンドリーな雰囲気でした。ここにも王宮のオープンな組織風土が表れています。

こうした先輩・後輩の関係性について、橋本さんは「恩送り」という言葉で説明してくれました。
「新卒採用を始めた約10年前から、先輩が後輩をかわいがる文化(愛情を持って大切にする文化)を作りたいと思うようになりました。先輩が後輩をかわいがると、かわいがられた人は自分が先輩になったときに後輩をかわいがる。そういう「恩返し」ではない「恩送り」をしていくような組織にしたかったんです」(橋本さん)

橋本さんが切望した「恩送り」文化を、王宮の社員はしっかり体現しています。

(2)失敗が許容される文化
オープンな組織風土に関連して、王宮には失敗が許容される文化も定着しています。

「3.(2)期待して任せるからできるようになる」で橋本さんは、「チャレンジして失敗しても責任を追及したり、減点したりすることもありません」「失敗を許容するからこそ、チャレンジがしやすくなります」と述べていました。

失敗が許容される文化は、社員の声からも確認できます。
「新入社員の頃は、『ミスしたくない』『失敗が怖い』という不安がありました。実際、電話応対や接客でうまくいかいことも多く、失敗続きの日々でした。ただ、この職場はミスをしても叱られることはなく、同じ失敗を繰り返さないように次からどうするべきかを、支配人や先輩が一緒に考えてくださり、『次にこうするとよくなるよ』とアドバイスしてくれました。その指導のおかげで失敗を恐れずどんどん挑戦できるようになり、いろいろな経験を積み重ねることができました」(岡さん)

先輩となった今、岡さんは後輩に失敗を恐れず挑戦するようにアドバイスしています。
「私自身が挑戦することで成長できたので、後輩にも失敗を恐れず挑戦するようにアドバイスしています。後輩に『大丈夫、もし失敗したら私が謝罪するから』と言っています。あとは後輩が何かに挑戦したら、その行動後について、一緒に振り返り、次にどうしたらいいかを先輩からのアドバイスというよりも、フラットな関係で意見交換するようにしています」(岡さん)

(3)一緒に働く仲間をリスペクトする文化
オープンな組織風土、失敗が許容される文化に加えて、王宮には一緒に働く仲間をリスペクトする文化が醸成されているように感じます。

それを象徴するエピソードを崎島さんが披露してくれました。
「昨年のお盆のとき、大阪に台風が上陸しました。スタッフも出勤するのに一苦労したのですが、ホテルには飛行機の欠航で帰国できなくなったお客様が数多くいました。先が見通せず不安なお客様たちの様子を見て、一人の先輩スタッフが『夏祭りイベントしよう』と提案しました。そこで毎夕1つだけ館内で開催している日本文化体験イベントを、射的ゲームやスーパーボールすくいなど複数開催し、スタンプラリー形式にしてお子様も一緒に楽しめるようにしました。大変な状況にも関わらず、機転を利かせてお客様に楽しんでいただけるアイデアを提案できる先輩を見て、尊敬の念を抱くと同時に、王宮スタッフでいることをとても誇らしく感じました」(崎島さん)

第1回の記事で岡さんが、「自分一人ではなく、周りのみんなと一緒に仕事をしているという意識が強いです。互いにサポートし合い、何かあればみんなでアイデアを出し合いながら、共に成長し、一緒に誇りを持って働くことできています」と語っていたのも、一緒に働く仲間をリスペクトする文化の表れだと思います。

互いをリスペクトし、互いに刺激し合いながら、共に成長していく。こうした文化が組織のいきいきを生み出しているのでしょう。

以上、第2回では理念経営を支える組織づくりのポイントを、採用戦略、既存社員の活性化、フラットな組織づくりと組織文化の観点から整理しました。第3回では、「学び」が生まれる組織づくりについて掘り下げます。

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