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理念経営

「ホワイト企業大賞」表彰企業のいきいき組織づくり 【2】~理念経営を支える組織づくりのポイント (前半)

【カンパニープロフィール】
1970年に「道頓堀ホテル」を開業して以来、ホテル業を展開してきた株式会社王宮(本社:大阪府大阪市中央区)。現在ではブリッジホテルグループとして「道頓堀ホテル」をはじめ、「ザ ブリッジホテル心斎橋」「大阪逸の彩ホテル」「沖縄逸の彩ホテル」「天一ホール」を運営しています。約55億1千万円(2024年4月期)、従業員数約220名。

《経営理念》
誠実な商売を通して、心に残る想い出づくり
《ビジョン》
共に幸せと誇りを感じる会社
《私達の使命》
私達は日本と世界の架け橋になります

2023年度にはホワイト企業大賞として表彰された株式会社王宮様の“いきいき”を紹介する3回シリーズ。第2回では、理念経営を支える組織づくりを掘り下げたいと思います。

1.固定観念がない新卒者の「理念採用」

まず王宮の採用戦略に触れたいと思います。

「当社の場合、『日本と世界の架け橋になる』という使命に対する共感が最大の強みなので、採用においてもその部分を重視しています」(橋本さん)

※左:道頓堀ホテル入口にある印象的な「四体像」と橋本さん
※右:「四体像」は向かって左から東洋人、アフリカ人、アラブ人、西洋人を表現しており、世界中のお客様をおもてなししたいという道頓堀ホテルの想いがこもっている

企業理念に共感した人材を採用する採用方法は「理念採用」と呼ばれますが、王宮の場合、新卒者の「理念採用」を重視した採用戦略を推進してきました。

王宮では、2016年に「ザ ブリッジホテル心斎橋」、2017年に「大阪逸の彩(ひので)ホテル」、2020年 に「沖縄逸の彩ホテル」をオープンさせ、店舗の増加に伴いスタッフを補充・増員してきました。その際、業界経験者の中途採用よりも新卒採用を重視しました。

中途採用よりも新卒採用を重視した理由を橋本さんに説明してもらいました。
「新しいホテルのオープニング・スタッフについては、業界経験者の応募も多かったのですがあえて獲りませんでした。当社の場合、普通のビジネスホテルとは異なる戦略・ビジネスモデルで勝負しているので、『以前のホテルでは○○のようにやっていた』、『なぜビジネスホテルでイベントやるのか』といった固定観念があると逆に障害になるんです。そのため、固定観念がなく『日本と世界の架け橋になる』という使命に共感してくれる新卒者の採用を優先しました」(橋本さん)

2.「学生の志望動機を高める理念採用

今回インタビューした岡さん(入社6年目)、崎島さん(入社3年目)も王宮の理念(使命)に強く共感し、王宮への入社を決めました。

(1)日本と中国の架け橋になりたい
特に岡さんが王宮へ入社した理由はとても印象的なものでした。
「私は中国出身で中学生のときに日本に来ましたが、一時期、日本にも中国にも馴染めず自分の居場所がないように感じ、正直とても悩みました」(岡さん)

悩んでいた岡さんを救ったのは大学の友人の言葉でした。
「友人は『岡さんと一緒にいて中国に対する印象が変わった』と言ってくれました。そのとき、私の小さな力でも周囲を変えることができると感じました。同時に、中国人が日本に対して誤解していることも多いので、もっと日本のことを深く知ってほしいという思いも強くなりました」(岡さん)

こうして語学力を活かしながら、日本と中国の架け橋となるような仕事がしたいと就職活動を始め、そうした中で王宮と運命的な出会いをしました。
「ビジネスホテルといえば、チェックイン/チェックアウト業務が中心だと思っていましたが、さまざまなイベントやお客様とのコミュニケーション機会も多いと聞き、印象が変わりました。最終的には、専務(橋本さん)から『日本と世界の架け橋になる』という使命を聞いたとき、会社の使命と自分の思いが完全に一致したことに感動して、『もう絶対この会社に入ろう』と思いました」(岡さん)

(2)心の中のビジョンと会社の使命が合致
崎島さんにも入社の理由をお話いただきました。
「私の場合、英語が好きで、大学時代はカナダへの留学も経験しました。卒業後は語学や留学経験を活かせる仕事をしたいと思っていたのですが、タイミング悪くコロナ禍で海外との繋がりが難しい時期でした。また、就活スタートが他の学生に比べてかなり遅くなってしまいました」(崎島さん)

多くの企業が時期的に採用活動を終えていたり、採用を控えていました。そんな中で珍しくホテルで募集を行っていたのが王宮でした。
「コロナ禍でホテル全般が苦境に立たされている時期に、インバウンド対応のビジネスホテルが新卒者を募集しているのが気になり、会社説明会に参加しました。オンラインの説明会でしたが、こんな逆風の中でも『日本と世界の架け橋になる』という使命を画面越しで熱く語る専務(橋本さん)を見て、パッションの塊の人だなと感じました」(崎島さん)

会社説明会を通して、崎島さん自身の思いと会社の使命の重なりを見出すことができたようです。
「私は書道と茶道を習っていたのですが、留学中や海外からの留学生にそれを披露して気に入ってもらえた経験があり、日本のことを微力ながらも広められたらいいなという思いがありました。そんな心の中のビジョンが当社の使命と重なり、エントリーしようと思いました」(崎島さん)

岡さん、崎島さんの話には以下のような共通点があります。

・魅力的な理念(使命)を経営者(橋本さん)自ら熱く語ることで、王宮への志望動機が高まった。
・王宮の理念(使命)と自身の思い・ビジョンの重なりを見出せたことが入社を決意させた。

ご存知の通り、新卒採用市場は超売り手市場であり、多くの企業が採用難に直面しています。特に中小企業の場合、必ずしも志望動機が高い学生が会社説明会に参加するわけではありません。したがって、会社説明会や面接は、企業が学生を選ぶ場ではなく、企業が学生の志望動機を高める場であると位置づけることが不可欠です。

王宮の理念採用は、魅力的な理念の制定とその訴求が、優秀な学生(ぜひ獲得したい学生)を採用するための強力な武器となることを示唆しています。

3.既存社員の活性化

続いて、既存社員の活性化策です。理念経営を推進し始めた当初は、最初のステップとして既存社員への理念浸透が不可欠でした。

(1)幹部社員の巻き込み
既存社員に対する理念浸透のアプローチについて橋本さんに説明してもらいました。
「まず幹部から浸透させるようにしました。ただし、言葉で説明するだけでは伝わらないので、理念経営に成功している会社にお願いして、幹部と一緒に見学させていただきました。15社ほど訪問しました。実際の企業を見て、『こんな会社にしたい』と伝えると、幹部も『なるほど』と理解を示してくれるようになりました」(橋本さん)

まさに「百聞は一見にしかず」ですね。活性化している組織を自分の目で確かめることで、「どうなったら良いのか」「自分たちには何が不足しているのか」といったことが、幹部社員も具体的にイメージできるようになり、経営者の思いを理解しやすくなったと思われます。

また、橋本さんは幹部と一緒に、経営者向けの外部研修に参加したそうです。
「経営者向け研修って経営者だけが参加していることが多いのですが、私たちは幹部にも一緒に参加してもらいました。一緒に机並べて宿題をやったり、意見交換をしたりもしました。一緒に学んだことを、一緒に社内で活かそうという雰囲気ができあがりました」(橋本さん)

現在では、幹部が理念浸透の推進役となっています。最近、社員が持つ理念手帳をリニューアルしましたが、そこに記載された行動指針は幹部によって作成されたものです。

※左:リニューアルされた理念手帳、右:幹部が作成した新たな行動指針(一部)

(2)不満を抱く社員への対応
戦略を大きく方向転換したり、新たな理念を制定した場合、その変化に不満を抱く社員が少なからずいます。そうした不満を抱く社員を気にするあまり、新しい取り組みを躊躇している企業もあるかもしれません。

不満を抱く社員に対して、王宮ではどのように対応したのでしょうか。
「どのような会社でも、組織に不満を抱く社員はいると思います。社員向けの満足度の調査などでも、その結果で上位20%、中位60%、下位20%の3グループに分けることができます。その場合、上位20%を最優先で思い切り引き上げるようにします。そして、次に中位60%を引き上げるようにします。そうすると自ずと上位20%+中位60%が下位20%を引き上げてくれるようになります」(橋本さん)

ポイントは不満を抱く社員(下位20%)への対応よりも、やる気の高い社員(上位20%)への対応を優先するという点です。理念浸透で考えると、制定した理念に肯定的な上位20%の社員に対して最優先でアプローチし、次いで上位20%からの影響を受けやすい中位60%の社員にアプローチします。そこまで浸透させることができれば、取り組みに否定的であった下位20%に特にアプローチせずとも、上位20%、中位60%の社員が巻き込んで浸透するという流れです。

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