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人づくり・組織づくり

ネッツトヨタ南国株式会社様
全社員の「人生の勝利」をビジョンとする組織のいきいき【2】 一番大切なことを一番大切にする経営(前半)

全社員の「人生の勝利」をビジョンとする組織のいきいき(2) 一番大切なことを一番大切にする経営
【カンパニープロフィール】
高知に本店を置くトヨタ系自動車ディーラー。高知本店をはじめ3店舗を展開。日本全国のトヨタ販売会社(約280社)の中でお客様満足度No.1を12年連続して獲得しています。売上高63億円(2023年度)、従業員数約149名(2024年9月1日現在)。

◆経営ビジョン (展望)
私たちネッツ南国は、お客様、地域社会に唯一無二の価値を提供します。 それは、自動車にまつわる領域に限らず、お客様や地域の幸福を増進するためのあらゆる問題解決を提供していくこと。 「なくてはならない」と語り継がれ、社会に善い影響の輪を広げる組織として、揺るぎなく存在し続けます。 そしてその過程を通じて、全社員の「人生の勝利」を実現していくことを私たちのビジョンとします。

◆経営理念 (原則)
~全社員が人生の勝利者となるために~
1. 自然の摂理を尊重し、原理を踏まえた組織を目指す
2. 倫理と道徳を重んじ、人間性尊重の企業を目指す
3. 社員の主体性と調和で織りなされる、「和」の風土を目指す

◆行動指針 (こころ構え)
~明朗快活な社員が集い、進化し続ける愉快な会社であるために~
ビジョンを経営理念に基づき実現するために、次の3つの指針に添って言動態を選択します
1. 真のお客様サービスを創造、実践します
2. 「考える、発言する、行動する、省察する」の成長サイクルを回し続けることで、社員が互いに人間性を磨き合い、人間としての器を大きくします
3. 志を同じくするパートナー企業と強く深く連携し、社会の繁栄に貢献するための協働を推し進めます

全社員の幸せを掲げ、「人財育成」に全力を投入しているネッツトヨタ南国様の“いきいき”を紹介する2回シリーズ。第2回では、採用、動機づけ、自ら考える社員の育成といった人財マネジメントを掘り下げたいと思います。創業者であり、独創的な経営で同社の礎を築いた元代表取締役社長(現取締役相談役)の横田 英毅さんの人財マネジメントは、目から鱗が落ちるようなポイントも多いのではないかと思います。

第1回と同じく、ネッツトヨタ南国様では「人材」ではなく「人財」という表現を大切にしているので、同社の取り組みを示す場合には「人財」、一般企業の取り組みを示す場合には「人材」という表現を使い分けます。

(インタビューへのご協力)

ネッツトヨタ南国株式会社 取締役相談役 横田 英毅さん

※ネッツトヨタ南国株式会社 取締役相談役 横田 英毅さん

1.価値観の合う人財を重視する採用活用

ネッツトヨタ南国といえば、採用を重視する会社としても知られています。

(1)採用活動が一番大切
横田さんにとって、採用活動は会社設立時から一丁目一番地の経営課題でした。
「最初から採用は一番大切だと思っていました。会社をスタートさせた最初の10年間は(経営者である横田さん自身が)採用活動の第一線の仕事をしていました。同業他社でいうと、人事の課長さんあたりがやっている仕事を、私の持ち時間の半分以上費やしていました」(横田さん)

「自分たちの経営理念に合致する人を採用するというのが採用の基本的なスタンスです。どこの会社も優秀な人材を採用しようとします。でも、自分たちと同じ価値観の人を採用しようという考える会社はあまりない」(横田さん)
企業理念に共感した人材を採用する採用方法は、近年では「理念採用」と呼ばれますが、「理念採用」が注目される以前から、理念への共感を採用基準としていた横田さんの先見の明に感心します。

人材獲得(採用)を重要課題に挙げる企業は数多くあります。しかしながら、(言行一致という意味で)採用に本当に力を入れている会社は少ないと横田さんは断言します。
「採用活動は業績を上げていくことのずっと奥にある話です。今すぐ売上を上げたい場合、採用活動は一番遠いところにある仕事なんです。『採用は大切じゃないんですか』と聞いたら、多くの経営者は『それが一番大切です』と言います。ところが、ほとんどの人が一番大切なことを大切にしていないんです。言行不一致ですね。一番大切と言いながら、ついつい売上に直結しやすい仕事を優先してしまう」(横田さん)

採用という一番大切なことを一番大切にする、というブレない姿勢が横田さんの経営者としての強みかもしれませんね。

採用が一番大切

(2)働きがいを求める人を採用する
ネッツトヨタ南国といえば、新卒採用の面接において、多い学生で一人当たり 200 時間程度かけることでも知られています。

採用面接に多くの時間を費やす理由を説明してもらいました。
「採用のとき、将来的に仕事が好きになりそうな人を見つけるということを、知らず知らずのうちにやっていました。そのために何度も何度も会社に呼ぶんです。自分の一生を真剣に考える。そういうタイプの人は、何度呼んでも来ますよね。反対に、『あの会社、しょっちゅう呼ばれて面倒くさい会社だな』と思う人は来なくなります」(横田さん)

就活生を何度も会社に呼ぶ

就活生に対する自社の魅力の訴求もユニークです。
「就活生の中には、初任給の金額や休みの日数だけを比べて、そこで見劣りする会社は会社訪問もしないという人もいます。当社ではそこで初任給を同業他社より高くしたり、休みの日数を多くしたりといったことはしません。また、会社訪問のときも、先輩社員が『うちの会社、仕事はしんどいよ』と言うんです。そうなると、それ以外のところに魅力がないと、会社の魅力ゼロになってしまう。その魅力が働きがいや、社員がみんな笑顔で働いているといったところになるのですが」(横田さん)

「どのような学生が自社で活躍できるのか、うれしく働けるのか」というポイントが明確だからこそ、このような採用活動ができるのだと思います。また、先輩社員が「うちの会社、仕事はしんどいよ」と会社・仕事のリアルな姿を開示する取り組みは、一般に「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」と呼ばれ。入社後のミスマッチ防止に有効とされます。
※「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP:Realistic Job Preview)」
入社前に自社のポジティブな情報だけでなくネガティブな情報も公表すること。希望もあるが厳しさもある会社・仕事のリアルな姿を開示すること。入社後のミスマッチ発生による早期離職の予防策として期待されている。

ネッツトヨタ南国の採用戦略を、第1回でも説明した「問題対処」と「問題解決」の視点から解説してもらいました。
「採用を問題対処的に考える採用担当者であれば、同業他社よりも給料を高くして休みを多くして、良い人材を採用しようとするでしょう。しかしながら、そうすると、仕事をしたくない人や、楽して給料をたくさんもらいたいような人が集まってしまう。問題解決的に考えれば、給料や休みで会社を選ぶ人ではなく、働きがいや自身の成長などを求めて会社を選ぶ人を採用したいわけです。ですから、給料や休みではなく、働きがいをアピールできるようにしています」(横田さん)

一番大切な採用活動について、問題対処ではなく問題解決するからこそ、このような取り組みになるのですね。とても腹落ちします。

働きがいを求める人を採用する

2.内発的動機づけによる人財マネジメント

前述の採用活動や次項で述べる社員育成など、ネッツトヨタ南国の人財マネジメントのベースには「内発的動機づけ」があるように思われます。
※「内発的動機づけ」
「楽しみたい」「やりたい」といった、個人の内的な欲求が自発的な行動を引き起こすモチベーションをさす。報酬や評価、罰則や懲罰といった、外部からの働きかけによるモチベーションである「外発的動機づけ」と対比される。アメリカの心理学者エドワード・デシが1970年代に提唱した。

内発的動機づけによる人財マネジメント

横田さんは、外発的動機づけに基づく人材マネジメントの弊害を指摘します。
「働きたくない人を、上手に働かせるために、どうしたらよいかという考え方に基づいた人材マネジメントが多いように思います。昇給や昇進昇格を餌に一生懸命に仕事するように仕向ける、外発的動機づけによるマネジメントですね。人をより働かせるための仕組みともいえます。ただし、外発的動機づけで操られて仕事をしていても、働く楽しさや働きがいを感じることはできません。だから、私は社員をとにかく自由にする、ということを常に考えています」(横田さん)

ただし、ここでいう「自由」とは、何でも自分の好き勝手にやっていいという意味ではありません。
「こうしたら給料をたくさんもらえる、管理職に昇格できる。こうしたら褒められる、その逆をやったら叱られるというのは、自由じゃない世界の話です。当社の社訓に『アマチュアは、自分の好きな事を好きな時に好きな場所で我流でやればよい。プロは、他人の好むことを他人の決めた時間や場所で決められた方法でやる。その代わりにプロには報酬があり、アマにはない』というものがあります。過渡期にはこの社訓をベースにどのような行動が最善なのか考えてもらう。そして、最終的には社員が自分のやりたいことをやりたいようにやったら、お客様のニーズにぴったり合致したというふうになれば一番いいかなと考えています」(横田さん)

(出所)ネッツトヨタ南国株式会社 社内資料より

(出所)ネッツトヨタ南国株式会社 社内資料より

動機づけ理論の観点から説明すれば、この「社員の自由」こそが「内発的動機づけ」につながると思われます。ただし、社訓9や横田さんの言葉を踏まえると、「内発的動機づけ」のみならず、他者貢献で動機づけられる「プロソーシャル・モチベーション」も考慮されているように思われます。
※「プロソーシャル・モチベーション(PSM:prosocial motivation)」
「他者視点のモチベーション」であり、誰かのために何かをしたときに、相手が喜んでくれたこと(他者に貢献すること)が動機づけとなる。

「内発的動機づけ」と「プロソーシャル・モチベーション」の組み合わせの効果には裏付けもあります。気鋭の組織心理学者であり、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のアダム・グラントは、「プロソーシャル・モチベーション(PSM)と内発的動機がともに高いレベルにあると、互いが補完し合って、その人の高いパフォーマンスにつながる」と動機づけに関する論文で述べています。
(参考)『世界標準の経営理論』(入山 章栄 著、2019年、ダイヤモンド社)

あるいは「社員が自分のやりたいことをやりたいようにやったら、お客様のニーズにぴったり合致した」というのは、
仏教用語である「自利利他」で説明できるかもしれません。「自利利他」とは、自己と他者は深いレベルで連関しており(自己と他者の境界は曖昧であり)、自利と利他を区別せずに両者が一体となって成就するという考え方です。すなわち、社員のやりたいことと、お客様が喜ぶことは深いレベルで連関しており、両者が一体となって社員の自由の実現をもたらすというものです。

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