人とビジネスのいきいきをデザインする

ウェルビーイング

ウェルビーイング×いきいき(2)~ウェルビーイングの多様なカタチ

「人とビジネスのいきいき」の視点から「ウェルビーイング」について考える3回シリーズ。第1回はウェルビーイング経営とは何かを明らかにしながら、その推進を推奨しました。第2回は、ウェルビーイングの多様なカタチについて述べたいと思います。

1-1.ウェルビーイングは主観的

第1回でも述べたように、「ウェルビーイング(well-being)」とは、心身ともに健康で、かつ社会的にも満たされた状態を指す概念です。しかし、従業員のウェルビーイングを把握することは簡単ではありません。なぜならば、ウェルビーイングは主観的なものだからです。
具体例で考えてみましょう。

(例)人によって幸せのイメージは異なる

Aさんの幸せのイメージは、「自分の好きなことを極めること」です。
→仕事の内容が大事

Bさんの幸せのイメージは、「自分の仕事が評価され、それに見合った処遇を受けること」です。
→仕事の評価・処遇が大事

Cさんの幸せのイメージは、「家族と一緒に安定した生活を送ること」です。
→雇用の安定、ワークライフバランスが大事

このようにウェルビーイングのカタチは人それぞれであり、多様なウェルビーイングを客観的な尺度で測定しようとする難しさがあります。その意味では、第1回でも紹介した「世界幸福度ランキング」のようなものを、あまり気にしすぎる必要はないのかもしれません。

1-2.収入とウェルビーイングの関係

2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者、行動経済学者であり、プリンストン大学名誉教授のダニエル・カーネマンは、2010年の論文で「年収800万円付近を境にそれ以上収入が増えても幸福度は変わらない」ことを明らかにしました。
収入があるレベルを超えると幸福度が頭打ちになる傾向は、第1回でも紹介した、内閣府「満足度・生活の質に関する調査」でも確認できます。
幸福度が頭打ちになる収入ラインをどのレベルに設定するかは、企業により異なってくると思いますが、従業員のウェルビーイング向上のためには、収入と収入以外の両面から検討する必要があります。
また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増えたことは、働く環境やワークライフバランスについて考える機会を与え、一人ひとりの主観的な幸福感に影響を与えた可能性があります。

1-3.ウェルビーイングの3分類

従業員のウェルビーイングは多様ですが、ウェルビーイング経営を実践するためには、いくつかのタイプに分けて考えた方が取り組みやすくなります。
(1)医学的ウェルビーイング
医学的に心身の機能が不全ではないか、病気ではないかを問うものです。従業員のウェルビーイングを「いきいき働く」というイメージで捉えるならば、いきいき働くための土台として、医学的ウェルビーイングが必要となります。医学的ウェルビーイングは、健康診断やストレスチェックなどを通じて測定可能です。その意味で、客観的なウェルビーイングであると説明できます。
(2)快楽的ウェルビーイング
職業生活のなかで生じる快/不快といった主観的感情に関するものです。「楽しい」「嬉しい」「好き」「面白い」「安らぐ」などのポジティブ感情が生じていればよい状態です。ポジティブ感情が生じることで、いきいき働くことができます。さらに、いきいき働いたことでポジティブ感情が湧いてくるという増幅効果もあります。
(3)持続的ウェルビーイング
一時的な感情ではなく、持続的な状態から主観的なウェルビーイングを捉えるものです。具体的には、職業生活のなかで能力を存分に発揮している、仕事にやりがいを感じている、仕事を通じて成長している、自分が望むキャリアを歩んでいる、周囲の人とよい関係を構築しているといった状態がイメージされます。

2.ウェルビーイングの構成要素

2-1.PERMAモデル(マーティン・セリグマン)

ポジティブ心理学の創始者、マーティン・セリグマンは、ウェルビーイングの構成要素として「PERMA(パーマ)モデル」を提唱しています。

1.Positive(ポジティブ感情 「楽しい」「嬉しい」などのポジティブ感情
2.Engagement(エンゲージメント) 時が経つのを忘れてしまうほど仕事に没頭する経験
3.Relationship(関係性) 他者との良好な関係
4.Meaning(意味・意義) 人生の意味や仕事の意義
5.Accomplishment(達成) 適切な目標設定とその達成の積み上げ(達成感)

この5つの要素は、1-3で述べた快楽的ウェルビーイング、持続的ウェルビーイングの領域と重なるものです。

2-2.PERMA以外の要素

ただし、PERMA以外にもウェルビーイングの構成要素があるように思われます。1-3で述べた医学的ウェルビーイング(心身の健康)や、1-2で述べた収入面からのウェルビーイング(便宜的に「経済的ウェルビーイング」と呼びます)が該当します。
経済的ウェルビーイングを広く解釈すれば、雇用の安定も含まれるかもしれません。また、ここで挙げた心身の健康、一定以上の収入、雇用の安定という要素は、客観的に測定しやすい客観的ウェルビーイングであるといえます。

2-3.マズローの欲求5段階説とウェルビーイングの構成要素

2-1、2-2で述べたウェルビーイングの構成要素の関係は、「マズローの欲求5段階説」に対応させると整理しやすくなります。

(参考)「マズローの欲求5段階説」
アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが提唱した理論。人間の欲求を段階的なピラミッド構造で示したモデル。
①生理的欲求(生命維持に関わる欲求)
②安全の欲求(心身ともに健康で、経済的に安定したいという欲求)
③社会的欲求(集団に帰属し、受け入れられたいという欲求)
④尊厳(承認)欲求(他者から認められたい、尊敬されたいという欲求)
⑤自己実現欲求(自分らしく生きていきたい、理想の自己に近づきたいという欲求)

このように整理すると、「医療的ウェルビーイング」「経済的ウェルビーイング」という土台の上に、「快楽的ウェルビーイング」「持続的ウェルビーイング」が成り立っていると説明できます。ただし、これらは一方向の関係ではなく、「快楽的ウェルビーイング」「持続的ウェルビーイング」が向上することで、「医療的ウェルビーイング」「経済的ウェルビーイング」が向上するという流れもあります。

3.「みんなのウェルビーイング」の実現

3-1.文化的価値観とウェルビーイング

これまでと違った角度から、ウェルビーイングのカタチを考えたいと思います。
主観的ウェルビーイング研究で知られるポジティブ心理学者のエド・ディーナーらは、2018年発表の論文で、文化的価値観の違いによるウェルビーイングの違いについて述べています。
それに基づけば、アメリカ人は幸福について、「自分の能力によって幸福がもたらされる(獲得型幸福)」と考える人が多いのに対して、日本人や中国人は「運によって幸福がもたらされる(運勢型幸福)」と考える人が多いと結論づけています。
心の深層に仏教のDNAが宿っているであろう日本人には、全ては縁があって起こる「縁起(えんぎ)」の考え方が染み付いているのかもしれません。

3-2.ウェルビーイングの「主語」は誰か

3-1で獲得型と運勢型というかたちで、日米の幸福感の違いを述べました。この違いをウェルビーイングの「主語」という視点から、さらに深めたいと思います。自らの力で幸福を掴む獲得型幸福は、自分を主語にした「私のウェルビーイング」といえます。一方、他力による幸福という側面が強い運勢型幸福では、周囲との調和も重んじられ、必ずしも「私」という主語が強調されるわけではありません。むしろ、「みんなのウェルビーイング」という感覚かもしれません。
近代日本を代表する哲学者、西田幾多郎の「述語の論理」に基づけば、主語は省いても不自然ではない日本語の世界では、「私が幸せである」ことよりも、(誰であろうと)「幸せである」ことが重要であるとなります(主語よりも述語が重要)。

3-3.「自利利他」と「みんなのウェルビーイング」

コロナ禍での他者への不寛容が指摘されているなかで、「利他」の考え方が注目を集めています。「利他」とは、自己の利益(=自利)よりも、他者の利益を優先する考え方です。
「利他」という言葉を最初に用いたのは、真言宗の開祖、空海だといわれています。空海は「自利利他」という言葉を用いて自利と利他の関係を示しています。
「自利利他」とは、利他的な行いが、結果として自利をもたらすという考え方ではありません。自己と他者は深いレベルで連関しており(自己と他者の境界は曖昧であり)、自利と利他を区別せずに両者が一体となって成就するという考え方です。まさに「みんなのウェルビーイング」といえます。

以上を踏まえると、私たち日本人がウェルビーイングを考える際には、「私のウェルビーイング」に加えて、「みんなのウェルビーイング」も考慮すべきかもしれません。自己実現(自利)と他者貢献(利他)をうまく融合させることが、従業員にとっても、企業にとっても「みんなのウェルビーイング」につながるのではないでしょうか。

3-4.十人十色のウェルビーイングに配慮する

これまで述べてきたように、ウェルビーイングは主観的かつ多様です。従業員の数だけ十人十色のウェルビーイングのカタチがあります。したがって、ウェルビーイング経営に取り組む際には、画一的なウェルビーイングのカタチを描くのではなく、多様なウェルビーイングのカタチを許容することが大切です。
また、3-1で述べたように、文化的価値観の違いにより、ウェルビーイングについての志向にも違いが出てきます。その意味では、組織サーベイなどで自社の組織文化を把握しておくことも必要かもしれません。
多様なウェルビーイングが共存できる、ウェルビーイングな組織づくりについては、第3回で取り上げたいと思います。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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