インナーブランディング 2025.2.27 いきいき組織づくりのキーワード 「インナーブランディング」 #アウターブランディング #エンゲージメント キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「インナーブランディング」です。 目次1.「インナーブランディング」の定義2.マーケティング視点での「インナーブランディング」2-1. 「ブランディング」とは2-2. 「インナーブランディング」と「アウターブランディング」2-3. ブランド価値、インナーブランディング、アウターブランディングの関係3.いきいき組織づくり視点での「インナーブランディング」3-1. 理念経営とインナーブランディング3-2. インナーブランディングの成功の鍵は「従業員の共感・共鳴」3-3. インナーブランディングのメリット3-4. インナーブランディングのデメリット 1.「インナーブランディング」の定義 近年、「インナーブランディング」という言葉をよく耳にするようになりました。 インナーブランディングとは、「企業理念やブランド価値を従業員に浸透させ、その理念や価値に相応しい行動を徹底すること」と定義できます。 インナーブランディングは、元々マーケティングの文脈から生まれてきた概念ですが、近年では理念経営の実現のためにインナーブランディングに取り組む企業が増えています。後者の取り組みは、いきいき組織づくりに直結するものです。 ここではマーケティング視点での「インナーブランディング」、いきいき組織づくり視点での「インナーブランディング」について、それぞれ説明していきます。 2.マーケティング視点での「インナーブランディング」 まずマーケティング視点での「インナーブランディング」です。この場合、「ブランディング」「インナーブランディング」「アウターブランディング」という3つの用語を整理することで、理解しやすくなります。 2-1. 「ブランディング」とは ブランディング(branding)とは、「ブランド(brand)」が現在進行形となった言葉です。 「ブランド=企業・製品のイメージ」と理解している人も多いかもしれません。確かに、「アップル=スタイリッシュ」「ルイ・ヴィトン=高級ブランド」のように、私たちはブランド名を聞いた途端、それに付随するイメージを想起します。 しかしながら、あるブランドに対してどんなに良いイメージを抱いていても、実際のブランド体験が期待を下回るものであれば、一瞬にして良いイメージが崩れていきます。企業の側から見れば、ブランドの毀損となります。顧客に対して、いくら望ましいイメージを形成しても、その期待を有限実行できなければ、顧客は不満を抱き、離れていきます。 そのため、ブランドに対する信頼を維持・向上させるためには、望ましいブランド・イメージの形成のみならず、実際にイメージ通りの価値を提供する(=有限実行する)ことが不可欠となります。このように継続的なブランドに対する信頼の維持・向上のために、ブランドに関わる現在進行形の活動としての「ブランディング」が必要となります。 ここではブランディングを「ブランドが利害関係者に提供する価値を約束し、それを有言実行すること」と定義しておきます。この定義は、「ブランドが有言実行できる価値を利害関係者に約束すべき」であることを示唆しています。反対に、いくらブランド・メッセージが魅力的であっても、それを有言実行できなければブランド価値は毀損されます。 まだまだ「ブランディング=イメージづくり」という理解の人が多いように思いますが、「ブランディング=約束の有言実行」ということを強調しておきます。「ブランディング」は単なるイメージづくり、メッセージ発信ではなく、約束を有言実行できるか否かが重要なのです。 2-2. 「インナーブランディング」と「アウターブランディング」 続いて、「インナーブランディング」と「アウターブランディング」について確認します。 それぞれブランディングの前に、「インナー(内的)」「アウター(外的)」が付加された用語です。それぞれ日本語で表すと、インナーブランディングは「従業員向けブランディング」、アウターブランディングは主に「顧客向けブランディング(※)」のようになります。 ※ アウターブランディングは、厳密には顧客以外に取引先、投資家等も含む外部利害関係者向けのブランディングであるが、その中心は顧客であるため、便宜上、ここでは「顧客向けブランディング」として取り上げる。 「ブランディング=顧客向けの活動(アウターブランディング)」というイメージの人もいるでしょう。実際、伝統的にブランディングといえば、顧客向けの活動が中心でした。やがて、サービス業などで「顧客満足の向上のためには全従業員が一丸となって顧客サービスの向上に努めるべき」といった考え方が広まり、それと共に従業員向けのブランディングである「インナーブランディング」が注目されるようになりました。 インナーブランディングの考え方が広まる中で、それと対比されるかたちで従来の顧客向けのブランディングは、「アウターブランディング」と呼ばれるようになりました。 2-3. ブランド価値、インナーブランディング、アウターブランディングの関係 ブランド価値、インナーブランディング、アウターブランディングの関係を考えてみましょう。ここでの「ブランド価値」とは、ブランドが利害関係者に提供を約束する価値と理解してください。 上記の図に基づき、インナーブランディング、アウターブランディングを説明します。 「インナーブランディング」 自社のブランド価値を従業員に浸透させ、ブランドに相応しい行動を徹底する(①、②)。特に②で従業員の有言実行を確保するためには、マニュアル等に頼るのではなく、従業員のブランド価値に対する共感・共鳴による自発的・自律的行動の促進が求められる。 「アウターブランディング」 インナーブランディングが確保され、従業員がブランドに相応しい行動を徹底すれば(②)、顧客は従業員の行動を通してブランド価値を体感できる(③)。そのため、インナーブランディングが確保されれば、自ずとアウターブランディングも強化しやすくなる。 このように、インナーブランディングの強化が、アウターブランディングによる顧客満足の向上につながります。反対に、アウターブランディングによる顧客満足に寄与することが、従業員満足を向上させ、インナーブランディングを強化させます。このようにインナーブランディングとアウターブランディングの有機的連携がブランディングには求められます。 3.いきいき組織づくり視点での「インナーブランディング」 続いて、いきいき組織づくり視点での「インナーブランディング」です。 前述のように、インナーブランディングはマーケティング(特にサービス・マーケティング)の文脈から生まれた概念です。しかしながら、2-3で示した図のブランド価値を「ブランド価値≓企業理念」のように捉えることで、近年では理念経営の文脈でインナーブランディングが検討されることが多くなりました。 3-1. 理念経営とインナーブランディング 理念経営とは、パーパス、ミッション、ビジョン、バリューなどの経営理念を重視する経営手法です。魅力的な経営理念を策定し、それを従業員に浸透させ、理念に相応しい行動を確保しようとするものです。 組織に元気がないと感じる経営者が、経営理念を求心力として、組織の活性化を図る目的で理念経営に取り組もうとするケースが増えています。一方で、経営理念を策定しても、それが従業員に浸透しないという課題を抱える企業も数多く存在します。 中小企業庁『2022年版 中小企業白書』では、(株)東京商工リサーチが実施した「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」の調査結果から、経営理念に関する中小企業の実態を整理しています。同調査によれば、経営理念・ビジョンに対する従業員の受け止め方や反応について、経営理念・ビジョンについて従業員が理解している企業は8割以上になるが、従業員の自律的な行動にまで結びついている企業は5割を下回っている、というのが中小企業の実態です。この結果は、経営理念が形骸化している企業が少なくないことを示唆しています。 そこで必要となるのがインナーブランディングです。「企業理念の策定→従業員への浸透→理念に相応しい従業員の自律的行動」という理念経営の進め方は、1-3で示したインナーブランディングの進め方そのものです。特に、「経営理念が従業員の自律的な行動にまで結びついていない」という課題解決の手段として、インナーブランディングへの取り組みが注目されています。 3-2. インナーブランディングの成功の鍵は「従業員の共感・共鳴」 「経営理念が従業員の自律的な行動にまで結びついていない」という課題解決の手段としてのインナーブランディングを考えた場合、その成功の鍵は「従業員の共感・共鳴」です。 以下に、「従業員が経営理念を共有するのみ」の状態と、「従業員が経営理念に共感・共鳴している」状態を比較します。 「従業員が経営理念を共有するのみ」の状態 従業員は「会社が決めたこと」だから、経営理念に相応しい行動を有限実行することになります。従業員は自らの意思にかかわらず、企業から行動を強いられることになり、有言実行が表層的になるおそれがあります(偽りの「有言実行」)。 「従業員が経営理念に共感・共鳴している」状態 従業員は「自分が共感・共鳴している」から、経営理念に相応しい行動を有限実行することになります。従業員は自らの意思で進んで有限実行します(真の「有限実行」)。 インナーブランディングを成功させるためには、従業員を「縛る」のではなく、共感・共鳴に基づき「解放」することが大切です。 そのためには、経営理念を策定してから、従業員の共感・共鳴を促すのではなく、最初から従業員の共感・共鳴を念頭に置いた経営理念を策定する、という発想が求められます。 3-3. インナーブランディングのメリット こうした共感・共鳴に基づくインナーブランディングには、いきいき組織づくりの観点で考えた場合、以下のような効果(メリット)を期待できます。 (1)従業員エンゲージメントの向上 多くの企業で従業員エンゲージメントの向上による人材流出の防止(離職防止)が経営課題となっています。従業員が企業理念に共感・共鳴している状態は、企業と従業員の相思相愛を示すものです。そのためインナーブランディングの実現は、従業員エンゲージメントの向上に寄与します。 (2)従業員の働きがいの向上 企業理念への共感・共鳴に基づく従業員の自律的行動は、企業理念の体現を実感しやすくなると同時に、その行動で顧客満足を高めやすくなります。その結果、「自社らしい行動に誇りを感じる」「自分は会社に貢献できている」「お客様に喜んでもらえて嬉しい」等の体験を得やすくなります。そうした体験が働きがいの向上につながります。 (3)組織の一体感の醸成 インナーブランディングが浸透してくると、同じ価値観への共感・共鳴をベースとして、組織の一体感を醸成しやすくなります。そうした一体感が、お互いに助け合う文化の醸成や部門間連携の促進などにも寄与することが期待されます。 インナーブランディング(理念経営)の事例を紹介しておきます。 ウェルネス・コミュニケーションズ株式会社 様 ~社員が自ら参加し、議論し、策定した、企業理念<パーパス>の効果 https://tantaviva.com/case-study/case009/ 3-4. インナーブランディングのデメリット その一方で、以下のようなデメリットも考慮する必要があります。 (1)経営理念の浸透には一定期間を要する インナーブランディングを実現させるためには、経営理念に対する従業員の「理解→共感→行動→定着」というプロセスが必要であり、これには一定の期間を要します。 (2)価値観が合わない従業員の離職 従業員の価値観は多様であり、すべての従業員が自社の経営理念に共感するとは限りません。そのため、経営理念に共感できない従業員は経営理念の徹底に居心地の悪さを感じ、離職してしまうかもしれません。 以上、共感・共鳴に基づくインナーブランディングのいきいき組織づくりへの貢献について述べてきました。 あなたの会社も、従業員を解放するインナーブランディングで、組織のいきいきを取り戻しませんか。 (著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)