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知的資産

いきいき組織づくりのキーワード 「知的資産の見える化」

キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「知的資産の見える化」です。

1.「知的資産の見える化」とは

1-1. 「知的資産」の定義

「知的資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。

知的資産は、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方であることに注意が必要です。

経済産業省の知的資産経営ポータルでは、以下のように知的財産権、知的財産、知的資産、無形資産の違いを示しています。

「知的資産」の定義

(出所)経済産業省HP 知的資産経営ポータル
https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/teigi.html

1-2. 知的資産の具体例

知的資産を具体的に確認しましょう。

大きく分けると、「経営力」「組織力」「組織文化」「人材」「技術」「ブランド」「ネットワーク」「ノウハウ」「アイデア」「知的財産権」等をイメージするとよいでしょう。

知的資産のイメージ

さらに知的資産を細分化し、特にいきいき組織づくりへの貢献が大きいと思われるものを挙げておきます。

いきいき組織づくりに貢献する知的資産
経営理念 企業経営の根幹となる考え方(パーパス、ミッション、ビジョン、バリュー等)
企業DNA(自社らしさ) 長年の歴史・企業活動の中で培われてきた自社らしさ
組織文化 組織のメンバー間で共有されている価値観、行動原理、思考様式
経営者のリーダーシップ 経営者が内外のステークホルダーに与えるプラスの影響力
経営者の思い 経営理念等では拾いきれていない経営者の哲学・思いなど
社員のスキル・ノウハウ 社員が属人的に有しているスキル・ノウハウ
社員の思い・情熱 社員のパフォーマンスの原動力となる思い・情熱
顧客等からの感謝・支援 顧客等からの感謝された体験や支援・助言された体験

(補足)知的資産としての「顧客等からの感謝・支援」
上記のうち、最後の「顧客等からの感謝・支援」は少しイメージしづらいかもしれないので、補足しておきます。

たとえば顧客と接する営業職の社員であれば、顧客から直接「ありがとう」「大変助かります」といった感謝の言葉をかけられたり、相手の支援・助言で助けられたという体験を有していることでしょう。これを担当営業の個人的体験に留めるのではなく、全社レベルで共有するものです。

企業のなかでも生産部門や開発部門で働く社員は、経営理念などで「お客様のために」「お客様を笑顔に」といったことを求められても、顧客と直接接する機会がほとんどなく、顧客との繋がりを意識することが難しいかもしれません。しかしながら、営業が体験した顧客からの感謝の言葉等が生産部門や開発部門まで還元されれば、顧客の存在を意識しやすくなります。その結果、「お客様のためにより良い仕事をしよう」という思いが芽生えることを期待できます。ここに顧客からの感謝・支援の知的資産としての価値があります。

顧客の例で説明しましたが、それ以外に仕入先、提携先、地域社会等からの感謝・支援も含まれます。

1-3. 知的資産の見える化

1-1で述べたように、知的資産は企業の競争力の源泉であり、自社の強みとなるものです。その一方で、目に見えない資産であるため、経営者や社員もそれを認識していなかったり、何となく認識しているがきちんと説明できないといったケースも多く見られます。

そこで自社の知的資産の棚卸しである「知的資産の見える化」が必要となります。

経営者・社員も自社の見ない資産を認識・説明できない?

「知的資産の見える化」は、既に保有している自社の強みを可視化するものであり、一定の労力を要するものですが、新たに資産を形成したり、既存資産を強化することに比べれば、ハードルが低く、成果に結びつきやすい取り組みであると説明できます。

2.「知的資産の見える化」のメリット~いきいき組織づくりの観点より

「知的資産の見える化」のメリット(効果)について整理します。

知的資産の見える化は、資金調達、販路開拓、既存顧客との関係強化など幅広い効果を期待できますが、ここではいきいき組織づくりへの貢献にフォーカスして言及したいと思います。

「知的資産の見える化」の効果(いきいき組織づくりへの貢献)

2-1. 従業員エンゲージメントの向上

社員の立場で考えると、知的資産の見える化は「自社の魅力の再発見」と位置づけることができます。社員が自社の魅力を再発見することで、働きがいの高まり、愛社精神の醸成によるエンゲージメントの向上を期待できます。

2-2. 組織の一体感の醸成

知的資産の見える化は、社内で新たな“共通言語”が生まれることを意味します。共通言語が生まれることで、社員同士のコミュニケーションが円滑になり、相互理解が深まります。また、共通言語を全社共有することで、全員が同じ方向に向かって進むことができ、組織の動きが一体感を持つようになります。たとえば、部署間でのコミュニケーションで希薄であった組織であれば、部門間の交流の活発化や相互理解の促進、部門の枠を越えた連携やプロジェクト推進などを期待できます。

2-3. 社員の自律的行動の促進

知的資産の見える化は、社員の自社理解を深める契機となります。そのことで、一人ひとりの社員が「自社の強み・魅力を自分の仕事にどう活かすか」を考え、行動しやすくなります。これは社員の主体性・自律性の高まりと、自社らしい行動確保の同時実現につながります。さらにその先には、自社らしい創造力の発揮も期待できます。中長期視点でみれば、リーダーの育成や次世代への継承にもつながります。

社員の自律的行動の促進

3.「知的資産の見える化」の進め方

知的資産の見える化の具体的な進め方を整理します。ここでは企業DNA(自社らしさ)の見える化を想定して説明します。

3-1. Step1:目的の明確化、対象の決定

最初のステップとして、「何のために知的資産の見える化が必要なのか」という目的を明らかにしましょう。目的が明らかになれば、「そのために何を(どの知的資産を)見える化すべきか」が導かれます。

(例)「企業DNA(自社らしさ)の見える化」の目的
「企業が大切にしてきた価値観を次世代にも継承したい」「言語化されていない自社らしさを言語化したい」「採用において自社の魅力が応募者に伝わらない」等

3-2. Step2:情報源・収集方法の決定

第2ステップとして、見える化の対象となる知的資産の情報源・収集方法を決めます。

(例)「企業DNA(自社らしさ)の見える化」の情報源・収集方法
3つの情報源・収集方法を想定してみましょう。

(1)既存資料
社史、社内報、パンフレット、メディア掲載、経営者の講演・講話等の過去の社内・社外資料から「自社らしさ」を抽出します。既存資料の中から自社らしさにつながる出来事やキーワードを抽出できるかもしれません。

(2)経営者・社員へのインタビュー
経営者や社員に対してインタビューを実施します。しかしながら、直接的に「自社らしさ」を質問しても回答しづらい可能性があります。その場合には、経営者・社員の価値観・思考・行動に影響を与えたであろう原体験(エピソード)を語ってもらうことが有効です。具体的には「自社らしさを感じた瞬間・出来事」「(自社らしさ埋め込まれているであろう)成功体験・成長体験」を語ってもらいます。

(3)ワークショップの開催
社員の場合、インタビューの代わりにワークショップを開催することも効果的です。社員同士が自社らしさを感じた出来事や自らの成功・成長エピソードを語り、互いに共有した上で、自社らしさを抽出します。また、ワークショップ自体が自社らしさをテコにした一体感の醸成の場となります。

3-3. Step3:情報収集・整理・分析・編集・加工

第3ステップとして、実際に情報を収集し、その情報を整理・分析し、さらにアウトプットしやすいように編集・加工します。

(例)「企業DNA(自社らしさ)の見える化」の情報収集・整理・分析・編集・加工
ステップ2で述べたような方法で情報収集し、その情報を整理・分析すること「自社らしさ」の要素を抽出します。さらに最終成果物も意識しながら、アウトプットしやすいように要素を「概念化」「教訓・フレーズ化」「物語・エピソード」のように編集・加工します。

概念化 「自社らしさ」の本質を論理的に解説したり、図解で示す。
教訓・フレーズ化 概念化した「自社らしさ」の本質を簡潔なフレーズで表現する。
物語・エピソード インタビューやワークショップで語ってもらった「自社らしさ」を象徴するエピソードを、他社員が共感しやすいように再構成する。

特に、企業DNA(自社らしさ)の見える化の場合、「物語・エピソード」として見える化しておくことを推奨します。

3-4. Step4:最終成果物

第4ステップとして、第3ステップの編集・加工データを最終成果物に仕上げます。

(例)「企業DNA(自社らしさ)の見える化」の最終成果物
冊子(DNA BOOK)、リーフレット、動画コンテンツなどが想定されます。冊子(DNA BOOK)、リーフレットは、第3ステップの編集・加工データをそのまま活用できますが、動画コンテンツを制作する場合には別途シナリオの作成が必要となります。

上記以外にも、専用サイトでの公開や社内ポータルでの共有なども考えられます。

ステップ1~4の流れを図解しておきます。

「知的資産の見える化」の進め方 (例)企業DNA(自社らしさ)の見える化

4.「知的資産の見える化」 の取り組み例

「企業DNA(自社らしさ)の見える化」以外の知的資産の見える化の取り組み例を示しておきます。

取り組み例1:経営理念に基づく行動の見える化

(背景)
経営理念を再定義したものの、行動レベルで社員に浸透していない。新しい理念は社員に理解され、共感も得ているが、自分の仕事への落とし込みができていない。そのため、新しい経営理念に基づく行動(理念行動)の成功事例を見える化することにした。

(取り組み内容)

  • 各部門・各世代から選出したメンバーを対象に、新しい経営理念に基づく行動についてインタビューする。
  • インタビュー内容から、有力な成功事例を抽出し、ストーリー仕立てに整理する。
  • 抽出した成功事例を集約し、簡易な理念行動ブック(冊子)を作成する。
  • 理念行動ブックを参考にしながら、各職場で自身の理念行動について考えてもらう。

(効果)

  • 同じ社員の理念行動に触れることで、社員が「理念に基づく行動とはどういうものか」を具体的にイメージできるようになった。
  • 身近な社員が理念行動で成功していることに刺激を受け、「自分もやってみよう」と行動に移す社員が増えた。
取り組み例1:経営理念に基づく行動の見える化

取り組み例2:拠点独自の業務ノウハウの横展開

(背景)
拠点が増える中で、各拠点で業務のやり方を独自に工夫するようになっていた。一方で、そういった業務ノウハウは拠点内のみで共有されており、他拠点への横展開は進んでいなかった。そのため、横展開に向けた見える化・共有化を推進した。

(取り組み内容)

  • 各拠点の業務ノウハウを社内ポータルで共有できるようにする。
  • 各拠点は独自の業務ノウハウを積極的に社内ポータルにアップする。
  • 特に横展開ニーズの高いノウハウについては、拠点間でオンライン勉強会を開催する。

(効果)

  • 各拠点の強みを活かした業務ノウハウを全社共有でき、全拠点の業務の底上げが可能となった。
  • 拠点間の交流が活発化し、相互理解が促進されると同時に、拠点間の連携も見られるようになった。
取り組み例2:拠点独自の業務ノウハウの横展開

以上、知的資産の見える化のいきいき組織づくりへの貢献について述べてきました。

あなたの会社にもまだ可視化されていない見えざる資産があるかもしれません。自社の強み・魅力の再発見のために、知的資産の見える化に取り組んでみませんか。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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