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ウェルビーイング

ウェルビーイング×いきいき(1)~「ウェルビーイング経営」のススメ

近年、個人の「幸福」な状態を示す「ウェルビーイング(well-being)」が注目されています。経営者にとって、従業員のウェルビーイング実現は、会社と社員の「いきいき」好循環形成と深く関わってきます。3回シリーズで、「人とビジネスのいきいき」の視点から「ウェルビーイング」について考えていきたいと思います。

1-1.「ウェルビーイング」とは何か

「ウェルビーイング(well-being)」とは、心身ともに健康で、かつ社会的にも満たされた状態を指す概念です。単純に「幸福」、「幸福な状態」という意味で用いられることも多くあります。

1-2.経済の共通目標となりつつある「ウェルビーイングの追求」

ウェルビーイングあるいは幸福の追求は、今や世界経済全体の共通目標となりつつあります。

(世界におけるウェルビーイングあるいは幸福の追求の動き)

●2015年9月の国連サミットで採択された「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」の17のゴールのなかにも、「3. すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」や「8. 働きがいも経済成長も(Decent Work and Economic Growth)」というウェルビーイング関連の項目が含まれます。「8. 働きがいも経済成長も」の原文には「well-being」の語は示されていませんが、「decent」には「満足のいく、十分な」といった意味があり、「働きがいのある仕事を通じたウェルビーイングの実現」というニュアンスが含まれます。

●2021年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のテーマは「グレート・リセット」でした。新型コロナウイルス感染拡大の影響で総会は中止となりましたが、創設者であるクラウス・シュワブ会長は、グレート・リセットについて、「世界の社会経済システムを人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」と述べていました。

1-3.日本人は幸福度が低い?

わが国においては「日本人は幸福度が低い」という問題がクローズアップされています。国連機関が毎年発表している「世界幸福度ランキング」の2022年ランキングにおいて、日本は第54位であり、G7の中では最下位でした。このG7中最下位というポジションは、日本の定位置となっており、「日本人は幸福度が低い」という主張の大きな根拠となっています。このランキングのみで「日本人は幸福度が低い」と言い切るのは、早計に失すると思います。一方で、「失われた30年」により日本人の幸福度が相対的に低下しているという実感は多くの人が抱いているのではないでしょうか。
国もウェルビーイング対策に着手しています。内閣府では2019年より毎年「満足度・生活の質に関する調査」を実施し、政策運営に活かそうとしています。また、厚生労働省・雇用政策研究会報告書(2019年7月)によれば、人口減少・社会構造の変化への対応として、「ウェルビーイング向上と生産性向上の好循環」「ウェルビーイング向上と多様な人々が活躍できる社会の実現の相互補完的な関係」が目指すべき姿として示されています。

2.「ウェルビーイング経営」とは何か

2-1.ウェルビーイングを企業経営の中心に

このような動きを踏まえて、ウェルビーイングを企業経営の中心に据えた「ウェルビーイング経営」に取り組む企業が増えつつあります。
例えば、トヨタ自動車は、2020年に「幸せの量産」をミッションに掲げました。積水ハウスは、「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」というグローバルビジョンを掲げました。
幸せを経営の中心に据える取り組み自体は、決して目新しいものではありません。京セラ創業者の稲盛和夫氏は、今から60年以上前に同社の経営理念を「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」と定めています。稲盛氏は再建を託されたJALグループの企業理念にも、冒頭に「全社員の物心両面の幸福を追求」の一文を明記しています。

2-2.起点は「従業員のウェルビーイング」追求

ウェルビーイング経営は、企業経営に関わるすべての関係者のウェルビーイング実現を目指すものです。大切なポイントは、その起点となるのは「従業員のウェルビーイング」であるという点です。「全社員の物心両面の幸福を追求」を掲げた稲盛氏も、「社員が幸せでなくては、お客様を幸せにはできない」と述べています。先に紹介した積水ハウスも、「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」というビジョン実現のためには、まず従業員の幸せを追求することが大切であると考え、2020年11月、グループ全従業員を対象に「幸せ度調査」を実施しています。

2-3.「従業員のウェルビーイング状態≒いきいき働いている」

従業員がウェルビーイングな状態をイメージしてみましょう。どんな従業員の様子が思い浮かびますか?おそらく笑顔の従業員や、いきいき働いている従業員の姿を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。反対に、不機嫌な表情の従業員や、疲れた様子の従業員を見て、ウェルビーイングな状態であると感じる人はいないでしょう。ウェルビーイングの測定方法には、さまざまなものがありますが、「いきいき働いている」ということは、外からウェルビーイングな人を見分ける1つの目安だと思います。

3.「従業員のウェルビーイング」が企業にもたらす好影響

「いきいき働いている従業員」をイメージしながら、「従業員のウェルビーイング」が企業にもたらす好影響を考えてみましょう。

3-1.従業員の高い満足度(人材定着、離職防止)

いきいき働く従業員は、会社や仕事に対する満足度も一定水準以上であると推察されます。わが国では人口減少により労働力の確保が難しくなっており、従業員の定着率を上げることは多くの企業にとって重要課題です。従業員の高い満足度は、人材定着や離職防止に寄与します。具体的には、①仕事や職場の人間関係などのストレスが原因による離職の防止、②優秀な人材がより良い機会を求める外部流出の防止を期待できます。

3-2.従業員の生産性向上(プレゼンティーイズム改善)

1-3で「ウェルビーイング向上と生産性向上の好循環」を示したように、ウェルビーイングの向上と生産性の向上は密接に関連しています。
幸福学の研究では、幸福度の高い人は生産性が高いことが明らかになっています。反対に、心身の不健康が生産性にマイナスの影響をもたらすという結果もあります。近年、健康経営の推進のなかで注目されるようになった概念に「プレゼンティーイズム」があります。

「アブセンティーイズム」
従業員の欠勤、遅刻、早退

「プレゼンティーイズム」
従業員が出勤しても健康面で問題を抱え、集中力や意欲が減退している状態

経済産業省が示したデータ(2018年)でも、「プレゼンティーイズム」がもたらす損失は、「アブセンティーイズム」がもたらす損失を大きく上回ることが明らかになっています。いくら能力を有する従業員であっても、心身が良好でなければ、100%のパフォーマンスを発揮できません。反対に、従業員がウェルビーイングな状態ならば、100%のパフォーマンスを発揮しやすくなります。
したがって、従業員のウェルビーイングが向上すれば、プレゼンティーイズムの改善による生産性の向上を期待できます。

3-3.周囲への好影響(みんなのウェルビーイングへ)

ウェルビーイングな状態の従業員は、心にゆとりがあり、広い視野に基づき、利他的な行動を確保しやすくなります。すなわち、「私のウェルビーイング」が「みんなウェルビーイング」へ拡がることで、周囲に好影響をもたらします。2-2で、ウェルビーイング経営の起点は「従業員のウェルビーイング」の追求であると述べましたが、そのメカニズムがこの流れです。一人の従業員の幸福度が高まり、いきいき働くことで、職場の他メンバーに好影響を与えると同時に、顧客、取引先、地域住民など対外関係者の幸せまで配慮するようになり、「みんなウェルビーイング」が向上していきます。

4.ウェルビーイング経営への第一歩を踏み出す

4-1.すべての企業は「ウェルビーイング経営」に着手すべき

ウェルビーイング経営について、「理想としてのウェルビーイング経営は理解できるが、現実的にはそれに取り組む余裕はない」と感じている経営者の方もいるかもしれません。
しかしながら、ウェルビーイング経営は一部の大企業が取り組むべきものではなく、すべての企業が取り組むべきテーマだと思います。
中小企業のなかにも、経営危機の状況下で「従業員の幸せ第一」の経営方針へ転換したところ、従業員の幸せが、地域の支持、顧客の支持へと波及し、V字回復したケースなどウェルビーイング経営の成功例は数多くあります。

4-2.発想の転換:「企業の目的はウェルビーイングの最大化」

ウェルビーイング経営に躊躇する経営者の方には、「企業の目的は利益の最大化であるが、従業員のウェルビーイングへの取り組みはそれを阻害するコストである」という感覚があるかもしれません。すなわち、「企業目的=利益の最大化」「利益獲得とウェルビーイング追求はトレードオフの関係(両立しない)」という前提です。
そこで発想を転換させて、「企業目的=ウェルビーイングの最大化」と位置づけてはどうでしょうか。このような視点で考えると、従業員のウェルビーイングへの取り組みは「コスト」ではなく「投資」となります。3-3で述べたように、従業員のウェルビーイングへの「投資」に対しては、顧客、取引先、地域住民など、みんなウェルビーイング向上という「リターン」を期待できます。そして、「みんなウェルビーイング」が向上すれば、それに付随するかたちで売上・利益がもたらされます。結果として、ウェルビーイング追求と利益獲得はトレードオフとなりません。

4-3.従業員がいきいき働く姿に幸せを感じる

古代ギリシアの哲学者アリストテレスは『ニコマコス倫理学』のなかで、「人生の究極目的は『幸福(善く生きること)』である」、「『幸福になる』ことは目的にはなるが、手段にはならない」という主旨のことを述べています。
最後に、ウェルビーイングの追求は、企業にとって「目的(あり方)」であるという点を強調しておきたいと思います。
ここまで人材の定着、離職防止、生産性向上、周囲への好影響といったウェルビーイング経営が企業にもたらすメリットや、ウェルビーイング追求と利益獲得の両立について述べてきました。しかしながら、こうしたメリット実現や利益獲得の「手段」としてのウェルビーイング経営を前面に出すと、取り組みが歪んだ方向へ進みかねません。
アリストテレスの言葉を借りれば、「ウェルビーイング追求は目的にはなるが、手段にはならない」のです。ウェルビーイング経営の成功事例をみても、経営の一丁目一番地にウェルビーイングを据えたからこそ、望ましい成果を生んでいます。
従業員の幸せを真剣に考え、彼らがいきいき働く姿をイメージし、その実現に努めることに、経営者としての喜びや幸せを感じる、こういった純粋な思いがウェルビーイング経営の第一歩かもしれません。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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