人とビジネスのいきいきをデザインする

組織活性化

静岡市 様
若手職員による「おもてなし職員コンシェルジュ」で組織活性化

市役所に来ると、こんな悩みはありませんか?

  • 「〇〇の申請に来たが、担当課がわからない…」
  • 「△△の相談窓口はどこ…?」
  • 「市役所から書類が送られてきたが、どこの課で手続きをしたらいいのかわからない…」
  • 「窓口を聞いても一人でそこへ行くことが難しい」

静岡市の庁舎では、そんな戸惑う来庁者を見かけると、「ご用件をお伺いします」、「どちらかお探しですか?」、「窓口を確認するため、書類を拝見します」と積極的に声を掛けたり、「窓口までご案内します!」と丁寧に付き添う若手職員の姿が見られます。まるでホテルのコンシェルジュのように来庁者に寄り添い、おもてなしする職員、それが静岡市の「おもてなし職員コンシェルジュ」です。

おもてなし職員コンシェルジュ:来庁者に寄り添い、おもてなしする職員

おもてなし職員コンシェルジュは、決められた日時に3庁舎(静岡庁舎、清水庁舎、駿河区役所)の1階フロアに立ち、来庁される皆さんへの積極的な声掛けや担当課へのご案内、付き添いを行います。案内係の腕章と金色のネームプレートがコンシェルジュの目印です。

フロアに立つコンシェルジュたち

「困っているところにタイミングよく話し掛けてくれて助かった」
「総合案内もあるがコンシェルジュから声を掛けてもらうと安心する」
「ホテルにいるようなコンシェルジュが市役所にもいるなんてすごい」
と市民の評価も上々です。

「おもてなし職員コンシェルジュ」の存在は、市民の満足度を向上させるのみならず、「おもてなしマインド」の伝道師として市職員の活性化に好影響をもたらしています。ここでは「いきいき組織づくり」の成功事例として、「おもてなし職員コンシェルジュ」をご紹介したいと思います。

2.「おもてなし職員コンシェルジュ」誕生の経緯

静岡市では平成28年度から、市職員の行動指針「クレド」を定め、市民応対・おもてなしマインド向上に努めてきました。

静岡市職員の行動指針〈クレド〉

  • 1. お客様の時間を大切にします
  • 2. さわやかにお客様を迎えます
  • 3. お客様の声に耳を傾けます
  • 4. わかりやすく、ていねいに説明します
  • 5. 手ぎわよく正確に仕事をします
  • 6. 気持ちよく利用できる空間をつくります

出所静岡市HPより

そんななかで、市民からの寄せられる苦情の多くが「職員の市民応対」に関するものであるという課題が明らかになってきました。市民応対のイメージを変えていくことが、職員と市民のあいだの信頼関係の醸成につながるという信念に基づき、市長の強い想いで実現したのが「おもてなし職員コンシェルジュ事業」です。

コンシェルジュ事業の目的は「市民満足度の向上」と「職員の育成(応対能力のスキルアップ)」です。最終的には全職員に「おもてなしマインド」を波及させ、“職員総コンシェルジュ”の実現を目指しています。

出所静岡市「おもてなし職員コンシェルジュ事業」資料

平成30年度の若手有志による試行実験を経て、令和元年7月から正式に事業のスタートとなりました。試行実験の1期生14名を皮切りに、2期生(令和元年度)以降は毎年度26名のコンシェルジュが誕生しています。令和4年度も5期生26名が活動中です。

コンシェルジュの活動は静岡市ホームページや広報「コンシェルジュ通信」等を通じて、広く公開されています。

3.事前研修を経て、市長からネームプレート交付~コンシェルジュのやる気を引き出す

コンシェルジュに選ばれると、まず事前にエンパワメント研修、接遇研修を受講します。

エンパワメント研修ではコンシェルジュ事業の目的や概要を理解したうえで、目指すべきコンシェルジュ像のイメージを膨らませます。ここでは各人の強みを活かしたオンリーワンのコンシェルジュ像を大切にしています。「自分らしいおもてなし」を目指すことで、コンシェルジュに対する不安が払拭され、「やってみたい」というモチベーションを高めやすくなります。

また、元CAが講師を務める接遇研修では、ロールプレイを交えた実践的なトレーニングにより、おもてなしの基本を習得します。
「おもてなし職員コンシェルジュ」育成プログラムの詳しい内容はこちら

こうした事前研修を経て、コンシェルジュの目印となるネームプレートが交付されます。コンシェルジュ一人ひとりが市長に意気込みを述べ、ネームプレートが手渡されます。市長自らが一人ひとりに手渡しすることは期待の表れであり、各人のコンシェルジュとしての使命感がより高まります。市長の熱意が各コンシェルジュに伝導していく大切なイベントです。

市長がネームプレートを一人ひとりに手渡しする

このように、各人のポジティブな気持ちをしっかり引き出したうえで、コンシェルジュ本番がスタートします。

4.振り返り会議で成長を実感しながら、おもてなしをレベルアップ!

コンシェルジュ活動がスタートしてからは、各人のコンシェルジュ経験を学びや成長につなげるため、「振り返り会議」と呼ばれるフォローアップ研修を期間内に3回実施します。

各人がコンシェルジュ経験を振り返り、「嬉しかったこと・やってみて良かったこと」、「困ったこと・わからなかったこと」などを仲間と共有し、そのうえで「もっと工夫できそうなこと、これから挑戦したいこと」を検討することで、成長を実感しながら、おもてなしのレベルアップを図ることができます。

こうした振り返りを重視する理由は、コンシェルジュの育成プログラムが、仕事経験をしっかり振り返ることで学びを得る「経験学習」をベースとしているためです。
「おもてなし職員コンシェルジュ」育成プログラムの詳しい内容はこちら

5.コンシェルジュが「おもてなしマインド」の伝道師として局内研修を実施

さらにコンシェルジュは「おもてなしマインド」の伝道師として、自分の職場メンバー向けに局内研修を実施します。そのため、第2回振り返り会議のなかに局内研修の準備プログラムを組み込んでいます。コンシェルジュ経験で得た知見を整理し、自らの体験談を交えながら「おもてなしマインド」の職場全体への波及を図ります。

局内研修の様子

「コンシェルジュ通信」より、実際に局内研修を受講した参加者の感想を一部抜粋します。

  • 若手職員が一生懸命説明してくれたので、とても熱意が伝わり、良い刺激になった!
  • 実情に即した実践的な内容で、興味を持って聞くことができました。多くの経験談は、自分の肥やしになります!
  • 自分の意識を変えるだけで、市民に寄り添った応対ができる!日頃からの意識を変えてみようと思いました
  • 今後は、庁舎内で困っている市民の方がいないか目配りをして、積極的に声を掛けていきたいです!

若手職員(コンシェルジュ)の熱意が、他の職員の意識・行動に変化をもたらしていることが、これらのコメントからも推察されます。まさに「職員総コンシェルジュ」の実現に向かっているといえます。

6.「おもてなし職員コンシェルジュ」のいきいき効果①~コンシェルジュの成長

本事業を「人と組織のいきいき」という観点から考察します。まずはコンシェルジュの成長(コンシェルジュのいきいき)について整理します。

コンシェルジュの成長については、コンシェルジュ活動の総括の場と呼べる、第3回振り返り会議等での各コンシェルジュの声から確認できます。これらの声から、コンシェルジュの成長パターン(いきいきパターン)を3つ紹介したいと思います。

コンシェルジュ経験を通して成長していく職員たち

6-1 自分らしく働くことでいきいき

自分の強みを活かしたコンシェルジュ活動は、コンシェルジュに自分らしく働くことの大切さを気づかせたようです。コンシェルジュ活動に「自分らしいスパイスを効かせる」ことで、仕事のエンジョイメントが格段に増し、いきいき働きやすくなります。

実際のコンシェルジュの声(「コンシェルジュ通信」より一部抜粋)

  • 研修で「自分の強み」を考える機会があった。強みを意識して市民応対をしてみると、自然と行動できることが多くあったので、これからも業務の中で活かしたい。
  • 自分を大きく変えなくても、強みを活かしてやっていけばいいと思うことができた 。そこからは、肩の力を抜いてコンシェルジュをやることができた。
  • コンシェルジュになってから、上司に「肝が据わっている」と言われた。度胸がついた!

6-2 相手に寄り添い、喜びを共有することでいきいき

コンシェルジュのなかには、相手(市民)に寄り添い、気持ちをやりとりすることに、おもてなしの喜びを見出している人も数多くいます。

実際のコンシェルジュの声(「コンシェルジュ通信」より一部抜粋)

  • 現場に立ってみると、思っていたより楽しかった。市民からの感謝の言葉は、何より嬉しい!
  • 市民と一緒になって対応することが、市民満足に繋がる!
  • 質問されて分からなかったことも、一緒に調べながらご案内したところ、感謝の言葉をいただいた!
  • 普段から、気持ちよく働くこと、気持ちよくお迎えすることを意識するようになった!

これは「おもてなしを介して、ともに喜びを共有できる関係を築いてほしい」という本事業の目指す姿につながるものです。

出所静岡市「おもてなし職員コンシェルジュ事業」資料

このように、利用者から感謝されることでサービス提供者の満足度が高まり、それがさらに質の高いサービス提供をもたらし、利用者の満足度が高まるという好循環は、「サティスファクションミラー(鏡面効果)」と呼ばれます。

6-3 おもてなしを高い視座で考えることでいきいき

各コンシェルジュは、局内研修の講師など「おもてなしマインド」の伝道師の役割を遂行するなかで、おもてなしを考える視座が高くなっていきます。すなわち、一職員の視座から職員全員の視座への移行です。その結果、主語が、「I(私)」から「We(私たち)」に変化していきます。

局内研修で伝えるべきポイントの整理(「コンシェルジュ通信」より一部抜粋)

  • 全職員が共通認識を持ち、市民目線で積極的に行動できるようになると良い。
  • 総合案内は思っている以上に混んでいる。困っている市民は多いという現状を伝えたい。
  • 市民から感謝される喜びを共有し、庁舎内で困っている来庁者へ全職員が声をかけられるようになると良い。
  • 市民応対は全職員に共通すること!職員同士の挨拶やコミュニケーションも大切。

このように高い視座に立つことで、やりがいや使命感が高まっていると推察できます。

ここまで3つのいきいきパターンを紹介しましたが、共通するのが「コンシェルジュ活動を通して、市職員としての新たな働きがいを発見している」という点です。自分起点で仕事のエンジョイメントを高めることが、いきいき働くことにつながっているといえるでしょう。

7.「おもてなし職員コンシェルジュ」のいきいき効果②~他職員への波及

続いて、コンシェルジュ活動の周囲への波及(組織のいきいき)について整理します。

「おもてなし職員コンシェルジュ」の最終ゴールは「職員総コンシェルジュ」です。その意味で、本事業は「若手職員を起点としたボトムアップ型の組織開発」であると説明できます。

7-1 コンシェルジュのリアルな言葉が他職員の心を動かす

組織開発としての本事業の典型的な取り組みが、コンシェルジュによる局内研修です。5でも述べたように、「おもてなしマインド」の伝道師として、各コンシェルジュは自分の職場メンバー向けに局内研修を実施しています。そして、若手のコンシェルジュの熱い思いが、職場メンバーの意識・行動に変化をもたらしています。

なぜ、局内研修で受講者がコンシェルジュに共感するのでしょうか。それは講師として登壇する若手職員(コンシェルジュ)の発する言葉にリアリティがあるからです。リアルな体験に基づくリアルな言葉は、人の心を動かします。しかもそれが若手職員の言葉であれば、他職員は「若手がこれだけ頑張っているのだから、自分も何かしなければ」と刺激を受けるはずです。

7-2 「おもてなしマインド」の象徴としてのコンシェルジュの存在

正式スタートから4年目に突入し、組織内におけるコンシェルジュの理解度もかなり高まっています。それに伴い、他の職員がコンシェルジュに労いの言葉をかけたり、他職員が一緒に案内を手伝ってくれたりすることも増えています。

コンシェルジュの存在は「おもてなしマインド」の象徴です。いきいき働くコンシェルジュの姿を目にすることは、他職員にとって「自分もあのように応対してみよう」、「自分はきちんとおもてなしできているだろうか」のような内省を行うきっかけとなるはずです。

7-3 若手のいきいきが他職員に好影響をもたらす

組織開発としての本事業のユニークな点は、若手コンシェルジュのおもてなしが範となり、他職員に好影響をもたらしている点です。上司・先輩が範を示し、それを手本に部下・後輩が学ぶ行為は、多くの組織で見られるものです。しかし、本事業はそれとはまったく逆のパターンです。

こうしたボトムアップ型の組織開発が順調に進んでいるのは、若手コンシェルジュが「おもてなしマインド」に加えて、自身のいきいきと成長とした姿を他職員に伝えている点が大きいのではないかと思います。コンシェルジュ自身にそんな意識はないと思いますが、一回りたくましくなった若手の姿に、多くの他職員が感化されているのではないかと想像します。

また、若手コンシェルジュが成長していく姿を伝えるという意味では、「コンシェルジュ通信」が果たす役割も大きいと思います。

8.まとめ~トップ(市長)のリーダーシップと事務局の企画・運営力が成功要因

「人と組織のいきいき」の観点から、「おもてなし職員コンシェルジュ」を考察してきました。

「おもてなし職員コンシェルジュ」の成功は、「トップ(市長)のリーダーシップ」と「事務局の企画・運営力」という両輪がうまく回った結果だと思います。この両輪があったからこそ、ボトムアップ型の組織開発というハードルの高い課題をクリアできたのではないでしょうか。

行政組織の人材開発、組織開発事例でしたが、企業組織も学ぶべき点が数多くあります。ぜひ「いきいき組織づくり」のヒントとしてください。

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