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風土改革

株式会社ニチレイフーズ様
「ハミダス活動」でいきいき組織づくり【3】社内改革を成功に導く経営者の思考・行動(後半)

※株式会社ニチレイフーズ 顧問(元代表取締役社長) 池田 泰弘さん
【カンパニープロフィール】
ニチレイグループの加工食品会社。冷凍食品では業界最大手であり、冷凍食品をはじめとした加工食品の開発から製造・販売を行っています。売上高2,909億円(2023年度)、従業員数9,942名(2024年3月31日現在)。

《企業コンセプト》
くらしに笑顔を

《ミッション(存在意義)》
ニチレイフーズは人々のくらしを見つめ、食を通じて、健康で豊かな社会の実現に貢献します。

《ビジョン(目指す姿)》
私たちは、常に独自能力を磨き、卓越した価値を創造することで、世界で最も信頼される食品企業を目指します。
「お客様・取引先に」
誠実に向きあい、独自の価値ある商品・サービスを提供し続けます。
「従業員に」
風通しが良い活性化された職場を提供します。
「社会・投資家に」
広く好感と信頼を寄せられる、グローバルに展開する企業として成長します。

《モットー(行動指針)》
ミッション・ビジョンを実現するための従業員の行動指針が「ハミダス」です。

3.経営者としての覚悟~私の役割は畑を耕すこと

(1)成果を上げるためには10年かかる、私の6年間は基礎固めしかない
「社長就任時の会社の状況・業績は厳しいものでした。社長の任期は6年。自分なりにこの状態で業績を上げるにはどれぐらいの時間が必要かをいろいろ考えました。結果、自分の任期中は無理だという結論になりました。自分がいろいろ工夫して一生懸命やるにしても、10年後じゃないと成果は期待できないだろう、残念ながらそういう組織を引き継いだと当時は考えていました」(池田さん)

そして、自分の社長としての役割を「畑を耕すこと」と決めたそうです。
「自分の6年間の役割は基礎固めしかない。畑を耕すことが私の役割である、耕しまくろう、成果はあきらめよう、次の社長のときに、作物を収穫できればいい。それを決断できたことが大きかったですね」(池田さん)

池田さんの経営者としての覚悟

幸いなことに池田さんの見立て違いで、社長の任期中に業績が向上しました。
「そこはもう私の見立て違いで、4年程度で業績が急に上がったんです。しっかり基礎固めで畑を耕したからこそ、急に業績向上したのだろうと思います。でも結果論ですね。当時は確たる目算があってやっているわけではなくて、そういうふうに繋がればいいかなと思いつつでも、自分の任期中は難しいと思っていましたから」(池田さん)

(2)NPO(ノン・プロフィット・オーガニゼーション)と揶揄されたことも
池田さんご本人は業績が上がるまで時間がかかると、覚悟を決めたものの、周囲からは早急な業績回復を求められたそうです。
「私の6年間のうちの最低業績が営業利益率1.9%だったのですが、、そのときはやはり言われましたね。グループで上場していますから、社外取締役、IRなどいろいろなところで業績を追及されます。あるときは、『この会社はNPO、ノン・プロフィット・オーガニゼーションだ』と揶揄されました。あれは絶対忘れないですね(笑)」(池田さん)

しかしながら、先に述べたように、その後は業績が向上します。
「私の前の時代からメーカーだから営業利益率5%を目指していましたが、一度も実現していませんでした。私の就任初年度は3%でした。そして、先に述べた3年目の1.9%が底だったのですが、5年目は4%、最終の6年目は6.8%まで向上しました。」(池田さん)

一方で、吉野さんは当時池田さんと話していて、業績についての話は一切出なかったそうです。
「営業利益が下がっている、NPOと揶揄された、最低の営業成績だといった話について、当時、池田さんは私には一言も言わなかったです。先ほどの畑を耕すだけといった話も、会長になった後の社内講演会で初めて知りました。当時そういった状況をインプットされていたら、ハミダス活動なんて続けられなかったと思います」(吉野さん)

(3)「やり抜く力(GRIT)」の重要性
第2回でも述べましたが、池田さんが自分で決めたことをやり続けた、経営者としての覚悟がハミダスの成功および業績向上という成果をもたらしたと思います。

この池田さんの覚悟・姿勢・行動を見ていて、ベストセラーとなったビジネス書籍『やり抜く力 GRIT(グリット)』(アンジェラ・ダックワース著、ダイヤモンド社、2016年)を思い出しました。

同書で、心理学者でペンシルバニア大学教授の著者アンジェラ・ダックワース氏は、社会的に成功を収める最も重要な要素として、個人のやり抜く力である「GRIT (グリット)」を提唱しました。

GRIT (グリット)とは、以下の4つの要素の頭文字を取ったものです。

「Guts(ガッツ)」・・・困難に立ち向かう「度胸」
「Resilience(レジリエンス)」・・・失敗してもあきらめない「粘り強さ」
「Initiative(イニシアチブ)」・・・自らが目標を定めて取り組む「自発性」
「Tenacity(テナシティ)」・・・最後までやり遂げる「執念」

改革に取り組んだ池田さんの覚悟・姿勢・行動は、GRIT (グリット)の4要素がそのまま当てはまるのではないでしょうか。

GRIT (グリット)

4.受け継ぐべきDNA・価値観

最後に、ハミダスに関連して、受け継ぐべき企業DNAや価値観について、興味深い話をお聞きしたので、それについて触れたいと思います。

(1)国分グループ「平成の帳目」とハミダス
吉野さんが、酒類食品卸の国分グループ(以下、「国分」)とハミダスの縁について話してくれました。
「当社の取引先でもある国分さんには、『平成の帳目』という行動憲章があるんです。これは300年以上の歴史を有する国分さんが、創業期から大切にしてきた会社の決まりを成文化したものであり、『信用』という国分さんの社是を守り続けていくための行動規範でもあります」(吉野さん)
※国分グループ本社株式会社HP「社是・企業理念・平成の帳目」
https://www.kokubu.co.jp/company/philosophy/

そして、吉野さんが初めて動画メッセージの撮影に臨んだのが、国分の紹介動画でした。日本橋一丁目1番地にある国分の本社前で池田さんとロケをしたそうです。
「ハミダスを100年続く活動にしたいという思いから、長い歴史を有する国分さんを紹介することにしたんです。そのときに池田さんから『平成の帳目』のコピーをいただきました。その後、『日本橋で三百年』という国分さんの社史も読んで、ぜひヒアリングしたいと思ったのですが、そのときは断念したんです」(吉野さん)

※国分の本社ビル(東京都中央区日本橋1-1-1)

※ 国分の本社ビル(東京都中央区日本橋1-1-1)
(出所)国分グループ本社株式会社HP 会社情報 > 事業所
https://www.kokubu.co.jp/company/office/

それが最近になり13年越しの念願が叶い、国分を訪問することができました。
「『平成の帳目』の話を聞かせてほしいと訪問したんです。その冒頭で13年前に池田さんから渡されたコピーを取り出し、『私は13年前にこれを受け取って、それ以降ずっとこちらへ来たいと思っていました』と話したら、大変盛り上がりまして、さらに付箋だらけの『日本橋で三百年』を取り出したら、『こちらでそれ(社史)を差し上げようと思っていたのですが、まさかそれほど読まれているとは思いませんでした』とさらに盛り上がりました」(吉野さん)
とても嬉しそうに話をしている吉野さんが印象的でした。

さらに吉野さんは「平成の帳目」を参考に、ハミダスの今後について語ってくれました。
「国分さんから話を聞いたときに、ハミダスに欠けていると思ったのが、ずっと受け継ぐDNAのようなものです。国分さんでいえば、社是『信用』がそれに当たるのですが。国分さんの社員に話を聞くと、みんな『信用が第一、短期的な利益は求めていません』と言うんです。ハミダスも、時代が変わろうと我々がずっと大切にしている価値観の先にハミダスなんだという言い方ができるといいですね」(吉野さん)

300年続く老舗企業から学ぶことで、さらにハミダスが進化するかもしれません。

(2)池田さんが吉野さんに渡した5枚の価値観カード
価値観ということでいえば、インタビュー終了後の雑談の中で見せていただいた5枚のカードも印象的でした。これは池田さんが社長在任中に、大切にしている価値観5つをカードに書き出し、それを吉野さんに渡したものです。

今でも吉野さんは、いつでも見返すことができるように、この5枚のカードを手帳の中に入れているそうです。5枚のカードの表面には黒字で大切にしている価値観が書かれ、裏面には赤字でその反対の価値観が書かれています。カードの表裏それぞれに池田さんの押印もあります。

池田さんが吉野さんに渡した5枚の価値観カード

※ 左:カードの表面。「言行一致」「共感と信頼」「現実をありのままに」「謙虚な姿勢」「継続」という5つの価値観を黒字で記載
※ 右:カードの裏面。「言行不一致」「反感と不信感」「歪曲」「傲慢な態度」「頓挫」という表面と反対の価値観を赤字で記載

改めて眺めてみると、このカードに池田さんの経営者としての価値観が集約されているように思います。

以上3回にわたって、独自活動「ハミダス」で社内風土改革に成功した株式会社ニチレイフーズ様の“いきいき”を紹介してきました。経営者と事務局、双方の視点から社内風土改革を成功させるためのヒントが詰まっていたのではないかと思います。また、池田さんの経営者としての覚悟・姿勢は、組織風土に限らず社内で改革に取り組もうとする経営者にとって、学ぶべき点が多かったのではないでしょうか。

最後に、インタビューを通して、池田さんと吉野さんの良き関係性がとても印象的でした。経営者と事務局の強い絆があったからこそ、ハミダスという社内風土改革をやり遂げることができたのではないか、そう思わせてくれました。

池田さん、吉野さん、貴重なお話ありがとうございました。

池田さん、吉野さん、貴重なお話ありがとうございました。

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