3.異文化感受性発達モデル
「異」と出会ったとき、私たちはどのように向き合えば良いのか。この問いに対するヒントを与えてくれるのが、アメリカのコミュニケーション学者でミラノ・ビコッカ大学兼任教授、元ポートランド州立大学教授のミルトン・ベネット博士が提唱した「異文化感受性発達モデル」(Developmental Model of Intercultural Sensitivity:DMIS)です。
3-1.書籍『異文化コミュニケーション・トレーニング – 「異」と共に成長する』
「異文化感受性発達モデル」については、山本志都, 石黒武人, Milton Bennett,岡部大祐 著『異文化コミュニケーション・トレーニング – 「異」と共に成長する』(2022年、三修社)に詳しく説明されています。ポートランド州立大学でベネット博士に学んだ山本志都 東海大学文学部英語文化コミュニケーション学科教授やベネット博士本人らによって書かれた同書は、異文化コミュニケーションについての理論と実践(エクササイズ)がバランス良く体系的に整理された良書です。
異文化コミュニケーションと聞いて、国籍の異なる人とのコミュニケーションをイメージする人が多いかもしれません。しかしながら、同書は国籍の違いに限定されない、より多様な「異」との出会いを想定した内容となっており、D&Iを推進するためのヒントが数多く詰まっています。
個人的なことを少し述べれば、冒頭に紹介した金子みすゞ「みんなちがって、みんないい。」のフレーズが同書の帯に書かれているのを見た瞬間に、「これこそ私が求めている本だ」と直観しました。
3-2.「異文化感受性発達モデル」の概要
書籍『異文化コミュニケーション・トレーニング』に基づき、「異文化感受性発達モデル(DMIS)」を整理します。
同書では、「『異』を知覚する構造、および、その構造での知覚による『異』に対しての解釈・意味づけが、単純な状態から複雑な状態へと発達していく過程を表したのがDMISであるとする」と述べられています。(『異文化コミュニケーション・トレーニング』P258)
また、「私たちが『異』と自らの世界との関係をどのように調整しているかを示し、その調整方法が洗練化されていく過程を6つの段階的な発達として説明しているのがDMISである」とも説明しています。(『異文化コミュニケーション・トレーニング』P258)
DMISは以下のように、発達過程を「否認-防衛-最小化-受容-適応-統合」の6つの局面に区切り、その連続体のモデルとして示されています。「6段階」ではなく「6局面」と訳しているのは、発達過程を区切るのではなく、変化していく連続体としての意味合いを強調するためです。