理念浸透 2025.4.23 いきいき組織づくりのキーワード 「経営理念の浸透」 #インナーブランディング #企業理念 #理念ブック #経営理念 キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「経営理念の浸透」です。 目次1.経営理念が浸透しない2.経営理念の浸透の基本プロセス3.経営理念の浸透を阻む「4つの壁」3-1. 「理解の壁」3-2. 「共感の壁」3-3. 「行動の壁」3-4. 「定着の壁」4.経営理念の「策定」「浸透」の一体化 1.経営理念が浸透しない 経営理念を重視する経営手法である「理念経営」が注目されています。それに伴い、新たに経営理念を定義したり、経営理念を再定義する企業も増えています。その一方で、経営理念を策定したものの、それが社員に浸透していないという課題を抱える企業・経営者も多く存在します。 近年、「インナーブランディング」という社員向けブランディングに取り組む企業が増えているのも、経営理念が浸透せずに悩んでいる企業が多いことの裏返しと説明できます。 本来、経営理念の「策定」と「浸透」は車の両輪であり、ワンセットで取り組むべきものです。しかしながら、「策定」のほうに軸足を置きすぎ、「浸透」まで見据えた取り組みができていない企業も多く見受けられます。策定した経営理念をお披露目して取り組みを終了させてしまう企業すら目にすることがあります。 しかしながら、経営理念は「策定」すれば、自ずと「浸透」していくものではありません。理念を浸透させるためには、効果的な方略を立て、それを着実に実行する必要があります。 関連記事 いきいき組織づくりのキーワード 「経営理念」 https://tantaviva.com/ikiikilab/ikiikilab-all/20250321-1/ いきいき組織づくりのキーワード 「インナーブランディング」 https://tantaviva.com/ikiikilab/ikiikilab-all/20250227-2// 2.経営理念の浸透の基本プロセス 経営理念の浸透は、「理解→共感→行動→定着」という4つのプロセスで捉えることができます。これを「経営理念の浸透の基本プロセス」と呼ぶことにしましょう。 理念 社員が経営理念の言葉や意味を知り、その内容に説明できる(理念を知っている) 共感 社員が経営理念の内容に関心を持ち、心から実現させたいと思う(理念が自分事になっている) 行動 社員が日常業務の中で経営理念に沿った行動(理念行動)を実践できる(理念と日常業務が接続している) 定着 経営理念に沿った行動が社員の習慣となっている(理念行動が「当たり前」になる) この基本プロセスに基づき、自社の現状がどこまで進んでいるのかを把握することで、理念浸透の阻害要因を特定し、有効な対策を講じやすくなります。 3.経営理念の浸透を阻む「4つの壁」 経営理念の浸透を4つのプロセスに分けることは、経営理念の浸透には「理解の鐘」「共感の壁」「行動の壁」「定着の壁」という4つの壁があることを意味します。 自社の浸透がどこまで進んでいるのか、どこがネックとなっているのかを把握し、壁を1つずつ乗り越えていくことが求められます。 ここからは4つの壁を順に確認し、その克服策も検討していきます。 3-1. 「理解の壁」 最初の壁は「理解の壁」です。社員が経営理念の言葉や意味を知らず、他者にその内容を説明できない状態をさします。 一言でいえば「経営理念を知らない」状態ですが、「知らない」には3つの状態があると考えられます。 経営理念の「存在」を知らない 経営理念の存在は知っているが、経営理念に書かれている「言葉」を知らない 経営理念に書かれている「言葉」は知っているが、その「意味するところ」を知らない (壁の要因) 経営理念を社内に周知する取り組みが不足している。 社員が経営理念を見たり聞いたりする機会がない。 経営理念の表現が抽象的で、社員が「何を伝えたいのか」を理解できない。 (克服策) 社内報、ポスター、リーフレット、PR動画などを使って経営理念の存在を周知徹底する。 朝礼やミーティングなどで定期的に経営理念に触れる機会を設ける。 社員から見て表現が抽象的・難解である場合、経営者や経営幹部がより平易な言葉で語り直す機会を設ける。 (克服例) 製造業A社で「品質第一」という経営理念が抽象的だったため、現場社員が何をすればよいのか理解できずにいた。そのため、経営者が「お客様が笑顔になる製品を届ける」という形に噛み砕き、実際の顧客の声を朝礼で共有するようにした。結果として、社員の理念に対する理解度が深まり、何をすればよいのか具体例を交えて説明できるようになった。」 3-2. 「共感の壁」 第二の壁は「共感の壁」です。社員が経営理念の内容に関心がなく、「自分には関係がない」と他人事になっている状態をさします。あるいは、社員が経営理念の内容に納得していない状態も含まれます。 (壁の要因) 経営者と社員の交流機会が少なく、「経営のことは自分には関係ない」と考える社員が多い。 経営理念を実現することに、社員が価値を感じていない。 経営理念の内容と現場の実態にギャップがあり、「そんなこと無理」「できるはずがない」「やりたくない」と考える社員が多い。 (克服策) 理念に込めた想いや、理念誕生の背景について、経営者が社員に伝える機会を設ける。その際にはストーリーテリング(物語を語って伝える)の手法を用いると効果的である。 経営理念を実現することの価値を社員目線で明示する。 経営者・社員の理念行動の事例を共有することで、社員に「やってみたい」「これならできそうだ」という気持ちになってもらう。さらに事例を集約した「理念ブック」を作成し、社員に配布する。 (克服例) サービス業B社では「心から寄り添うサービス」を経営理念に掲げていたが、一部社員はその理念に対して、「自分には関係ない」「面倒くさい」という思いを抱いていた。そこで理念体現している社員が、その成功事例を他社員に発表する場を設け、さらに社内ポータルで共有するようにした。取り組みを重ねていくことで、理念に対する誇りと共感が広がり、「自分もやってみたい」と理念を自分事で捉える社員が増えた。 3-3. 「行動の壁」 第三の壁は「行動の壁」です。社員が日常業務の中で理念行動ができていない状態をさします。 (壁の要因) 経営理念と日常業務が接続しておらず、理念の業務への落とし込み方がわからない。 日常業務で忙しい中で、理念行動を意識する余裕がない。 (克服策) 経営理念と日常業務をうまく接続させるものとして、行動指針を策定する。 (3-2でも述べた)社員の理念行動事例を集めた「理念ブック」を作成・活用し、日常業務への落とし込みをイメージしやすくする。 管理職などが率先して理念行動を実践する(手本の提示)。 上司が部下の理念行動を積極的にほめる。 (克服例) C社では「●●でより良い社会を創造する」という経営理念に掲げている。この理念に対して、ほとんどの社員が共感している。その一方で、若手社員の中には、理念を日常業務にうまく落とし込めなかったり、理念行動を実践する余裕がない状態が多く見られた。そのため、新たに行動指針を策定し、日常業務レベルでどのように行動すべきかをイメージしやすくした。また、上司が部下指導のなかで、部下の理念行動に気づいたら、積極的にほめるようにした。その際、ほめる理由(理念行動を実践したため)も必ず明確に伝えるようにした。 3-4. 「定着の壁」 最後となる第四の壁は「定着の壁」です。社員の理念行動が見られるが、まだ理念行動が本人の「当たり前」になっておらず、習慣として定着するまでには至らない状態をさします。個人レベルではなく職場レベルで考えると、メンバーの理念行動の定着度合いにバラツキがある状態(=職場の「当たり前」になっていない)をさします。 (壁の要因) 理念行動をとっても、振り返ることをしないため、その行動を継続・再現できない。 職場レベルで理念行動が「当たり前」という雰囲気が醸成されていない。 理念行動を継続・定着させるためのインセンティブが不足している。 (克服策) 理念行動の成功体験をしっかり振り返ることで、その再現性を高める。そのために、上司と本人が理念行動を振り返る場(面談)を設ける。 (3-2、3-3でも述べた)「理念ブック」を定期的にアップデートし、全社員にとって理念行動が「当たり前」という雰囲気を醸成する、 理念行動を評価制度に組み込む。 理念行動を表彰する制度を設ける。 (克服例) D社では理念行動を全社員に定着させるため、評価制度に理念行動に関する項目を加えると同時に、半期に一度、「理念行動の振り返り面談」を行うことにした。「理念行動の振り返り面談」では、部下が自身の理念行動を上司と一緒に振り返ると同時に、理念行動を定着させる方策を上司と一緒に検討するようにしている。また、職場で理念行動を「当たり前」にするために、日常業務の中で上司が部下の次アクションをアドバイスする際、「経営理念を判断基準にしたら、どうすべきか」を問い、本人に考えさせるようにした。 「4つの壁」の克服策を整理しておきます。 4.経営理念の「策定」「浸透」の一体化 3で述べた「4つの壁」の克服は、経営者の思いを経営理念に反映させ、それを上意下達する「トップダウン・プローチ」を念頭においたものです。 それとは別に、経営理念の策定には、経営者と社員が一体で作り上げる「ボトムアップ・プローチ」があります。社員の思いをうまく吸い上げて、経営者の思いと融合・調和させるものです。 トップダウン・プローチとボトムアップ・プローチを経営理念の「策定」「浸透」の観点から比較した場合、トップダウン・プローチは経営理念を「策定」してから「浸透」させるアプローチ(「策定」と「浸透」が分離)であるのに対して、ボトムアップ・プローチは「策定」しながら「浸透」させるアプローチ(「策定」と「浸透」が一体化)であると説明できます。 ボトムアップ・プローチにおける「策定」と「浸透」の一体化について補足すると、経営者のみならず社員自身も理念策定の当事者となるため、策定段階で社員の理念に対するコミットメントをある程度得られていると説明できます。「4つの壁」でいえば、「理解の壁」「共感の壁」を乗り越えている状態をイメージするとよいでしょう。 実際のボトムアップ・プローチでは、すべての社員が理念策定に関わるわけではなく、コア社員や次世代リーダーなどの選抜メンバーが関わるケースが多く、それ以外の社員への浸透が必要となります。それでも理念策定に関わった社員(=理念に共感している社員)が存在することで、浸透を円滑に行いやすくなります。 最初にも述べましたが、経営理念の「策定」と「浸透」は車の両輪であり、ワンセットで取り組むべきものです。一般に経営理念といえばトップダウン・プローチのイメージが強いかもしれませんが、「浸透」まで見据えれば、ボトムアップ・プローチも選択肢に入れて検討すべきでしょう。 以上、「4つの壁」の克服を中心に、経営理念の浸透について述べてきました。 「4つの壁」を1つずつ乗り越えていくことこそが、経営理念を浸透させる着実な道です。「4つの壁」の克服に取り組んでみませんか。 (著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)