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従業員体験(Employee Experience)

いきいき組織づくりのキーワード 「従業員体験(Employee Experience)」

いきいき組織づくりのキーワード 「従業員体験(Employee Experience)」

キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「従業員体験(Employee Experience/エンプロイー・エクスペリエンス)」です。

1.すべては「従業員体験」の良し悪しで決まる

1-1. 「従業員体験(Employee Experience)」とは

「若手社員がすぐ辞めてしまう」
「エンゲージメントの低い社員が多い」
こうした悩みを抱える中小企業経営者の声は少なくありません。

人材の定着や活性化に向けた対策の中で、注目されているのが「従業員体験(Employee Experience/エンプロイー・エクスペリエンス)」です。「Employee Experience」を略した「EX」として表記されることもあります。従業員体験とは、従業員が企業に関わるすべての接点(タッチポイント)を通じて形成される体験価値を指します。

従業員目線で見たとき、従業員体験の質の良し悪しは、「自分がこの職場でどれだけ尊重され、価値ある存在として扱われているか」を感じる指標となります。

質の良い従業員体験は、従業員に「この会社で働いてよかった」と思える充実感をもたらし、質の悪い従業員体験は、「この会社にいるべきか?」という疑問を生みます。

「従業員体験(Employee Experience)」とは

1-2. 質の良い従業員体験/質の悪い従業員体験が意味すること

従業員体験の質の良し悪しについて、もう少し掘り下げてみましょう。

質の良い従業員体験(体験価値が高い) 質の悪い従業員体験(体験価値が低い)
1.「自分は大切にされている」と実感できる

  • 自分の意見をきちんと聞いてくれる
  • 働きやすい環境が整備されている(柔軟な働き方・ツール・福利厚生)
1.「自分は大切にされていない」と感じる

  • 意見が無視される/改善提案が反映されない
  • 評価が不透明・不公平
2.「自分の成長が支援されている」と感じる

  • 学習やキャリア開発の機会がある
  • チャレンジできる業務が与えられる
2.働くのがストレスになる

  • 無理な労働時間、非効率な業務フロー、サポートの欠如
  • ハラスメントや心理的安全性の欠如
3.「仕事に意味がある」と思える

  • 仕事の成果が評価され、会社の目標と自分の仕事がつながっていると感じる
  • 上司や同僚と信頼関係が築けている
3.「ここで働く意味がない」と思う

  • 成長やキャリアの見通しが持てない
  • 自分の価値観と会社の文化が合わない

従業員体験の良し悪しは、あくまで「従業員がどう感じるか」であり、企業側が決めるものではありません。

2.「従業員体験」の価値向上のメリット

いきいき組織づくりを考える場合、、「従業員体験」の価値向上に取り組むことは、以下のようなメリットがあります。

「従業員体験」の価値向上のメリット

(1) 離職防止
良質な従業員体験は、離職の防止につながります。たとえば若手社員の早期離職を考えた場合、入社後のオンボーディング(受け入れ)期の丁寧な支援により、「この会社を選択して本当に正解だったのか」という不安を解消してあげることが重要となります。

(2)エンゲージメントの向上
従業員が「自分はこの会社の一員であることに誇りを感じる」「この会社には自分の居場所がある」と実感できる体験をすれば、企業への愛着や貢献意欲が高まります。この場合、本人の直接体験のみならず、経営者の言動に共感する、先輩社員の言動に感動するといった間接体験も「従業員体験」の質向上に寄与します。

(3)働きがいの向上
日常業務を通して、達成感や自分の成長を感じる、周囲からの信頼が高まる、といった従業員体験は働きがいの向上につながります。この場合、1つの大きな成功体験や成長体験のみならず、小さな成功体験や成長体験を積み重ねていくことで大きな成功体験や成長体験となることもあります。

(4)パフォーマンスの向上
(2)、(3)で高いエンゲージメント、働きがいを確保できれば、自律的・主体的・意欲的な業務遂行による高いパフォーマンスを期待できます。高いパフォーマンスが良質な従業員体験をもたらし、そのことがさらに高いパフォーマンスにつながるという好循環をもたらします。

3.エンプロイージャーニーマップ

3-1. エンプロイージャーニーマップとは

従業員体験の価値向上策を総合的に検討するために用いられるが、「エンプロイージャーニーマップ」です。

ビジネスにおける「ジャーニーマップ」といえば、マーケティング分野における「カスタマージャーニーマップ」が有名です。「カスタマージャーニーマップ」は、顧客が自社製品・サービスを検討・購入・利用する一連の流れを、顧客視点から「旅」として捉え直し、可視化したものです。各タッチポイント(顧客の企業との接点)において顧客が期待する体験を提供することで、顧客体験価値の最大化を図ることを目指します。

カスタマージャーニーマップの考え方を「従業員」へ応用したものが、「エンプロイージャーニーマップ」です。従業員が企業に関わる各接点(タッチポイント)で、従業員が期待する体験を可視化することで、有効な施策を検討しやすくなると同時に、従業員体験価値の最大化を図りやすくなります。

エンプロイージャーニーマップのフォーマット、作成方法に決まりがあるわけではありませんが、簡易なものであれば、以下の手順で作成できます。

手順1:
従業員との接点(タッチポイント)をすべて列挙する

手順2:
各タッチポイントにおいて従業員が期待する体験を書き出す

手順3:
各タッチポイントにおける自社の現状を書き出す

手順4:
手順2と手順3のギャップ解消を意識しながら、各タッチポイントの体験価値を向上させる施策・アクションを検討する

エンプロイージャーニーマップのイメージ

エンプロイージャーニーマップの場合、実際にはタッチポイントの流れが綺麗に左から右へ進むのではなく、途中で行ったり来たりする点にご留意ください。

3-2. 「従業員が期待する体験」の具体例

エンプロイージャーニーマップの肝は「従業員が期待する体験」をどのように描くかです。その描き方次第で体験価値を向上させる施策・アクションの立案も異なってきます。

「従業員が期待する体験」の具体例を示しておきます。前述のイメージよりも、タッチポイントの区分を増やすと同時に、体験に付随する「従業員の心の声」も補足してみました。

《「従業員が期待する体験」の具体例》

タッチポイント 従業員が期待する体験 従業員の心の声
採用・内定期間 「ここで働きたい」と思える会社に出会う ここなら自分らしく働けそうだ
入社・オンボーディング 社会人になる不安を解消し、スムーズに職場に馴染める この会社でやっていけそうだ
日常業務 やりがいを持って日々の仕事に打ち込めている 仕事に対する充実感があ
上司や他メンバーと良い関係性を構築できている この仲間と一緒に働きたい
休暇・福利厚生 きちんと休暇を取得できる ちゃんと休めるから頑張れる
さまざまなリフレッシュの機会がある(リフレッシュを会社が支援してくれる) リフレッシュできるから、仕事も頑張れる
能力開発 さまざまな教育・能力開発の機会がある この会社ならば成長できる
評価・処遇 自分の仕事ぶりを公正に評価してくれる 努力をちゃんと見てくれている
自分の仕事ぶりに相応しいポジションに就く(昇進) 自分は会社から期待されている
異動 自分の希望する部署に異動できる 希望するキャリアを歩めている
ワークライフバランス 育児・介護の状況に応じた柔軟な働き方ができる 育児・介護と仕事を両立できる
退職 “卒業”として前向きに送り出され、良い関係が続く ここで働けて本当によかった

4.「若手社員」「中堅社員」「シニア社員」の体験価値の向上

「若手社員」「中堅社員」「シニア社員」という対象社員別の体験価値の向上ポイントを整理します。

(1)若手社員の体験価値の向上
若手社員の早期離職は多くの企業の共通課題です。離職防止のためには「入社・オンボーディング」の局面で「この会社でやっていけそうだ」「自分の会社選択は間違えていなかった」と思える体験を提供することが求められます。メンター(指導役)のきめ細かなフォローや、上司やメンターのみならず職場全体で新人を育てる体制も体験価値の向上に寄与します。また、職場で良き人間関係を構築したり、OJT等を通して成長実感を持つことも重要です。

若手社員の体験価値の向上

(2)中堅社員の体験価値の向上
中堅社員は、現場を支えるメンバーとして活躍が期待される立場です。一方で、仕事のマンネリやキャリアの先行きに不安を感じやすい時期でもあります。キャリア面談などで本人の希望するキャリアを的確に把握し、それに合致する業務体験や能力開発を行うことが、体験価値の向上につながります。本人の希望次第では他部署への異動も考慮すべきです。また、会社の将来を担う存在であるという期待を表明し、その期待に相応しい処遇を行うことも大切です。

中堅社員の体験価値の向上

(3)シニア社員の体験価値の向上
シニア社員は、これまで会社を支えてきたと同時に、豊富な経験・知見を有する存在です。その一方で、昇進・昇格機会の減少、自己成長の鈍化といった「キャリア・プラトー」(キャリアの停滞状態)を感じやすい時期でもあります。その意味では役職に囚われない「役割」に基づく貢献実感などが体験価値の向上につながります。たとえば、これまで蓄積してきた知見を活かした専門職としての活躍機会や、その知見の次世代への継承を含む、若手・中堅社員の育成役としての活躍機会などが挙げられます。

シニア社員の体験価値の向上

5.「経営者」「管理職」「従業員」が体験価値の向上に果たす役割

従業員体験の価値向上に関する施策立案・実行の中心は人事部門です。ただし、人事部門のみで推進する取り組みではなく、経営者や管理者、さらには従業員自身も積極的に関与することが求められます。

(1)「経営者」が体験価値の向上に果たす役割
経営者のリーダーとしての言動は、直接的・間接的に従業員の体験価値に影響します。たとえば、経営者と直接対話する機会で体験価値が高まることもあれば、経営者のメッセージに共感することで間接的に体験価値が高まることもあります。特に、お互いの顔が見えやすい中小企業であれば、簡単な声掛けも含めて、経営者とのコミュニケーション機会が増えれば、その分従業員の体験価値が向上するのではないでしょうか。

(2)「管理職」が体験価値の向上に果たす役割
管理職は、従業員に近い存在として日々の体験に影響を与えるキーパーソンです。日常業務で従業員がどのような体験をするのかは、上司(管理職)の業務付与に左右される部分が大きいといえます。また、日常業務の指導、フィードバック、面談、さらにはキャリアに関する面談、アドバイスなども体験の質に影響します。一方で、近年では部下が上司を選べない現象を揶揄した「上司ガチャ」という言葉がもてはやされるように、上司との相性の悪さを理由に退職していく若手社員も少なくなりません。その意味では、上司とのマッチングに当たりハズレを感じさせないような管理職の育成が企業の急務なのかもしれません。

(3)「従業員」が体験価値の向上に果たす役割
(2)で日常業務における従業員体験は上司の業務付与(ジョブ・アサイン)に左右される部分が大きいと述べましたが、ジョブ・クラフティングの手法を用いれば、従業員が自分主導で体験価値を向上させることが可能です。具体的には自分の裁量の範囲内で業務の内容や方法を変えたり、自分発信で人との関わりを変えたり、仕事の意味づけに変更を加えるものです。その意味では、若手社員にジョブ・クラフティングの手法を習得させるための研修実施なども有効な取り組みとなります。

「経営者」「管理職」「従業員」が体験価値の向上に果たす役割

あなたの会社も従業員の経験価値の観点から人事施策を捉え直し、従業員が幸せなキャリアの旅を過ごせるように施策を再構築しませんか。

 

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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