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コミュニケーション

いきいき組織づくりのキーワード 「コミュニケーションギャップの解消」

いきいき組織づくりのキーワード 「コミュニケーションギャップの解消」

キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「コミュニケーションギャップの解消」です。

1.「現場とのコミュニケーションギャップ」とは

1-1.現場の声が経営者に届いていますか?

「現場に経営者の声が届いているか?」
「現場社員の声が、経営者であるあなたに届いているか?」
「経営者として、現場社員の実態・本音を把握できているか?」
これらの問いに、胸を張って「YES」と答えられる経営者はどれくらいいるでしょうか。
「経営理念」は「企業理念」とも呼ばれ、企業経営の根幹となる考え方を定めたものです。その定義、範囲、解釈は多様であり、「企業によってさまざまな経営理念のカタチがある」と捉えるべきでしょう。

現場の声が経営者に届いていますか?

経営者と現場社員の間に存在する「コミュニケーションギャップ」は、組織の活力を奪い、成長を阻害する大きな要因の一つです。

今回は主に中小企業を念頭に置き、経営者と現場社員のコミュニケーションギャップの解消から、組織をいきいきを考えたいと思います。

1-2. 「経営者-現場社員」間の4つのコミュニケーションギャップ

経営者と現場社員のコミュニケーションを考える場合、「経営者→現場社員」「現場社員→経営者」という2方向が対象となります。

また、「コミュニケーション=意思疎通」のように位置づけると、発信者が「伝える」だけでは不十分であり、受信者がそれを「受容する」ことで、はじめてコミュニケーションが成立する(=「伝わる」)と説明できます。すなわち、コミュニケーションが成立するためには、「(発信者が)伝える」「(受信者が)受容する」という二段階が必要となります。

これらを踏まえると、経営者と現場社員のコミュニケーションギャップ発生とは、以下の4つの状態がイメージされます。

①経営者の思い・声を現場社員に「伝える」機会がない
②経営者の思い・声が現場社員に「受容されない」
③現場社員の思い・声を経営者に「伝える」機会がない
④現場社員の思い・声が経営者に「受容されない」

「経営者-現場社員」間の4つのコミュニケーションギャップ

2.なぜ中小企業でコミュニケーションギャップが生まれるのか

中小企業はコミュニケーション経路が短く、経営者と現場社員の意思疎通が図りやすいと思われがちです。それにもかかわらずコミュニケーションギャップが発生している場合、以下のような要因が考えられます。

中小企業でコミュニケーションギャップが生まれる要因

(1)「本音」の対話機会の不足
表面的にはコミュニケーションが取れているように見えても、実際には「本音」が交わされる場がないというケースは少なくありません。業務上の報告・連絡・相談にとどまり、経営の意図や現場の実情といった“深い対話”がなされないことが、すれ違いの温床となります。特に忙しい経営者ほど、「聞いているつもり」「伝えているつもり」になってしまいがちです。

(2)心理的距離の遠さ
物理的には同じオフィスで働いていても、心理的な距離が遠ければ、声は届きません。現場社員が「経営者には遠慮してしまう」「気軽に話しかけられない」と感じている場合、それは“見えない壁”となり、コミュニケーションの阻害要因となります。経営者が意図せずとも現場から「怖い存在」「評価者」というイメージを持たれてしまうこともあります。

(3)“当たり前”のギャップ
経営層と現場では、価値観や優先順位が異なることがあります。そうなると、経営者の「当たり前」と現場の「当たり前」に違いが生じます。そして、お互いの「当たり前」を前提としてコミュニケーションを図ると、衝突・対立が生じてしまいます。

3.コミュニケーションギャップがもたらす弊害

経営者と現場社員のコミュニケーションギャップが発生した場合、以下のような弊害が懸念されます。

(1)経営者の施策・メッセージが実現されない
経営者が打ち出す施策やメッセージが、現場とうまく共有されなければ、その実現は難しくなります。特に、その意図が正しく伝わらないと、現場が不安・不満を抱き、ポジティブな取り組みさえネガティブに受け取られることがあります。
(例) 経営者が新たに打ち出した施策の意図が誤解されて伝わり、現場のモチベーションが低下した。

(2)ボトムアップ型マネジメントの推進が困難
現場の声が上げづらい雰囲気が醸成されると、自分発信で会社を良くしようとする意識が希薄になってしまいます。さらに「声を上げることはマイナス評価につながる」と考える社員が増えるおそれもあります。その結果、「下意上達」で現場の意見を経営者が吸い上げ、意思決定に反映するボトムアップ型マネジメントの推進は期待できなくなります。
(例) 「自分発信で会社を良くする」という自責思考ではなく、「会社が良くならないのは自分のせいではない」「自分は言われたことをやればいい」という他責思考の現場社員がほとんどである。

(3)現場の見えづらい課題が放置される
現場の実態を経営者が把握できないと、現場の課題(特に見えづらい課題)が放置されてしまいます。現場の声が経営者まで届いていないケースや、現場の声が経営者に届いても、その声を経営者が軽視しているケースなどが考えられます。
(例) 現場社員が学習・成長の観点から業務フロー見直しを要望したが、経営者は生産性の観点から改善効果が低いと判断し、見直しを先送りしてしまった。その結果、「仕事に対するやりがい」という現場の課題が放置されてしまった。

(4)組織に“温度差”が生まれる
経営者の「当たり前」と現場の「当たり前」の違いが目立つようになると、経営者と現場が別々の方向を向いてしまい、組織内に温度差が生まれます。温度差が生まれると、同じ企業で働いていながら、経営者の発信内容を現場は「自分には関係ないこと」と受け止めてしまいます。
(例) 経営者が新ビジョンを策定し、全社員向けに説明したが、現場社員たちの反応は「自分には関係ない」「実現できるはずがない」というものであった。

コミュニケーションギャップがもたらす弊害

3-1. 従業員エンゲージメントの向上

経営理念に対して従業員が共感すれば、自分の仕事が組織の大きな目的や社会的な価値とどのように結びついているかを理解しやすくなると同時に、自分が組織の一員として重要な役割を果たしていると感じ、エンゲージメントが向上します。エンゲージメントの向上は、従業員の自社に対する誇りや、仕事に対するやりがいを高めます。

3-2. 組織の一体感の醸成

経営理念を体系的に整備し、それを全社で共有することで、企業全体が一貫した方向性を持つことができます。全員が同じ目標に向かって進むことができ、組織の動きが一体感を持つようになります。経営理念という「合言葉」があることで、従業員同士や部門間の連携や協力が生まれやすくなります。

3-3. 従業員の自律的行動の促進

経営理念を体系化することは、従業員に自律的行動を促進するための強力な基盤を提供します。各従業員にとって、経営理念が「この状況で自分は何をすべきか」という判断基準となり、上司からの指示を待つことなく自律的に行動できるようになります。その結果、従業員の責任感が高まると同時に、高い成果を上げやすくなります。

4.コミュニケーションギャップ解消のための具体的方策

こうした経営者と現場社員のコミュニケーションギャップ解消のための具体的方策について、ここでは4つ示しておきます。

方策1:対話の「場」を意図的に設計する

経営者と現場が相互理解を図るための対話の場です。対話が生まれるには、リラックスできる環境と、話しやすい雰囲気が必要です。定例のミーティングとは別に、カジュアルな対話の場や“対話を目的とした”集まりを企画することが有効です。特に経営者が「聴き役」に徹することが成功のポイントです。

方策1(対話の「場」を意図的に設計する)の取り組み例

方策2:現場の声を“安心して出せる”仕組みをつくる

声を上げた社員が損をしない、むしろ称賛されるような文化を作ることが、安心感の醸成につながります。現場の声を“安心して出せる”仕組みの成功例として有名なのが、未来工業株式会社(本社:岐阜県)の改善提案制度です。

方策2(現場の声を“安心して出せる”仕組みをつくる)の事例:未来工業株式会社の改善提案制度

(参考)未来工業株式会社HP「未来工業を知る」
https://www.mirai.co.jp/recruit/aboutus/

方策3:“経営者の当たり前”を言語化して伝える

経営者にとっては「当たり前」の判断基準や価値観も、現場から見れば「なぜそれを重視するのか」がわからない場合があります。思いを一方的に伝えるのではなく、背景や理由をていねいに語り、共通理解を育てることが重要です。

方策3(“経営者の当たり前”を言語化して伝える)の取り組み例

方策4:中間層(ミドル)を“通訳”として育成する

経営者と現場の間に立つ中間管理職(ミドル)は、両者をつなぐ「翻訳者」のような存在です。ミドルが経営者の思いを咀嚼して現場に伝えたり(ミドルダウン)、現場の意見を吸い上げて経営者に提言できる(ミドルアップ)ようになれば、コミュニケーションの質は飛躍的に高まります。

方策4(中間層(ミドル)を“通訳”として育成する)の取り組み例

5.経営者に求められる意識・行動

最後に、コミュニケーションギャップ解消のために経営者に求められる意識・行動を述べます。

(1)先入観を持たず、現場の声に耳を傾ける
これまで述べてきたように、現場との対話においては、経営者が良き「聴き役」となることが大切です。そのために必要となるのが、先入観を持たずに現場の話に耳を傾け、決して話を否定せず、遮らず、最後まで聴ききることです。それによって現場の本音を引き出しやすくなります。先入観なしに相手の話を聴くためには、「エポケー(※)」と呼ばれる自分の「当たり前」を一度留保する態度を意識することをお勧めします。
※「エポケー」
現象学の祖であるオーストリアの哲学者エトムント・フッサールが用いたことで知られる概念。もともとは「停止、中止、中断」を意味するギリシア語。

(2)現場が関心を持てる情報発信を意識する
情報発信については、現場の社員が「自分たちに関係のあること」だと感じられるように伝える工夫が求められます。現場の共感を得るためには、感情を込めたメッセージ発信が有効であり、その意味でテキスト・メッセージよりも動画による発信などが望まれます。

動画の場合、シナリオ・原稿を作り込みすぎず、自然な語り口、カジュアルな雰囲気で発信したほうが、現場社員が親近感を抱き、心理的距離が縮まります。反対に、プロンプターを用いてカンペを読みながらの情報発信は、カンペを追いかけることに注力するあまり、表情も硬く、情感が乏しくなるため、親近感を抱きづらくなります。その意味で、ある程度心理的距離が縮まるまでは、「何を話すか」以上に「どう話すか」を重視すべきかもしれません。

あなたの会社もコミュニケーションギャップを解消し、風通しの良い組織を実現しませんか。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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