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静かな退職

いきいき組織づくりのキーワード 「静かな退職」~「静かな退職」を許容する組織は、むしろ強い~

いきいき組織づくりのキーワード 「静かな退職」(「静かな退職」を許容する組織は、むしろ強い)

キーワードから「いきいき組織づくり」を考えるシリーズ。今回のキーワードは「静かな退職」です。

「静かな退職」状態の社員

1-2. 「ハッスルカルチャー」に対抗する概念

「静かな退職(Quiet Quitting:クワイエット・クイッティング)」という概念は、2022年頃からアメリカで注目され、昨年あたりから日本でもキーワードとして取り上げられることが多くなりました。

アメリカの調査・コンサルティング会社ギャラップ社の調査によれば、世界の労働者の約6割が「静かな退職」状態にあるという報告がなされています。

アメリカで「静かな退職」の概念が広まった背景には、キャリアや成長のために張り切ってがむしゃらに働く「ハッスルカルチャー(Hustle Culture)」への対抗があります。ハッスルカルチャーに疑問を抱く人や、ハッスルカルチャーに疲弊した人が、頑張りすぎない働き方である「静かな退職」という考え方に共感したのでしょう。

「ハッスルカルチャー」に対抗する概念

1-3. 「静かな退職」の日本における実態

日本における「静かな退職」の実態を、いくつかの調査結果から確認します。

(1)株式会社マイナビの調査結果

株式会社マイナビが実施した「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」の結果を整理します。

・20~50代の正社員で「静かな退職」をしていると回答した割合は44.5%であった。
・年代別の割合をみると、すべての年代(20代、30代、40代、50代)で40%以上であった。最多は20代で46.7%であった。
・「静かな退職」をしている人のうち、57.4%が「得られたものがある」と回答した。具体的には、「休日や労働時間、自分の時間への満足感(23.0%)」が最多で、「仕事量に対する給与額への満足感(13.3%)」で続いた。
(出所)マイナビキャリアリサーチLab

この調査結果で興味深いのは、「静かな退職」状態が特定の年代で突出しているのではなく、すべての年代で同じような割合で生じているという点です。「静かな退職」と聞いて、Z世代の20代・30代社員に多く見られる現象をイメージする人もいるかもしれませんが、そうではなくすべての年代で見られる現象であることを認識すべきです。

静かな退職

(2)クアルトリクス合同会社、パーソル総合研究所の調査結果

米国クアルトリクスの日本法人、クアルトリクス合同会社の日本における「働く人の実態・意識調査」(2025年8月4日発表)によれば、日本における「静かな退職者」の比率は13%という結果が報告されています。

※ここでは継続勤務意向は高く、自発的貢献意欲が低い人を「静かな退職者」と定義

(出所)クアルトリクス合同会社プレスリリース

株式会社パーソル総合研究所2017年より継続して実施している「働く10,000人の就業・成長定点調査」のデータに基づけば、調査対象者全体に占める「静かな退職者」の割合は、2025年で5.8%となっており、2017年(3.9%)との比較で約1.5倍となっています。
※ここでは残業時間、転職意向、就業観の調査データから「静かな退職者」を定義
(出所)パーソル総合研究所コラム「定点調査から見える「静かな退職」の動向 ~背景に潜む3つの就業変化~」(2025年06月12日公開)

(3)あなたの会社の「静かな退職者」はどれぐらいか

(1)と(2)の調査結果にかなりのギャップを感じるかもしれません。クアルトリクス合同会社やパーソル総合研究所の調査は、いくつかの項目の回答結果に照らして、「静かな退職者」を厳密に定義しているため、「静かな退職者」の比率が相対的に低い数値になっていると思われます。一方、マイナビの調査結果は、「静かな退職」の簡単な定義を示した上で、その状態であるか否かを回答させているため、「静かな退職」状態を拡大解釈しやすくなり、相対的に高い数値になっていると思われます。

この結果から、仮に社員が100人いるとすれば、少なく見積もっても5~6人、多めに見積もれば40名以上の「静かな退職者」が存在している可能性があると説明できます。

一定数以上の従業員を雇用する企業であるならば、「静かな退職」という課題は決して他人事ではないといえるでしょう。「静かな退職者」は、その呼称のように自らそれを表明することはほとんどない目立ちにくい存在です。しかしながら、確実に自社にも存在すると考えるのが現実的ではないでしょうか。

社員が100人いるとすれば・・・・

2.なぜ「静かな退職」状態になるのか

働く人がなぜ「静かな退職」状態になるのか、その要因を考えてみましょう。

なぜ「静かな退職」状態になるのか

(1)成長・キャリアへの無関心

成長意欲が高くなく、キャリアアップを望まないという傾向です。若手・中堅社員(20代・30代)、シニア社員に分けて整理しておきます。

成長・キャリアへの無関心

(2)コスパ重視(対価に見合わない仕事はしない)

仕事はお金を稼ぐための手段であり、対価に見合わない仕事はしたくないという傾向です。そのため、仕事において非効率なことを徹底的に排除していくと「静かな退職」状態に辿り着きやすくなります。

コスパ重視(対価に見合わない仕事はしない)

(3)ワークライフバランス重視

仕事だけでなくプライベートも充実させたいと考える人が増えており、そのことが「静かな退職」の選択につながっています。20代・30代を中心にワークライフバランスを重視する人が増えていますし、30代以上の人は家庭の事情でワークライフバランスを考慮せざるをえないケースもあるかもしれません。

ワークライフバランス重視

(4)ストレス回避(心身の不調の回避)

仕事のプレッシャーやストレスから解放されることで、「心の平穏」を回復させるものです。

(1)で「管理職の罰ゲーム化」に触れましたが、上のポジションを目指すほど、多くのプレッシャーやストレスに晒されることになり、その分、心身の不調が生じやすくなります。こうした反動で、「心の平穏」を回復させるために、「静かなる退職」を選択するパターンが考えられます。

管理職の罰ゲーム化

(5)会社・仕事への不満(でも転職・退職したくない)

会社・仕事に不満を感じているが、転職・退職にはリスクを感じているため、「静かなる退職」を選択するというものです。

この場合の不満とは、評価・処遇に対する不満や、仕事の内容・やりがいに対する不満、上司との相性や職場メンバーとの人間関係に対する不満などが挙げられます。

会社・仕事への不満(でも転職・退職したくない)

3.「静かな退職」への向き合い方

企業は「静かな退職」に対してどのように対応すべきなのか、いくつかの視点から検討してみます。

3-1. 「静かな退職」は否定すべきなのか

企業側の立場で考えた場合、「静かな退職」状態の社員が自社組織に存在することに対して、一般的には否定的に受け止める人が多いかもしれません。

(1)「静かな退職」がもたらす組織への悪影響

「静かな退職」に否定的な人が指摘する組織への悪影響をいくつか挙げてみます。

「静かな退職」がもたらす組織への悪影響

生産性の低下 静かな退職者の業務範囲が限定されることで、職場全体として仕事が進みにくくなり、組織全体の生産性が低下する。
他社員のモチベーション低下 他の社員が「自分は頑張っているのに、あの人(静かな退職者)は頑張っていない」という不公平感を抱き、モチベーションが低下してしまう。
職場環境の悪化 社員同士の協力や連携が困難になり、人間関係に亀裂が入る可能性もある。
人材育成の停滞 成長意欲の低い若手社員が増えると、将来を担うリーダーの育成が難しくなる。

(2)企業の人事担当者を「静かな退職」に賛成か反対か

1-3.でも紹介したマイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」に、以下のような興味深い結果があります。

  • 企業の中途採用担当者に「静かな退職」について賛成か反対かを聞いたところ、「賛成」が38.9%で、「反対」の32.1%を6.8pt上回った(「どちらともいえない」が29.0%)。
  • 賛成意見では、「人それぞれだと思うので、キャリアアップを求めない働き方も考慮すべき」、「そういった人材がいないとなりたたない業務もある」といった意見がみられた。

(出所)マイナビキャリアリサーチLab

調査対象が「中途採用」の担当者という点は考慮すべきですが、一般の人がイメージする以上に、「静かな退職」を肯定する人事担当者が多い調査結果になっているのではないかと思います。

本格的な人手不足時代に突入した今日、「静かな退職」状態であっても貴重な人材であり、辞められては困ると考えるのであれば、「静かな退職」を否定せずに、許容するスタンスが必要になります。

3-2 「静かな退職」状態を予防・改善すべきか

「静かな退職」への企業の対応を考える場合、「いかに『静かな退職』状態になることを防ぐか」「いかに『静かな退職』状態を改善するか」というアプローチをよく見かけます。こうしたアプローチには、「『静かな退職』状態でいることは望ましいことではない」という前提があるように思われます。

確かに、本人は望んでいなかったが、不本意なかたちで「静かな退職」を選択した社員のことを考えれば、「静かな退職」状態の予防・改善策の検討は有効だと思います。

一方、本人が望んで「静かな退職」を選択している場合には、無理に働きがいやモチベーションの向上を促そうとすると逆効果になり、最悪の場合には退職に至るおそれもあります。

「静かな退職」状態を予防・改善すべきか

3-3 「静かな退職」状態でも組織に貢献できる

最初に述べたように、「静かな退職」は「必要最低限のやるべきことはやるが、それ以上のことはしない」状態です。このように書くと、「静かな退職=やる気がない」という図式から、組織に貢献しない存在のようなイメージを抱くかもしれません。

しかしながら、「必要最低限のやるべきことはやるが、それ以上のことはしない」は、「必要最低限のやるべきことは、きっちり遂行する」と捉え直すことも可能です。このように捉えれば、(限定的かもしれないが)組織に貢献できる存在といえるのではないでしょうか。

「静かな退職」状態でも組織に貢献できる

4.2つの働き方を共存させるマネジメント

それでは「静かな退職」状態の人材をどのようにマネジメントしたらよいのでしょうか。

4-1. 「成長志向」人材と「安定志向」人材

まず「静かな退職」を許容するのであれば、ネガティブな印象を抱かせる呼称を改めるべきでしょう。たとえば、「成長やキャリアアップを重視する働き方」を「成長志向」、「静かな退職」状態を含む「成長やキャリアアップ以外のことを重視する働き方」を「安定志向」のような呼称にすれば、かなり印象が異なってくるのではないかと思います。

「成長志向」人材と「安定志向」人材

4-2 「安定志向」の選択もキャリアオーナーシップ

近年、キャリアオーナーシップを重視する企業が増えています。

キャリアオーナーシップに「自分に合った働き方を選ぶこと」も含まれると考えれば、「無理に頑張らない」「ワークライフバランスを優先する」などの安定志向も、主体的選択であれば立派なキャリアオーナーシップといえるのではないかと思います。

企業側が「安定志向」もキャリアオーナーシップの一つであると認めれば、社員もその選択を表明しやすくなり、
業側もその選択を尊重し、その志向に沿った人材活用を前向きに検討しやすくなります。

「安定志向」の選択もキャリアオーナーシップ

4-3 「成長志向」と「安定志向」を共存させるマネジメント

「成長志向」「安定志向」という2つの働き方を共存させるマネジメントを考えてみますよう。

(1)2つの働き方の期待役割の明確化と本人のキャリア志向の確認

まず2つの働き方(成長志向・安定志向)に対する期待役割を明らかにしましょう。それぞれの働き方で本人が求めていることを考慮し、役割を遂行することでそれが実現できるという図式を示すことができれば、役割に対する納得感を得やすくなります。

2つの働き方の期待役割の明確化と本人のキャリア志向の確認

期待役割を明らかにしたならば、上司が面談などで部下と対話し、どちらのキャリアを志向しているのかを確認しましょう。「安定志向」を志向する部下の場合、「なぜ安定志向(静かな退職)を選択しているか」まで把握できれば、よりきめ細かなフォローが可能となります。ただし、その理由を無理に聞き出すことは不快感を与えて逆効果になるので、あくまで本人が自ら話してくれる範囲内に留めましょう。

(2)それぞれの貢献に応じた評価・処遇

本人が自らのキャリア志向にコミットしたならば、それぞれの貢献に応じた評価・処遇を確保しましょう。

成長志向の社員の評価・処遇
成長志向の社員の場合、「(成長志向の)自分は頑張っているのに、(安定志向の)あの人は頑張っていない」という不公平感を抱くことがあるかもしれません。その場合には、成長志向と安定志向とでは貢献の仕方が異なるので、その分、評価・処遇には差があり、(平等ではなく)公平に扱っている点を伝えましょう(※)。
※ 評価・処遇は管理職だけではコントロールできない部分もあり、管理職の意思決定のみで公平性の確保が難しい場合には、人事が人事評価・人事制度・賃金制度等の改訂に着手する必要が生じます。

加えて、安定志向に対する偏見が成長志向の社員にあれば、その修正に努めましょう。安定志向の社員も頑張りすぎない範囲内で組織に貢献しているし、そうした貢献による組織の土台があるからこそ、成長志向の社員が活躍できる側面もあるかもしれない点を、理解してもらうことが大切です。

成長志向の社員の評価・処遇

安定志向の社員の評価・処遇
安定志向の社員は、キャリアアップや高収入を求めているわけではなく、評価・処遇にはあまり関心がないかもしれません。だからといって、自身の貢献が不当に低く評価されることには不満を感じるはずです。

安定志向の社員は、モチベーションが高いとはいえないのかもしれませんが、やる気がないということではありません。生活の安定のために(=一定の収入を得るために)、最低限のやるべき仕事を遂行しなければならないというモチベーションはあるはずです。したがって、貢献をしっかり評価し、本人にフィードバックすることでモチベーションを維持することが不可欠です。それを怠れば、やる気のない「無気力社員」となってしまう可能性があります。

安定志向の社員の評価・処遇

(3)生産性、職場環境、人材育成への懸念について

3-1(1)で「静かな退職」(安定志向)がもたらす組織への悪影響を示しました。このうち、「他社員(=成長志向の社員)のモチベーション低下」については、(2)で対応策を示したので、それ以外の懸念点への対応についても触れておきます。

「生産性の低下」への懸念
「静かな退職」で生産性の低下を懸念するのは、当該社員のパフォーマンスが低いからではなく、その仕事を引き受けるか否かが不確実だからと思われます。したがって、「この仕事はOK、この仕事はNG」ということをある程度把握できれば(あるいは取り決めできれば)、それを踏まえた仕事の割り当てをすることで、生産性への影響は少なくなると思われます。

「職場環境の悪化」への懸念
「静かな退職」の人は協調性に欠け、そのことが職場の人間関係への悪影響をもたらすという懸念です。ただし、協調性に欠ける人は成長志向の人のなかにもいるはずであり、「静かな退職」特有の懸念事項とする必要はないように感じます。

また、「静かな退職」状態で協調性の欠如が顕在化しやすいのは、業務範囲外の協力、残業を要する協力、業務に直接関係しないイベントへの参加要請などです。「何がOKで、何がNGなのか」を周囲が理解していれば、大きな軋轢は生まれないようにも思います。

「何がOKで、何がNGなのか」を周囲が理解していれば、大きな軋轢は生まれないのでは?

「人材育成の停滞」への懸念
成長意欲の低い(=安定志向の)若手社員が増えると、将来を担うリーダーの育成が難しくなるというものです。これは一概にそのようになるとは言えないのではないでしょうか。たとえば、安定志向の若手が多ければ、反対に、成長志向の若手はリーダーとしての自覚が芽生えやすく、その分育成がしやすくなるかもしれません。

4-4 「安定志向」から「成長志向」への転換ルートの確保

「成長志向」「安定志向」というキャリア志向は、本人が一度決めたら、それ以降は変更できないというものではありません。本人の意向次第でいつでも変更できるようにしておくことが必要です。

「安定志向」から「成長志向」への転換ルートの確保

年に一回程度はキャリアについての面談を行い、キャリア志向に変更がないかを本人に確認することが望まれます。

まとめ

現代の組織は、全従業員に情熱や成長を求めることが現実的ではなくなっています。だからこそ、「『静かな退職』を悪とせず、むしろ共存し、活かす」という視点が求められています。成長を目指す人と、日々の安定を支える人。その両方がいてこそ、持続可能で多様性のある組織が育まれます。

本格的な人手不足時代、価値観が多様化した社会においては、「静かな退職」を許容できる組織こそが、強い組織といえるのではないでしょうか。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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