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働きやすさ

いきいき組織紹介~株式会社陣屋様
改革を成し遂げた老舗旅館に学ぶ【4】
旅館を憧れの職業に~従業員満足を向上させるヒント

改革を成し遂げた老舗旅館に学ぶ(4) 旅館を憧れの職業に~従業員満足を向上させるヒント

旅館DX、週休3日制などで注目される老舗温泉旅館 陣屋様の“いきいき”を紹介する4回シリーズ。ラストとなる第4回では、「旅館を憧れの職業に」という陣屋のコンセプトを掘り下げながら、陣屋が実践する幸せな働き方を整理します。

〈インタビューへのご協力〉
株式会社陣屋 代表取締役 女将 宮崎 知子さん
株式会社陣屋 予約・フロント主任 本田 有希子さん
株式会社陣屋 接客主任 紺野 愛子さん

1.旅館を憧れの職業に

陣屋では、「物語に息吹を。」と共に「旅館を憧れの職業に」というコンセプトが掲げられています。そこには陣屋のみならず、日本の旅館・ホテルさらには観光を元気にしたいという思いが込められています。

(1)憧れの職業の条件

陣屋グループ公式サイトには、「憧れの職業の条件」として以下の5つが示されています。

《憧れの職業の条件》
1. お客さまに喜ばれる仕事であること
2. 働くスタッフとその家族が幸せであること
3. 生産性の高い高収益企業であること
4. 夢を持ち続けられる仕事であること
5. 世界一の何かを持っていること
(出所)陣屋グループ公式サイト

(2)旅館業を憧れの職業とするための課題

厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」(令和6年8月27日公表)によれば、令和5年の産業別の離職者数をみると、「宿泊業,飲食サービス業」が約1,422千人で全16産業の中で最も高くなっています。離職率(※)をみても、「宿泊業,飲食サービス業」は26.6%で、「生活関連サービス業,娯楽業」の28.16%に次ぐ二番目に高い水準となっています。
※離職率:常用労働者数に対する離職者数の割合

また、厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」(令和6年12月25日公表)によれば、労働者の平均年次有給休暇の取得状況を全産業平均でみると、労働者1人平均取得日数は11.0日、労働者1人平均取得率は65.3%です。一方、産業別平均でみると、「宿泊業,飲食サービス業」の労働者1人平均取得日数は5.9日、労働者1人平均取得率は51.0%であり、全16産業の中でいずれも最下位です。この結果から、旅館業では有給休暇を取得しづらい状況があることが推察されます。

それ以外にも「休日が少ない」、「勤務時間が長い」という要因も加わり、「休めない職業」というイメージが強いのが旅館での仕事かもしれません。

旅館を「憧れの職業」とするためには、この「休めない職業」というイメージを払拭する必要があります。

「旅館業=休めない職業」というイメージを払拭する必要性

今回インタビューにご協力いただいた紺野さんも、旅館で働くことに憧れを抱きつつ、以前はそこに敷居の高さを感じていました。
「私は学生の頃、旅館など接客する仕事に就きたいと思っていました。一方で、旅館で働くことは、とても敷居が高く感じられて、旅館で働くならば何もかも投げ捨てて働く覚悟が必要だと感じていました。当時の私にはそこまでの覚悟はなかったので、新卒時には旅館への就職は断念しました」(紺野さん)

株式会社陣屋 接客主任 紺野 愛子さん

(3)異例の週休3日制を導入した陣屋

こうした中、陣屋では「旅館を憧れの職業」とするために、働きやすい環境づくりのモデルを示してきました。2014年には週休1.5日制を採用し、2018年からは旅館では異例の週休3日制を導入したことで、さまざまなメディアからも注目されました。

異例の週休3日制を導入した陣屋

以前は旅館に敷居の高さを感じていた紺野さんも、現在は旅館でいきいきと働いています。やはり週休3日制であることが大きいようです。
「週休3日で連続3日間の休みがあり、その分、金土日月の4日間を密度高く働くことができています。前職(宿泊業勤務)でも休日はありしましたが、シフト制があったので予定が立てづらい面がありました。ポツンポツンとある休日では、自分の生活に必要なものを買い出しに行くとか、疲れたから休んでいるだけとか、リフレッシュしきれなかったように思います。一方、陣屋では毎週火水木というかたちで休日がしっかり決まっているので予定も立てやすく、3日間休みがあるからゆとりがあります。自分の用事はもちろん済ませて、ゆっくり休むこともでき、仕事のために勉強しようと思えば、他の施設へ食事に行くこともできます」(紺野さん)

3日間休みがあることで、仕事のプラスとなるような休日の過ごし方をしている従業員も多いようです。本田さんが教えてくれました。
「毎週3日間休日がありますが、みんなそれぞれ休みを満喫しつつ、他の施設に行って勉強しているスタッフもいます。他の旅館にお客様として行き、その旅館で『こういうところがいいな』と思ったら、それを陣屋でもやれないか提案することもあります。また副業も認められているので、休日を利用して清掃会社で働き、陣屋でも活かせる清掃の知識を学んでいるスタッフもいます」(本田さん)

株式会社陣屋 予約・フロント主任 本田 有希子さん

2.定休日の設定~従業員満足の向上のために

前述のように、週休3日制の導入(2018年)の前段階として、2014年の定休日(休館日)の設定があります。定休日設定の背景には、従業員満足(ES)の改善の必要性がありました。宮崎さんに説明してもらいました。

(1)お客さま満足度の向上のためには、従業員満足度の改善が必要

「私たちの業界で『お客さま満足度の向上』は当然のことですが、そこにフォーカスしすぎていた面もあったと思います。お客さまはもちろん大切な存在ですが、そのお客さまに満足していただけるサービス・クオリティを維持・向上させるためには従業員の存在が不可欠です。その従業員の満足度を担保できなければサービス・クオリティを一定に保てなくなり、お客さまの満足度が下がってしまいます。この業界に入ってから、このメカニズムをよく体感できたので、従業員満足度を何より改善しなければならない、という問題意識が芽生えました」(宮崎さん)

株式会社陣屋 代表取締役 女将 宮崎 知子さん
お客さま満足度の向上のためには、従業員満足度の改善が必要

(2)休館日を取ることでシフトを安定させる

定休日(休館日)の設定のきっかけはシフトの安定でした。
「当時、シフトや有給休暇取得に対する不公平感が出ていました。また、シフトを作成する従業員の負担が大きくなり、それが原因で辞めてしまうといった事態も起きていました。どんな人が作っても、シフトは平等にならないですし、百点満点のシフトはないと思います。そこで『じゃあ、もっとシフトを作りやすくするために休館日を設けて、全員が一斉に休めばよいのではないか』と考えるようになりました」(宮崎さん)

「休館日の設定=営業日の減少」であり、営業日の減少は売上減少に直結するものですが、旅館の稼働状況を考慮して、宮崎さんは休館日の設定を決断しました。
「陣屋の立地は特殊で、観光に絡めて集客するのが非常に難しい立地です。昔からお客さまの旅の目的地になる(陣屋目当てにお客さまが鶴巻温泉に来る)ことを目標として集客活動を行ってきました。その結果、土日が忙しくて、火水がお客さまの人数・稼働が低くなります。そうなると社員が火水に有給を取得することが多くなり、パートさんで火曜、水曜をなんとか回す形になっていました。その場合、火水にハプニングが起こったとき、少し後手に回りやすくなってしまい、サービス・クオリティが一定に保てないリスクがあると感じていました。そこで稼働が低い日の営業を止めて、休日にしてみたらどうだろうと思いはじめました」(宮崎さん)

シフトの安定に加えて、宮崎さんには「疲れたし休もう」という思いも湧き上がりました。
「事業承継したとき、EBITDA(償却前利益)がマイナス6千万円だったんです。 これを黒字化するのに2年半の時間を要しましたが、私だけではなく、スタッフも忙しかったし、本当に一生懸命やってくれたと思います。その頑張りに対して、給与は徐々に上がっていたのですが、それでも従業員への還元が足りていないと思っていました。そこで、みんな疲れていたし、定休日(休館日)として還元しようという思いに至りました。『定休日作ります』と発表したとき、ほとんどの従業員は驚いていましたが、否定的な言葉は一切なく、みんな「やったー」しかなかったんです」(宮崎さん)

定休日(休館日)の設定

こうした流れで、現在では週休3日制となり、「1.(3)異例の週休3日制を導入した陣屋」で述べたように、従業員は仕事とプライベートのメリハリがついたことに高い満足度を感じています。

3.旅館であっても子育てとの両立できる働き方

旅館業で働く場合、「子育てとの両立できる働き方が難しい」という課題も存在します。

そうした中で、本田さんは子育てしながら陣屋で働いています。
「私には幼稚園の子どもがいるので、風邪を引いたりすると休まなければいけません。組織によっては、他のスタッフに気を遣い、申し訳ないという気持ちから有給休暇を取りづらいかもしれません。しかしながら、陣屋で働いていると、融通を効かせてもらって、遠慮することなく有給休暇を取得しています」(本田さん)

株式会社陣屋 予約・フロント主任 本田 有希子さん

「実は2019年に子どもが生まれたときに、会社を辞めるつもりでいたんです。 両立できるわけがないが思っていました。育児休業制度がありますが、多くの旅館業では取得しづらい面があり、陣屋でも先輩社員は子どもが生まれたときに辞めていました。そのため私も『辞めようと思っています』と女将さんに相談したら、『じゃあ、その(育休取得の)第1号になればいいじゃない』と言っていただけたので、産休、育休をしっかり取得できました」(本田さん)

復職についても配慮してもらいました。
「私が入社したときに、お子さんがいる先輩もいましたが、子育てとの両立は難しいと断念していたのを見てきたので復職も簡単じゃないと思っていました。そんなとき、女将さんから『じゃあ週1から始めよう』と提案してもらって毎週土曜日だけ出勤するようにして、少しずつ慣らしていきました。正直、『私、旅館の仕事をしながら、子育てと両立できるんだ』と自分でも驚きましたし、同業の友人からも『いいな』と羨ましがられました」(本田さん)

旅館であっても子育てとの両立できる働き方

2、3で述べた取り組みによって、陣屋は「休めない職場」「子育てとの両立が難しい仕事」という旅館のイメージを払拭しています

4.高いチームワークで働く喜び

陣屋では、全従業員が1つのチームとして一致団結している点も働きやすさにつながっているようです。

紺野さんはチームで一致団結して働けることに高い満足度を感じています。マルチタスクだからこそ、互いにサポートしやすく、チームワークを実現できると教えてくれました。
「特にみんなで『よしやるぞ』といったことは言いませんが、自然とみんなで一致団結して助け合いながら働いています。そういったチームワークを実現できるのは、マルチタスクであるという点が大きいかもしれません。私にとってもマルチタスクで働けることが一番好きなところかもしれません。マルチタスクだからこそ、お互いの状況を理解でき、サポートもしやすいので、みんなでより良いサービスを提供しようという雰囲気が醸成されます」(紺野さん)

「陣屋大好き」「陣屋のスタッフ大好き」を公言する本田さんは、お客さまの感動をチームとして分かち合えるのが嬉しいと言います。
「接客スタッフ同士でもそうですし、調理場スタッフとも分かち合います。さらには陣屋コネクトも含めて陣屋のチームだと思っています。旅館スタッフとエンジニアという立場の違いはありますが、私たちの現状をお話しすると、『じゃあこういう部分を改善しようか』というシステム提案をしてくれます」(本田さん)

ここまで「旅館を憧れの職業に」という陣屋のコンセプトの実現を、「働きやすさ」の観点から整理してきました。

陣屋の「働きやすさ」

5.陣屋のこれから

最後に、これからの陣屋の人づくり、さらには従業員の将来についてお聞きしました。

(1)陣屋グループとしての人づくり

陣屋グループとしての人づくりにおいて、今後は研修センターとしての陣屋の役割が重要となると、宮崎さんは考えています。
「陣屋は旅館ですが、陣屋コネクトのショールーム、陣屋グループの人材を育てる研修センターという役割も兼ねています。系列に緑屋というセカンドブランドの旅館がありますが、そこのメンバーも陣屋に一時期預かって育成するというパターンが今後発生すると思われるので、研修センターとしてのノウハウをますます具現化させなくてはいけないと思っています」(宮崎さん)

株式会社陣屋 代表取締役 女将 宮崎 知子さん

また、「旅館を憧れの職業に」するという意味では、キャリアの間口を広げることも必要です。その意味で陣屋グループ全体として、さまざまなキャリアの受け皿が用意されています。
「旅館業は世襲が多い業界だと思います。施設を建設するためには多額の資金が必要ですが、個人でいきなり金融機関から何億もの融資を受けることは困難です。その意味でも新規参入の障壁は高いといえます。しかし陣屋グループの場合、緑屋のシリーズであれば、若いうちから店長、社長を任せることもできなくはないんです。融資の保証も含めて陣屋グループが後方支援することで、大きな負担なくチャレンジできます。若いうちに責任あるポジションを経験できるか否かで、培えるものが違ってくるし、見える景色も違ってきます」(宮崎さん)

「陣屋グループ全体として考えれば、さまざまなセクションがあり、そうした活動のなかで『自分がどうなりたいのか』というキャリアをイメージしやすくなったのではないかと思います。たとえば、接客を極めて、そのノウハウを指導する講師を目指す人もいれば、いずれ地元に帰って町おこしに貢献したいと考えている人もいれば、陣屋コネクトのメンバーが実家の旅館に戻って役員となり、今では陣屋コネクトのユーザーとなっているケースもあります」(宮崎さん)

陣屋グループのキャリア紹介

陣屋グループのキャリア紹介

(出所)陣屋グループ公式サイト

(2)従業員が考える陣屋での将来

従業員の二人には、自らの将来のありたい姿についてお聞きしました。

本田さんは、「子育てしながら旅館で働くお母さん」のモデルケースとなることを強く意識しています。

「実際に旅館の現場スタッフが陣屋コネクトをどのように使っているのか、他の旅館スタッフの方が陣屋へ見学に来る機会が増えています。そうしたなかでシステムの使い方に関する質問以外に、『お母さんって聞いたんですが本当ですか?』『旅館の仕事と子育ての両立ができるのですか?』と聞かれることも多くなりました」(本田さん)

「他の旅館スタッフの方だと、『有給休暇が簡単に取れるなんて嘘でしょう』と思われる方も多いと思います。でも『いや、陣屋は取れます』ということをお伝えしたいですね。私の場合、お泊まり保育や夕涼み会、遠足など子どもの幼稚園のイベントも多いのですが、イベントが土日であっても調整しながら、率先して有給休暇を取らせてもらっています。私を旅館で働くお母さんモデルケースとして、『陣屋さん、いいな』って思ってもらえたら嬉しいです」(本田さん)

株式会社陣屋 予約・フロント主任 本田 有希子さん

紺野さんは、「将来のことを聞かれるのは、私が一番苦手な質問かもしれません」と前置きした上で、次のようなことを語ってくれました。
「私自身は将来というよりも、目の前の1組1組のお客さまのことをしっかり見て、サボらずに、細かいことに手を抜かず、お客さまが満足してお帰りいただくことを常に忘れずにいたいと思っています。そのために、お客さまがいらっしゃったら、すれ違う際に挨拶するだけでもいいので、必ず1回はお客さまとの接点を持つことができるようにしたいと思っています」(紺野さん)

株式会社陣屋 接客主任 紺野 愛子さん

この紺野さんの言葉を聞いて、少しハッとさせられると同時に、「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」という禅語を思い出しました。「脚下照顧」は「自分の足元をよく見なさい(履物をそろえなさい)」という意味ですが、未来にばかり目を向けて、「履物をそろえる」という目の前の所作がおろそかになってはいけない、ということを説く禅語です。紺野さんの言葉に、今の積み重ねが未来を創るという考え方の大切さを再認識しました。

以上4回にわたって、株式会社陣屋様の“いきいき”を紹介してきました。旅館経営の事業承継・経営立て直し、旅館DXをはじめとする改革の断行、「物語に息吹を。」「旅館を憧れの職業に」というコンセプトの実現など、多くの中小企業の経営者にとってヒントとなる取り組み・考え方が満載だったと思います。

宮崎さん、本田さん、紺野さん、貴重なお話ありがとうございました。

宮崎さん、本田さん、紺野さん、貴重なお話ありがとうございました。

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