ウェルビーイング 2022.8.19 ウェルビーイング×いきいき(3)~「みんなのウェルビーイング」実現のために #コラム #組織文化 「人とビジネスのいきいき」の視点から「ウェルビーイング」について考える3回シリーズ。第2回は、ウェルビーイングの多様なカタチを確認しました。最終回となる第3回は、ウェルビーイングの多様なカタチが共存できる組織づくりや、つながりを大切にする「みんなのウェルビーイング」実現について述べたいと思います。 目次1.ウェルビーイングな組織づくり1-1.組織の同質性から異質性へ1-2.十人十色のウェルビーイングが共存できる組織風土2.ありのままの存在を認める~ウェルビーイングな組織の基盤2-1.ウェルビーイングの「ビーイング(being)」に着目する2-2.ウェルビーイング(Well-being)とウェルドゥーイング(Well-doing)3.多様性を生み出す源になる「中空」3-1.対立を回避する「中空」構造3-2.つながりが求められる時代だからこそ「中空」が必要4.「みんなのウェルビーイング」でいきいき会社に! 1.ウェルビーイングな組織づくり 1-1.組織の同質性から異質性へ 第2回で述べたように、従業員のウェルビーイングのあり方は十人十色です。 このため、従業員のウェルビーイング実現のためには、十人十色のウェルビーイングが共存できる組織づくりが求められます。こうした組織をここでは「ウェルビーイングな組織」と呼ぶことにしましょう。 日本企業におけるウェルビーイングな組織づくりを考える際、一つ懸念されるのが組織の同質性です。よく「日本人や日本企業はチームワークを重視する」といわれます。そのベースにあるのはチームの同質性です。すなわち、周囲との調和を重んじ、自分の意見と周囲の意見にギャップがある場合、自分を押し殺して、周囲に同調することでチームワークを維持しようとします。背景には、日本特有の空気を読む文化やムラ社会を引きずる同調圧力があります。 確かに、組織の規律を保つために、最低限の同質性は必要かもしれません。しかし、必要以上の同質性を求めると組織の活力が失われます。ありのままの自分を押し殺した状態で、いきいき働くことは難しいでしょう。 ウェルビーイングな組織づくりにおいては、多様な価値観が認められる、異質性を許容する組織が求められます。その意味では多くの組織においてブレイクスルーが必要なのかもしれません。 1-2.十人十色のウェルビーイングが共存できる組織風土 職場で十人十色のウェルビーイングを共存させるためには、ありのままの自分を自己開示できると同時に、他者を尊重する組織風土の醸成が必要です。 (1)心理的安全性の確保 従業員がありのままの自分を自己開示しやすくするためには「心理的安全性」の確保が大切です。組織行動学の研究者で、ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・エドモンドソンが提唱した概念であり、「チームのメンバー一人ひとりがそのチームに対して、気兼ねなく発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる、と感じられるような場の状態や雰囲気をさすもの」です。 (2)ダイバーシティ&インクルージョンの推進 他者を尊重する組織風土の醸成のためには、ダイバーシティ&インクルージョンの推進が求められます。 ダイバーシティ&インクルージョンとは、「性別、年齢、国籍、ライフスタイル、職歴、価値観などの属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすこと」をさします。 従業員のウェルビーイングを十人十色のもと捉えるのであれば、「ウェルビーイングの向上」と「ダイバーシティ&インクルージョン推進」はセットで取り組むべきものでしょう。 第1回で、人口減少・社会構造の変化への対応として、国が「ウェルビーイング向上と多様な人々が活躍できる社会の実現の相互補完的な関係」を目指していることを述べましたが、これも同様の視点です。 2.ありのままの存在を認める~ウェルビーイングな組織の基盤 2-1.ウェルビーイングの「ビーイング(being)」に着目する 改めて「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉に着目すると、「ビーイング(being)」には「存在する(いる)」という意味があります。それを踏まえると、「ありのままの存在を認められる」ということがウェルビーイングの根底にあるように思います。企業の立場で考えると、「ありのままの存在を認める」ことが従業員のウェルビーイング向上につながります。 Googleは「プロジェクト・アリストテレス」で、「生産性の高いチーム」の特性を調査し、チームを成功へと導く5つの要素を明らかにしました。そのなかで他の4つの力を支える土台であり、チームの成功の最重要要素として挙げられたのが、1-2でも述べた「心理的安全性」です。チームがメンバーの存在を認め、メンバーが「ここには自分の居場所がある」と感じることが、チームビルディングで最も重要であることを示したといえます。 2-2.ウェルビーイング(Well-being)とウェルドゥーイング(Well-doing) 『むかしむかし あるところに ウェルビーイングがありました』(石川善樹/吉田尚記 著、KADOKAWA、2022年)という書籍のなかで、「ウェルビーイング(Well-being)」と対比する言葉として、「ウェルドゥーイング(Well-doing)」が紹介されていました。「ウェルドゥーイング」は「よりよく行動する」ことを意味します。 同書では、多くの組織で、何か「する」ことで自分の価値を認めさせないと「いる」ことが認められない、すなわち「いる」だけは価値が認められないことを指摘しています。ウェルドゥーイングで自分の価値を示さないとウェルビーイングになれないという構図です。 しかしながら、2-1で示したGoogle「プロジェクト・アリストテレス」の調査結果は、まず存在を認めるウェルビーイングが必要であり、それがウェルドゥーイングにつながることを示しているように思われます。 もし組織の現状が「ウェルドゥーイング→ウェルビーイング」という流れであるならば、それを反転させて「ウェルビーイング→ウェルビーイング」という流れをつくることが、ウェルビーイングな組織づくりにつながるかもしれません。 3.多様性を生み出す源になる「中空」 3-1.対立を回避する「中空」構造 1-2で十人十色のウェルビーイングが共存する組織について述べましたが、一歩間違えれば、そういった組織では価値観の深刻な対立(コンフリクト)が起こりかねません。 それを回避するためのヒントとなる概念が「中空(ちゅうくう)」です。これは文化庁長官も務めた、心理学者、京都大学名誉教授の河合隼雄が『中空構造日本の深層』(1982年)という書籍のなかで示したものです。例えば『古事記』の神話のなかには、冒頭に登場する三神「タカミムスビ」、「アメノミナカヌシ」、「カミムスビ」のうちの「アメノミナカヌシ」、「イザナギとイザナミ」が生んだ三貴神「アマテラス」、「ツクヨミ」、「スサノオ」のうちの「ツクヨミ」といった、ほとんど無為の神としてしか扱われていない存在が描かれています。 「アメノミナカヌシ」も、「ツクヨミ」も中心にいるはずの神なのに、なぜただいるだけの存在になっているのか」と疑問を持った河合隼雄は、日本人の心の深層には無為の「中空(空の中心)」があることを指摘しました。そして、「空」を中心に据えることで、対立する二つのものを均衡させ、深刻な対立を回避する構造になっていると述べています。 企業組織に置き換えれば、価値観が大きく異なる二人の間に「中空(無為の存在)」が介在することで、深刻な対立を回避できることになります。 3-2.つながりが求められる時代だからこそ「中空」が必要 河合隼雄は、「中空は単なる緩衝地帯であるだけではなく、様々なものを受けとめて多様性を生み出す源としても機能している」と述べています。 企業においても、組織における「中空」を許容することが、多様性を生み出す源になるのではないでしょうか。 従業員のなかには、業績に直結する能力は見劣りするものの、人と人をつなぐ職場の潤滑油としての能力に秀でた人がいます。そういったムードメーカー的存在を大切にすることで、組織に「中空」が生まれ、多様性が担保されやすくなるかもしれません。そのことが十人十色のウェルビーイングの共存につながります。 生産性や効率の追求が重視される今日の企業組織において、「中空」は非効率でムダなものと映るかもしれません。しかし、人と人とのつながりが希薄となりつつある一方で、多様性が求められる時代だからこそ、「中空」の重要性が増しているのではないでしょうか。 4.「みんなのウェルビーイング」でいきいき会社に! 3回にわたって人とビジネスのいきいき」の視点から「ウェルビーイング」について述べてきました。世の中の動きをみても、企業経営におけるウェルビーイングの重要性が増すことは確実でしょう。格差、分断、不寛容の時代だからこそ、多様なメンバーが多様な価値観を互いに尊重しながら、いきいきと働くことが尊いものになっていると思います。 従業員であろうが、顧客であろうが、地域住民であろうが、ウェルビーイングがあるところには人が集い、その輪が広がっていくはずです。笑顔でいきいき働く従業員を起点に、「みんなのウェルビーイング」を目指してはいかがでしょうか。 (著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)