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心理的安全性

心理的安全性×いきいき(1)~「心理的安全性」というバズワード

今や職場づくりやチームビルディングの必須ワードとなった感のある「心理的安全性」。その一方で、理解が曖昧なまま用いられることも多いワードという印象も受けます。3回シリーズで心理的安全性を再確認しながら、いきいき組織づくりへの活用について、述べたいと思います。

「あなたは心理的安全性をどのように説明しますか?」

「心理的安全性」という概念が注目されるきっかけとなったのが、Googleが2012年から開始した労働改革プロジェクト「プロジェクト・アリストテレス」です。同プロジェクトで「生産性の高いチーム」の特性を調査し、2015年11月に「チームを成功へと導く5つの要素(The five keys to a successful Google team)」(※)を公表しました。そのなかで他の4つの力を支える土台であり、チームの成功の最重要要素として挙げられたのが「心理的安全性(psychological safety)」です。

それ以来、多くの人が「心理的安全性」の重要性を説くようになり、多くのビジネスパーソンが当たり前に「心理的安全性」という言葉を発するようになりました。その一方で、冒頭で示したような問いかけに対して明確に答えられず、理解が曖昧なまま用いられることも多いバズワードという印象も受けます。

これは「psychological safety」の日本語訳「心理的安全性」という言葉が、本来の概念定義や、それが提唱された背景などを理解せずとも、一般的な日本語の解釈で何となくイメージできてしまうことに起因していると思います。

先に述べたGoogle「チームを成功へと導く5つの要素」では、心理的安全性を「チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる」と説明しています。

2.エドモンドソンの「心理的安全性」の考え方

多くの方がご存知のように、「心理的安全性(psychological safety)」の概念を提唱したのはハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授です。1999年の論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」で提唱されました。

エドモンドソン教授の著書『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2014年、英治出版)はロングセラーとなり、同じく『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(2021年、英治出版)は日本の人事部主催 HRアワード2021書籍部門優秀賞を受賞しています。

これらの論文・著書に基づき、エドモンドソン教授の「心理的安全性」の考え方を整理します。

2-1 エドモンドソン教授の「心理的安全性」の定義

エドモンドソン教授は、心理的安全性を「チームのメンバー一人ひとりがそのチームに対して、気兼ねなく発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる、と感じられるような場の状態や雰囲気」と定義しています。

また、「対人関係のリスクをとっても安全だと信じられる職場環境」とも説明しています。この場合の対人リスクとして、エドモンドソン教授は以下の4つを指摘しています。

①「無知」だと思われる不安(ignorant)
メンバーがわからないこと、知らないことがあったとき、質問すると周囲から「そんなことも知らないの?」「知っていて当然でしょ」と思われるかもしれないという不安です。こうした不安があると、困っていても質問や相談ができなくなってしまいます。

②「無能」だと思われる不安(incompetent)
メンバーが仕事で失敗したとき、「失敗しました」と報告すると、周囲から「能力がない」「あいつはダメな奴だ」と思われるかもしれないという不安です。こうした不安があると、失敗やミスを報告できなくなる、あるいは失敗やミスを認めず言い訳するようになります。さらに失敗を恐れて挑戦的な仕事を避けるようになってしまいます。

③「邪魔」をしていると思われる不安(intrusive)
会議などでメンバーが(多少議論を呼ぶような)新しいアイデアが浮かんでも、自分が発言することで、周囲から「議論を長引かせる」「余計なことを言う」と思われるかもしれないという不安です。こうした不安があると、自分の発言で邪魔したくないという思いから、斬新なアイデアが浮かんでも、それを出さないようになります。

④「ネガティブ」だと思われる不安(negative)
会議などでメンバーが批判的な意見を述べると、「あついはネガティブだ」「チームの和を乱す」と思われるかもしれないという不安です。こうした不安があると、自分の意見と周囲の意見にギャップがあっても、自分を押し殺して、周囲に同調するようになります。

裏を返せば、こうした4つの不安がない職場環境の実現が、心理的安全性の確保につながると説明できます。

「無知」だと思われる不安がない
→ わからないこと、知らないことがあれば質問・相談できる

「無能」だと思われる不安がない
→ 失敗やミスを報告しやすく、失敗を恐れず挑戦できる

「邪魔」だと思われる不安がない
→ 新しいアイデアが浮かんだら、積極的にそれを出せる

「ネガティブ」だと思われる不安がない
→ 自分を押し殺すことなく、批判的な意見を述べることができる

2-2 「心理的安全性」を測定する7つの質問

自分たちの組織・チームの心理的安全性は高いのか、低いのか?

エドモンドソン教授は、チームの心理的安全性を測定する7つの質問を示しています。

《「心理的安全性」を測定する7つの質問》
Q1. チームのなかでミスをすると、たいてい非難される。
Q2. チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
Q3. チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
Q4. チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
Q5. チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
Q6. チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的に貶めるような行動をしない。
Q7. チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。

2-3 なぜ「心理的安全性」が必要なのか

昨今の心理的安全性の扱われ方を見ていて気になるのは、心理的安全性を高めることが目的化していないかという点です。あくまでも心理的安全性を高めることは、目指すべき組織・チームを実現するための手段です。

後述する心理的安全性についての誤解が生じるのも、「何のために心理的安全性を高めるのか」という前提がすっぽり抜け落ちていることが多いからではないでしょうか。

エドモンドソン教授の考え方を確認してみましょう。

書籍『チームが機能するとはどういうことか』で、エドモンドソン教授は「変わり続ける世界の中で成功を収めるために、組織は学習をする必要があり、組織学習の原動力としてマネジャーはチーミングに心を配るべきである」と述べています。そして、学習する組織をつくるために求められるリーダーの行動の1つとして、心理的安全性の確保を挙げています。
※チーミング
チーミングとは協働する活動を表す造語であり、組織が相互に絡み合った仕事を遂行するための、より柔軟な新しい方法を示している。チーミングは静的な集まりではなく、活動的なプロセスである。

このように、「絶え間なく学習する組織をつくるために、心理的安全性を高める必要がある」というのがエドモンドソン教授の基本的な考え方です。「学習する組織」という目指すべき組織・チームのあり方がある点を念頭に置くことが、心理的安全性を正しく理解するためのポイントだと思います。

今日、離職防止、エンゲージメントの向上、パフォーマンスの向上、挑戦意欲の向上、問題の早期発見など心理的安全性を高めるさまざまなメリットが指摘されています。一方で、そうしたメリット享受ばかりにフォーカスしすぎると、知らぬ間にエドモンドソン教授が指摘した「絶え間なく学習する組織をつくる」という視点が抜け落ちやすくなるように感じます。

2-4 「学習する組織」には「心理的安全性」と「モチベーションと責任」が必要

「学習する組織」について、エドモンドソン教授は「心理的安全性」と「モチベーションと責任」の2軸で以下のようなフレームを示しています。

このフレームで大切なのは、心理的安全性のみを高めれば、学習する組織がつくれるのではなく、メンバーのモチベーションや責任を高めることも必要であるという点です。加えて、心理的安全性を高めることと、メンバーのモチベーションや責任を高めることは別物であることを、このフレームは示唆しています。心理的安全性を高めれば、モチベーションや責任が必ず高まるわけではないのです。

2-5 心理的安全性に対する誤解

心理的安全性を正しく理解するためには、心理的安全性に対する誤解を解くことも大切です。エドモンドソン教授は、書籍『恐れのない組織』で心理的安全性に対する誤解として、以下のものを挙げています。

誤解1:心理的安全性は、感じよく振る舞うこととは関係がない
心理的安全性とは、率直であるということであり、建設的に反対したり気兼ねなく考えを交換しあったりできるというものです。簡潔に述べれば、腹を割って話し合うことができる職場は、心理的安全性が高いといえます。反対に、腹を割って話し合うことができない、単なる仲良しクラブ的な職場や馴れ合いの職場は、心理的安全性が高いとはいえません。

誤解2:心理的安全性は、目標達成基準を下げることではない
「心理的安全性の高い職場=ぬるい職場」という誤解です。こうした誤解をする人は、2-4で示した四象限の「快適ゾーン」をイメージしていると思われます。「快適ゾーン」は、心理的安全性は高く、モチベーションと責任は低い組織です。しかしながら前述のように、「学習する組織をつくるために、心理的安全性を高める必要がある」というのがエドモンドソン教授の主張であり、決してぬるい職場を容認するものではありません。

誤解3:心理的安全性は、性格の問題ではない

「心理的安全性が高い人=外向的な性格の人」という誤解です。心理的安全性の高低と、「外向的」「内向的」といったメンバー個人の性格は関係ありません。チームに心理的安全性が確保されていれば、内向的な性格のメンバーであっても気兼ねなく発言でき、自分を安心してさらけ出すことができます。

誤解4:心理的安全性は、信頼の別名ではない
少しわかりづらいかもしれませんが、心理的安全性は、特定の二者間の関係性(=信頼)をさすものではなく、チームの職場風土に関わるものであるという点を強調しているのだと思います。誤解3も心理的安全性を二者間の関係性で捉えたために生じる誤解といえます。

誤解1、2は目指すべき組織の姿に対する誤解、誤解3,4は扱う対象に対する誤解と説明できます。

3.「なぜ心理的安全性を高めるか(Why)」を問い直すべき

「離職防止のために心理的安全性を高める」という話をよく聞きます。確かに、前述のGoogleの調査でも心理的安全性が高いチームはメンバーの離職率が低いことが報告されています。しかしながら、低い離職率は心理的安全性が高まった結果の副産物であって、それを目的に心理的安全性を高めたわけではありません。離職防止を主目的に心理的安全性を高めようとすると、それこそ「ぬるい職場」を生み出すことになりかねません。

エドモンドソン教授の心理的安全性の考え方や、心理的安全性に対する誤解を踏まえると、「なぜ心理的安全性を高めるか(Why)」という目的が曖昧なまま、「いかに心理的安全性を高めるか(How)」という具体的な方法論が先行してしまうと、知らぬ間に方向性がズレてしまうおそれがあります。

「いかに心理的安全性を高めるか(How)」を議論する前に、「なぜ心理的安全性を高めるか(Why)」を問い直してみましょう。

本来の意味での「心理的安全性」を確保するためには、「『学習する組織』を実現するために、いかに心理的安全性を高めるか」のように、目指すべき組織像を明確にしてアプローチすることが有効だと思います。

本コラムで心理的安全性を取り上げるのも、心理的安全性が高まり、「学習する組織」を実現させることで、組織や人がいきいきするためです。第2回以降も「学習する組織の実現」を前提として、心理的安全性について考えたいと思います。

以上、第1回ではエドモンドソン教授の考え方を中心に、「心理的安全性」という概念を再整理してみました。
知っているようで曖昧な「心理的安全性」というバズワードを、正しく理解することの重要性を改めて強調しておきます。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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