コミュニケーション 2023.6.22 自社のファンを増やすための手法「ハイポイント・インタビュー」 #チームビルディング #ハイポイント・インタビュー #自社ファン #良い経験の共有 目次1.「自社の良さ」あなたの会社では、どう表現されていますか1-1 採用説明会で耳にする、よくあるフレーズ1-2 はて、自社の良さ、とは?2.社員が会社を語る言葉から見えてくる3つのポイント2-1 主体性を発揮できる仕事のアサインがなされているか2-2 「良さがわかる経験」を見聞きしているか2-3 「言行一致」がおろそかになっていないか3.「ハイポイント・インタビュー」のすすめ3-1 体験を聴き合い、共有する3-2 進め方4.期待される効果と実施例4-1 期待される効果4-2 実施例5.最後に 1.「自社の良さ」あなたの会社では、どう表現されていますか 「わきあいあいとした、楽しい職場です」 人材採用の会社説明会で人事担当者が自分の会社をこう紹介したら、あなたは何を感じますか? 1-1 採用説明会で耳にする、よくあるフレーズ はじめまして。筆者は東証プライム上場の大企業から数十人規模のベンチャーまで、いろんな企業においてプレゼンテーションやコミュニケーションを教えています。 その中で各企業の人事・採用担当者向けに採用説明会のプレゼンテーションを教える機会も多くあります。「自社の良さを、自分の言葉で具体的に語ってください」とお願いして、2分程度のミニプレゼンを作成してもらいます。たった2分のプレゼンなのですが、自社への想いが人によりずいぶん違うなあと感じます。 「わきあいあいとした、楽しい職場」実はこれ、言うことがない時によく使われる、代表例のような言葉なのです。 1-2 はて、自社の良さ、とは? 「自社の良さ」を考えるのに苦労される方は多くいます。15分ほど考えメモにまとめる時間を取りますが、早く書きあがる人ほど「どこかで見かけた、無難な言葉」を持ってきていることが多い。 採用パンフレットにある言葉。説明会スライドに書いてある文章。社長が話している内容。人事部長が話していたフレーズ。あるいは、冒頭に書いたような、どこかで聞いたことのある抽象度の高いお決まりの文句。いずれも悪くはないし、もちろん間違いではありません。 ただ、それが「自分の言葉で語る」ことを求められたときに出てくるのであれば、人材採用の局面では問題が出てきます。 2.社員が会社を語る言葉から見えてくる3つのポイント ではどのような問題があると考えられるのでしょうか。 2-1 主体性を発揮できる仕事のアサインがなされているか 第一に、人事担当者が主体性をもって仕事に取り組めているか。自分の言葉が出てこないのは、普段から自分の意見や裁量を求められていない、ということがあるかもしれません。会社から言われた採用タスクをこなすのか、自社のビジョンや戦略の実現に資する人的資源の拡充ミッションを任されているのか。その動機付けや権限付与の範囲ひとつとっても、担当者の意識レベルは変わってきます。 2-2 「良さがわかる経験」を見聞きしているか 第二に、社内の「会社の良さを表す事例」を人事担当者が収集できているかどうか。説明会のコンテンツを作る場合には「自分の経験によらなくても、現場で見られる場面でもよいですよ」ということをお伝えしています。人によっては現場において見聞した印象的な出来事や仕事の成果を説明することができます。しかしそれが全く出てこない方もいます。人事担当者が現場に足を運び、働き甲斐や問題を収集するということができていないのかもしれません。もしくは、自分自身の経験を反芻する作業が欠けているのかもしれません。 2-3 「言行一致」がおろそかになっていないか 第三に、担当者が一貫性のないメッセージを発しているリスク。ほとんどの企業は、応募者に対して「主体性を持ち、自分ごととして仕事に取り組む意欲と能力」を求めています。そんな企業の人事担当者が、自社の魅力を語る際に一言も「自分の言葉」を発しなかったらどうでしょう?「ああ、この会社は、口では『若いうちから仕事を任せる、意見を聞く』と言っているけど、そんなことはないのでは?だってこの人の話は全部、会社や上司の用意した言葉だ。矛盾している。」そう感じて、志望度は減退してしまうでしょう。 「当社の採用基準はこうです。だからこの基準に合う人を集めるのが私の仕事です」と言われるよりも「私はこの会社をこうしていきたい。だからこんな人に応募してほしい、入社して欲しい。そうなれば、会社はもっともっと良くしていける。」という言葉のほうが、人事担当者の主体性が伝わります。言行一致、していますよね。 対外的なメッセージ、社内でのコミットメント、無自覚に一貫性を欠くものになってはいないでしょうか。 3.「ハイポイント・インタビュー」のすすめ 自社の良さを自分の言葉で語れること。いろんな「良い経験」を共有していること。これは採用担当者だけでなく、他の社員にとっても大切なことです。ではどうすれば、社員が自分の言葉で自社の良さを言えるようになるのでしょうか。 私が企業でのコミットメントやチームワークの強化をお手伝いする際に行っている「ハイポイント・インタビュー」という手法をご紹介します。 3-1 体験を聴き合い、共有する ハイポイント・インタビューとは「最もやりがいを通じ、いきいきしていた瞬間」「その体験を通して学んだこと」を相互インタビューによって確認し、その後数名のグループ内で共有する、というものです。 これはアメリカのケース・ウェスタン・リザーブ大学のD・クーパーライダー教授やタオス研究所のD・ホイットニー博士らにより提唱された「アプリシエイティブ・インクワイアリー」という、人や組織の持つポジティブな資源や強みにアプローチする考え方をベースにしているものです。 3-2 進め方 進め方は以下です。まずは4~6人のグループを作ります。さらにそこから相互インタビューのためのペアを作ります。ペアはそれぞれに分かれて、互いに「自分の今までの仕事の中で最も達成感を覚えた仕事」「最高のチームワーク経験」などのテーマについて1人20~30分のインタビューを行います。一度のインタビューではひとつの出来事について掘り下げます。その時の状況、仕事の内容、結果に導いてくれた自分の思いや信念、成功要因、今も大切にしている学び・・・。それらを丁寧にヒアリングしていくのです。インタビュー場所は、会議室に限らず、カフェなどでもよいです。飲み物を片手にゆったりと話すと、リラックスしてより深い話ができるでしょう。 1時間ほどで互いに聴き終わったら、グループに戻り、自分が聴いた話を他のグループメンバーに話します。メンバーは、話を聴き終わったら、その感想を付箋に書き、読み上げながらインタビューされた人に手渡します。 4.期待される効果と実施例 4-1 期待される効果 前述した「自社の良さを社員が語れない」という問題については、このワークでポジティブな経験を振り返り他者承認を得ることで、良さを語る大きな材料とすることができます。それはお仕着せではなく自分の言葉ですから、主体性がありますし、現場の生々しさも伝えることができます。社員自身の本音のメッセージとして一貫性も出てくるわけです。 実施していて感じるのは、「自分の成功体験をゆっくり語る」という経験はなかなか日常では行われていないのだ、ということ。時間を取って、聴いてくれる相手に対してじっくりと話していくことで、自分の中の当時の思い出や大事にしている価値観が改めて確認できます。 自分が話したことをあえてインタビュアーによって言語化してもらうことで、客観的に見ることができ、また、自分では見過ごしていた自社・自分の良さやその体験の価値も問いを受けることで改めて発見することもできます。 また、グループワークの中で他者の経験や想いにも触れることができますから、複数の視点で会社の良さを立体的に確認できることも効果のひとつです。 4-2 実施例 ある船舶系の企業で行った時のことです。その企業では職場の雰囲気が今一つよくなく、チーム間の業務の譲り合いや部署間のちょっとした対立などが起こる状況でした。チームビルディングの一環としてこのインタビューを行いました。 それぞれ異なる職場の方と2人一組でインタビューし、その後6人1グループで互いから聴いたエピソードやその時の想いをシェアします。 ある内勤系の女性社員の方は、折り合いの悪い営業部署の男性社員とペアを組むことになりました。気が進まない様子が見て取れました。 グループワークでのシェアにおいて、男性社員の披露してくれたエピソードは、数年前のプロジェクトでリーダーを務めた際の経験だったそうです。事務的なやり取りだけでは見えてこない彼の信念や同僚への思いやり、うかがい知れなかった苦労に触れ、ぐっと距離が縮まった様子でした。「そんな思いがあるから、営業事務に対してあのようなスタンスを取っているのか」。 逆もまたしかり。彼女が事務職としてどんなことに腐心しながら仕事を行っているか、今の職務についた際に彼女が実現したかったことは何か。男性社員はそれらを聴くことで彼女が営業部署に対して抱いている前向きな思いについてとても理解できたとつぶやいていました。「思いは同じだった。これからは少し、接し方を変えてみよう」。 このあと、社内横断で業務改善を企画・実行するプロジェクトチームを立ち上げて活動していったのですが、チームの立ち上げはスムーズに進み、部署をまたいだ活発なディスカッションを経て経営層への提言と実施を進めていくことができました。 また、これは別の企業の事例ですが、このワークで出たエピソードを、自社の採用説明会において現場社員が自分の言葉で体験談として話をするようにしました。応募者が以前に比較してよりリアルな実像を知ることができ、選考への応募率を向上させることができました。 5.最後に 以上、今回は自社のファンを増やす手法をひとつ、ご説明しました。 社員一人ひとりの成功体験や価値観を改めて共有し、大切にすることで「いきいき」感が高まります。それは組織のパフォーマンス向上や人材採用力の強化につながるのです。みなさまの会社でも、いきいきが広がりますように! 著者:タンタビーバ パートナー 岩下宏一(株式会社ビーユアセルフ代表取締役) 京都大学法学部卒業後、NTTで人事に携わり、劇団四季に俳優として転身しライオンキング他3作品500ステージに出演。その後人材採用支援企業での人事部長職を経てプレゼントレーナーとして独立。ロジカルシンキングにエンタメ要素をミックスしたストーリー構成法、舞台経験をベースにしたメソッドを用い、のべ300団体10,000人以上にプレゼンを指導。