ダイバーシティ 2024.7.16 ダイバーシティ×いきいき(2)~女性が活躍するために(後半) #インクルージョン #コミュニケーション #ジェンダーギャップ #多様な人材 #女性活躍 前半はこちら 目次3.女性活躍を阻害する3つの要因4.女性活躍推進の成功事例 3.女性活躍を阻害する3つの要因 女性活躍を阻害する要因を3つ指摘したいと思います。これら3つの要因は、日本IBMが1998 年に立ち上げた、女性社員の能力活用に関する諮問機関「ジャパン・ウイメンズ・カウンシル」が明らかにしたものです。当時、日本IBMは国内における女性活躍のトップランナー企業でしたが、IBMグループの国別比較では最下位でした。こうした問題意識から「ジャパン・ウイメンズ・カウンシル」を立ち上げ、女性社員の能力活用の阻害要因などを検討しました。 (1)女性活躍の社内ロールモデルの不在 第1の要因は、女性活躍の将来像が見えないというものです。具体的には、社内の身近な上司・先輩などに目標となる人(女性活躍のロールモデル)がおらず、数年後の目さすべきゴールをイメージできないというものです。こういった観点からも女性役員比率や女性管理職比率の向上が求められます。 (2)「出産・育児」と「キャリアアップ」の両立が可能な環境 第2の要因は、ワーク・ライフ・バランスに関わるものです。女性の場合、意欲・能力があっても、出産を契機に正規雇用労働者として働くことと家事・育児等を両立させることが難しく、退職せざるをえない状況に置かれるというものです。これは2-3で述べた L字カーブにはっきりと表れています。 (3)「オールドボーイズネットワーク」の存在 第3の要因は、男性中心社会の企業コミュニティで培われてきた、排他的で非公式な人間関係や組織構造の存在であり、これは「オールドボーイズネットワーク(OBN)」と呼ばれます。具体的には、社内派閥、飲み会仲間、ゴルフ仲間、親睦団体の仲間など男性中心のネットワークの非公式な場で仕事の意思決定・合意がなされることがあります。あるいは、公式な会議の場であっても、OBN内で共有されている暗黙のルールに基づき、物事が進められることもあります。このネットワークに参加していない女性は、暗黙のうちに形成されたこの組織風土やルールについていけなくなり、活躍しづらくなるという状況に追い込まれてしまいます。 「ジャパン・ウイメンズ・カウンシル」がこの3つの阻害要因を指摘してから約25年が経ちますが、依然として3つの阻害要因は女性活躍の大きな壁となっています。 4.女性活躍推進の成功事例 事例1:ボトムアップで女性がキャリアを継続できる仕組みづくり 製造、販売・輸出入業A社(従業員数約130名、うち女性60名)は、女性活躍推進法施行以前から「女性活躍は会社の成長のために不可欠」と問題意識を持ち、女性活躍推進チームを立ち上げました。社内の各部署から1名ずつ選出されたメンバーでワーキンググループを結成し、「ライフイベントによって社員のキャリアにブレーキをかけない」ことを目的に、ボトムアップでさまざまな制度改革に取り組んできました。 (主な制度改革) ①在宅勤務制度の導入 育児・介護事由限定で在宅勤務を導入しました。しかし、コロナ禍による臨時措置として全社員が利用できる制度として運用しています。結果として、コロナ禍でも円滑に在宅勤務にシフトすることができました。 ②柔軟な勤務時間 時差勤務制を採用し4つの勤務時間の中から選択可能。 ③制度の利用期間の延長 育児短時間勤務を、小学校入学までに延長しました。 ④男性の育休取得を奨励 男性の育休取得率を上げるために、育休の最初の3日を有給としています。 ⑤復帰後の昇格制度の見直し 育児や介護による休業によって昇格が遅れるという不安を回避するため、昇格制度を見直しました。具体的には、昇格の資格要件に当年を含む過去3年の就業実績が必要でしたが2年に短縮しました。 ⑥次世代リーダー育成プログラム 2017年4月より毎年各部署から選抜された社員(男性も含む)を対象に、次世代リーダープログラムを実施しています。 ⑦フレックスタイム制の導入 業務改善やITによる業務の簡略化を実現させたうえで、フレックスタイム制をスタートさせました。フレックスタイムは事前申請不要であり、社内のスケジューラーに前日までに勤務時間を入力しておけば良く、使いやすいものになっています。 こうした取り組みが評価され、2019年度には「くるみん(※)」認定を受け、2021年度には「プラチナくるみん(※)」」にも認定されました。名刺に認定マークを印刷することで対外的なアピールになっています。また、ワーク・ライフ・バランスが向上し、制度改革がキャリアの継続につながっており、社員満足度も向上しています。 ※「くるみん」「プラチナくるみん」 「くるみん認定」は、「次世代育成支援対策推進法」に基づく、仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組んでいる企業を認定する制度。「プラチナくるみん」は、「くるみん」よりもさらに両立支援の取組が進んでいる企業が一定の基準を満たし、特例認定を受けるもの。2022年4月には「くるみん」「プラチナくるみん」に加えて、「トライくるみん」が新たに創設された。これらの認定を受けると、下記のマークを使用できる。 事例2:多様な働き方の容認などで、女性管理職が過半数に 卸売業B社(従業員数約110名、うち女性70名)では、少し前まで女性社員は結婚と同時に辞める人が多く、出産後も働き続ける人はほとんどいませんでした。しかしながら、女性の新卒採用も徐々に増え、育休後も働き続けたいという女性社員の声出てきたことから、結婚・出産後も働き続けられる環境づくりに着手することになりました。 (主な取り組み) ・在宅制度の導入 ・男性の育児休業推進 ・子育て交流会開催(育休・復帰後の不安についてヒアリング、社内に共有し改善策を検討) ・外部より講師を招き、妊娠・出産後の女性の健康確保について勉強会を開催 ・短時間勤務制度を小学校3年生の終わりまで延長 ・子の急な看病による欠勤時に在宅でできる制度導入 ・「妊活」のための勤務形態設置 ・妊活に関係する有休取得しやすい環境づくり ・女性管理職登用(小チーム制を導入。チームリーダーというポジションを作ることにより女性管理職の増加を図る) ・短時間勤務者に不利にならない評価基準の制定 ・多様な働き方の許容 (例) ・介護で離職者を在宅パート社員で復帰→フル正社員に ・夫の転勤のため福岡へ→在宅フル正社員に ・都合で遠距離通勤になった→在宅フル正社員に ・時短からフルへの復帰→フレックス制にて勤務 こうした取り組みの結果、「結婚→出産→育休→復帰(時短)」が全社で当たり前になり、女性社員が辞めなくなりました。また、「くるみん」「プラチナくるみん」「えるぼし」「プラチナえるぼし」の認定を受け、ホームページや名刺等に認定マークを掲載しているため、企業イメージの向上につながり、採用活動や取引面でプラスになっています。さらに小チーム制により女性管理職が増え、現在では管理職は女性が過半数を占めます。 事例1、2にもあるように、「えるぼし」「プラチナえるぼし」「くるみん」「プラチナくるみん」の認定企業の取り組みは、女性活躍のための具体的施策の参考になるのではないかと思います。 事例3:ロールモデルを見せて早期から育成する 建設業C社(従業員数約820名、うち女性70名)では、もともと男性割合の多い業界において、2016年頃から、女性を含む多様な人たちが働きやすい環境づくりに積極的に取り組み始めました。 まず取り組んだのが女性社員の採用拡大です。新卒採用の数値目標を上げると同時に、職域を拡大し、技術職も積極的に採用しました。さらに人材育成マニュアルによるキャリアアップ支援も充実させました。 また、女性活躍プロジェクトチームを結成し、女性が活躍しやすい環境整備に取り組みました。1年任期でメンバーを募り、毎年テーマを変えて、働き方改革について議論をし、1年間でアイデアをまとめて経営者に提言しています。 (女性活躍プロジェクトチームが実現させた施策) ・育児休業を最長子どもが2歳6ヵ月まで延長 ・短時間勤務を子どもが小学校3年まで延長 ・始業時間と終業時間を前後2時間までスライドできる ・長時間労働の見直し ・有給休暇の取得を奨励 ・出産一時金の支給 等 加えて、実際に女性社員が活躍する姿(ロールモデル)を見せることが有効と考え、活躍する女性を紹介する映像やパンフレットなどのツールを制作しました。また、技術職や営業職で活躍している女性に話を聞ける座談会を開催したり、社内だけでは事例が少ないので、グループ会社の女性にも声をかけて交流できる機会を設けるなどしています。 こうした取り組みの結果、社員の女性比率は高まり、男性社員の意識も変わってきています。 さらに女性活躍推進の企業事例を知りたい方は、厚生労働省「女性の活躍推進・両立支援総合サイト」を活用するとよいでしょう。 厚生労働省「女性の活躍推進・両立支援総合サイト」 https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/ (著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)