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ダイバーシティ×いきいき(3)~ニューロダイバーシティへの取り組み

ダイバーシティ×いきいき(3)~ニューロダイバーシティへの取り組み

いきいき組織づくりに資する「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進」をテーマにした4回シリーズ。第3回は発達障害者の活躍にフォーカスします。

発達障害のある人の活躍は、「ニューロダイバーシティ」という概念を用いて説明されることが多くなっています。「ニューロダイバーシティ」については、経済産業省「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における『ニューロダイバーシティ』」の取組可能性に関する調査 調査結果レポート」(令和4年3月、令和5年3月改訂)によく整理されています。ここでは同レポートからポイントをピックアップし、ニューロダイバーシティへの理解を深めます。これらはダイバーシティ経営の理解深化にも役立つものです。

1-1 ニューロダイバーシティとは

「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)」とは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)という2つの言葉が組み合わされて生まれた言葉です。「脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方であり、特に、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害といった発達障害において生じる現象を、能力の欠如や優劣ではなく、「人間のゲノムの自然で正常な変異」として捉えるものです。

ニューロダイバーシティとは

1-2 ニューロダイバーシティが注目される背景

ニューロダイバーシティの取り組みは海外で生まれました。取り組みのきっかけとなったのは、デンマークのスペシャリステルネという企業でした。スペシャリステルネの創業者が、自閉症のある方にソフトウェアテスターの適性があることに着目し、自閉症を持つ人材を競争力として、ソフトウェアテストコンサルティング業を開業したのがその始まりです。発達障害のある人が持つ特性(発達特性)を競争優位の源泉として位置づけている点がポイントです。

こういった動きに大手企業が注目し、SAP、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、マイクロソフトなどの他のIT企業や金融業、製造業にまで、活動が広がっています。これらの活動はHarvard Business ReviewやThe Wall Street Journalなどの世界的なビジネス誌でも取り上げられたことで、広く知られるようになりました。

これに伴い、女性活躍や性的マイノリティなどと同様に、グローバル企業のダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの中の論点の一つとして認識されつつあります。

2.ニューロダイバーシティがもたらす経営成果

海外の先行事例から明らかになっているニューロダイバーシティがもたらす経営成果として、「人材獲得競争の優位性」「生産性の向上・イノベーションへの貢献」を挙げることができます。

2-1 人材獲得競争の優位性

ニューロダイバーシティに取り組む企業の多くは、発達障害のある人のデジタル分野との親和性に着目しています。

発達障害のある人の中には、相手の目を見て話すことや他人との会話を積極的に進めることが不得手な方も多くいます。このようにコミュニケーションが苦手な人材は、従来の面接を中心とする採用方法では、彼らのポテンシャルを測ることができず、結果として採用から漏れやすくなります。

今日では発達障害のある人材をIT人材として積極的に雇用できているマイクロソフトでも、「自閉症者雇用プラグラムで獲得した人材の約50%は、過去に同社に応募し不採用になっていた」ことが明らかとなっています。

このように、これまで採用から漏れていた、デジタル分野に親和性の高い「未開拓」の人材(発達障害のある人)が、昨今の急速なデジタル化を受けて、IT人材のブルーオーシャンとして注目を集めることは、必然ともいえるでしょう。

ニューロダイバーシティはIT人材のブルーオーシャン

2-2 生産性の向上・イノベーションへの貢献

ニューロダイバーシティの発端であるスペシャリステルネでは、発達障害のある人が行う業務の品質の高さが
高く評価されたことが、話題を呼ぶきっかけになりました。このような生産性の向上やエラーの減少といった成
果は、後続の企業でも確認されています。

Harvard Business Reviewでも、「ニューロダイバースなチームは、そうでないチームに比べ、約30%効率性
が高い」「障害を持つ同僚の仲間またはメンターとして行動する『バディシステム』を実装している組織では、収益性は16%、生産性は18%、顧客ロイヤリティは12%上昇している」といった報告が出されています。

加えて、ニューロダイバーシティに取り組むことにより、発達障害のある人のみならず、既存社員においても、従業員エンゲージメントの向上や退職率低減にポジティブな影響が生じている、といった報告もあります。

3.ニューロダイバーシティへの取り組みと生産性との関係

前述の経済産業省「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における『ニューロダイバーシティ』」の取組可能性に関する調査 調査結果レポート」では、ニューロダイバーシティへの取り組みと生産性との関係について調査・分析しています。

3-1 生産性を高める3つの要因

ニューロダイバーシティの取り組みで成果を挙げるためには、「心理的安全性」「物理的環境」「仕事の成熟度」という3つの要因が重要であり、ニューロダイバーシティ先進企業(以下「先進企業」)ではこの3つを高める取り組みが実施されています。

ニューロダイバーシティに置いて生産性を高める3つの要因

(1)心理的安全性
「失敗したり新しい挑戦をしても白い目で見られない」という文化的環境(職場風土)をさすものです。先進企業では、「できないことよりできることで評価する」「できなかったときは、なぜうまくいかなかったのか一緒に考える」という工夫が実践されています。このように、できないことを属人化させない取り組みが心理的安全性を高めます。

(2)物理的環境
発達障害のある人の特性である感覚過敏への配慮です。具体的には、ストレスを低減し集中力を維持すること等を目的に、パーテーションの設置、イヤーマフの使用許可、リモートワークの推進を実施する先進企業が多くあります。また、口頭でのコミュニケーションや曖昧な表現を読み取ることを不得手とする方もいるため、チャットツール等を用いたテキストコミュニケーションを積極活用して報連相を実施している先進企業もあります。

(3)仕事の成熟度
発達障害のある人は、条件が整うと非常に高い集中力や探究力を発揮する傾向にあると言われており、この特性は仕事の熟練度を高めるひとつの大きな要因になり得ます。

このため、先進企業では熟練度を高めるプログラムを提供し、発達障害のある人のポテンシャルを活かしています。具体的には、ステップアップのために現場のエンジニアによる指導やオリジナルの研修を提供したり、ハイレベルな技能習得への挑戦を含む中長期的なキャリアパスを描けるようにしています。

一方、現状の障害者雇用では、従業員にステップアップを期待して積極的に育成するケースは少なく、熟練度を高めやすいという発達障害のある人の持つポテンシャルを活かせていない可能性があります。

3-2 謙虚なリーダーシップ

また、「心理的安全性」「物理的環境」を高めるためには、その前提としてリーダーの姿勢が重要であり、そこで求められるリーダーシップとして、「謙虚なリーダーシップ」が挙げられています。

謙虚なリーダーシップとは、強権的なリーダーとは相反し、自分の得手不得手を理解しており、自分にはない部下の長所を素直に認め、活かせるリーダーの姿勢をさします。自分の弱さや限界を開示できる謙虚なリーダーのもとでは、部下もまた弱さや限界を開示して支援を求めやすくなり、結果として、心理的安全性が高まり、物理的環境が整うと推察されます。

謙虚なリーダーシップ

3-3 「心理的安全性」に影響を及ぼす3つの要因

さらに「心理的安全性」については、「障害のある方に対する偏見(スティグマ)の強さ」「チームにおける精神障害のある人の割合」、「リーダーとの共同作業時間」の3つが影響を及ぼすことが明らかになりました。

(1)障害のある方に対する偏見(スティグマ)の強さ
3つの要因の中で最も影響力が大きいのが「障害のある方に対する偏見(スティグマ)の強さ」です。
スティグマとは、差別や偏見を意味します。スティグマの強い環境では、障害ゆえの困りごとを隠さざるを得なくなったり、ポテンシャルが過小評価されたり、心身の健康が損なわれることが知られています。従って、弱さや困りごとを開示しやすい「心理的安全性」の高い文化は実現しにくいと考えられます。

障害のある方に対する偏見(スティグマ)の強さ

発達障害のある人が活躍するためには、「発達障害のある人を偏見なく正しく理解し、不得手な部分も含めて受け入れ、ポテンシャルを正確に評価すること」が欠かせないといえます。実際に先進企業では、発達障害のある人の特性や能力・実績を正しく理解してもらうための社内外への発信を実施し、スティグマの軽減に成功しているケースもあります。

また、スティグマと謙虚なリーダーシップの関係をみた場合、スティグマの低さは、心理的安全性だけでなく謙虚なリーダーシップも高めることが明らかになりました。

さらに物理的環境とスティグマの関係をみた場合、物理的環境が整うほどスティグマが弱まるということが明らかになりました。物理的環境が整うほど、発達障害のある人のパフォーマンスが高まり、「障害があるから期待できない」といった差別や偏見が解消されやすくなると推察されます。

(2)チームにおける精神障害のある人の割合
精神障害のある方の割合が高い組織とは、「メンバーに精神障害があることを受け入れる土壌があり、そのことが可視化されている組織」と言い換えることができます。発達障害のある人は、そうでない方と物事の感じ方や行動様式が異なることにより、周囲の人々や環境とのミスマッチから精神的不調を抱え、精神障害を合併することもあり、これを「二次障害」と呼びます。今回の調査・分析で、二次障害に積極的に対処することが心理的安全性を高めることが示唆されました。

(3)リーダーとの共同作業時間
リーダーと共同作業する時間が長いほど、リーダーとメンバーが互いを深く理解し、協働しやすくなると考えられます。この結果、「失敗を受け入れる」、「支援を求め合う」、「課題への対処を話し合う」といった、心理的安全性を高める行動を起こしやすくなることが想定されます。

ここまで述べたことを図解で簡潔に整理すると以下のようになります。

「心理的安全性」に影響を及ぼす3つの要因

4.ニューロダイバーシティへの取り組み方法

4-1 ニューロダイバーシティで企業が目指すべき姿

企業がニューロダイバーシティを実現した姿とは、発達障害のある人が一般雇用部門において、発達障害があることを理解された上で、能力評価に基づいて受け入れられ、現在一般雇用部門で働いている人材と同等に戦力として期待され活躍している状態です。

一方、多くの日本企業の現状としては、発達障害のある人は一般雇用部門には少なく、特例子会社や障害者雇用部門といった組織に独立して配置され、いわゆる定型業務(清掃、郵便、印刷などの比較的平易な業務)に従事しているケースが多くなっています。

4-2 ニューロダイバーシティに取り組むための5ステップ

発達障害のある人を一般業務に雇用し活躍を引き出すまでには、5つのステップを実践する必要があります。

ニューロダイバーシティに取り組むための5ステップ

ニューロダイバーシティについては、その認知度・理解度ともにまだ低いものがありますが、人材市場のブルーオーシャンとして注目が高まりつつあります。また、経済産業省のニューロダイバーシティへの取り組みと生産性との関係についての調査・分析等は、ニューロダイバーシティに限定されないダイバーシティ経営へのヒントが示されているように思われます。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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