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エンゲージメント

エンゲージメント×いきいき(3)~事例で考えるエンゲージメント向上

「人とビジネスのいきいき」の視点から「エンゲージメント」を掘り下げる3回シリーズ。最終回となる第3回は、成功事例からエンゲージメント向上の実践を考えていきます。いずれの事例も規模が大きくない組織であっても参考となるものです。

エンゲージメントの向上を検討する場合、次の「2.エンゲージメント向上の具体的施策」で述べるような具体的施策の議論にいきなり入っていくケースが見られます。しかしながら、エンゲージメント推進を地に足をつけた取り組みとするためには、経営者の意識、組織のあり方といった土台をしっかり固めることが大切です。そこを怠ると、具体的施策を講じても上すべりしてしまいます。

事例1:全従業員が働きたいと思える組織づくり

事例2:社員に任せる経営

B社(従業員数約520名)は、7年連続で売上高日本一、創業から50年以上「赤字なし」という家具卸のトップ企業です。B社が成長を続ける要因の1つに、社員のやる気を引き出し、チャレンジを促進する「社員に任せる経営」があります。B社創業者・社長のS氏が掲げる「経営の心得13か条」に、その思いが反映されています。

その第1条は社員への言葉として、「楽しくなければ仕事じゃない、やりたいことを任す、失敗しても文句は言わぬ。責任は全て社長が取るから思いっきり楽しんで仕事をやってください」とあります。社員に任せたビジネスが失敗に終わったとしても、社員を責めるようなことはせず、その責任は社長自らが引き受けることを最初に宣言している点に、「社員に任せる経営」の本気度を感じます。

第11条の「社員の皆さんは社長の先生、社員からの情報及び意見及び提案は会社繁栄の源」という言葉も印象的です。経営トップの役割は、本部からあれこれ指示を出すことではなく、現場をよく知る現場社員の情報・意見を吸い上げることであるというボトムアップ型のマネジメント・スタイルを象徴する心得です。いくら従業員を大切にすると言っても、「社員は社長の先生」というフレーズは、簡単には発することができないと思います。社員を心底信頼している言葉として、とてもインパクトがあります。

「経営者は社員を心から信頼し、社員をその期待に応えて、積極的にチャレンジすることで会社に貢献する」という、B社の経営者と従業員の揺るぎない絆および好循環形成は、「エンゲージメント経営」と称したくなるものです。

事例3:助け合う職場づくり

C社(従業員数約40名)は、ビルやマンションなどの給水設備を中心とした建築設備の法定点検や修繕業務、そしてリニューアル工事までをワンストップで行う建築設備メンテナンス業です。C社では働き方改革を明確なインセンティブ制度で実現しています。代表的な取り組みをいくつか紹介します。

①助け合う職場風土の醸成~「お助けボード」、「サンクスカード」
C社は、24時間365日体制で建築設備メンテナンスのワンストップサー/bビスを提供しています。それにもかかわらず、有給休暇取得率100%を実現しています。これを支えているのは、従業員同士が助け合う風土の醸成であり、その具体策が「お助けボード」の設置と「サンクスカード」です。

「お助けボード」は、各従業員の業務負荷をビジュアル化したボードです。社内の皆が見える場所に「お助けボード」を設置し、特定の従業員に業務が集中している場合には、他の従業員が積極的にサポートする風土を職場に根付かせました。「サンクスカード」は、助け合いのなかで、助けられた従業員が助けてくれた相手に「ありがとう」の気持ちを伝えたり、反対に、助けた従業員が助けてあげた相手に「お互い様」と支え合う気持ちを伝えるためのメッセージカードです。年間6千枚以上のサンクスカードが職場内に配布されます。

こうした助け合う風土により、「私が休んでも仲間がそれをカバーしてくれる。その分、他メンバーが休むときには私が積極的にカバーしよう」という意識が職場全体で共有され、有給休暇を取得しやすい職場環境が整備されました。助け合いは職場全体の労働時間短縮もプラスに作用しています。

②従業員による自発的提案の促進
C社では「営業ノルマ」や「個人目標」は設定していいません。その一方で、従業員は定期点検等で既存顧客へ訪問したとき、点検箇所以外も調べ、自発的に顧客への修繕提案を行っています。こうして新規獲得した修繕等の利益の1%を、半年に1回、提案を行った従業員に還元しています。

また、従業員の自発的な業務改善提案に対しても、プリペイドカードによるインセンティブを授与しています。どんな改善報告でも否定せず、すべて受け入れ、1件ごとにプリペイドカードを与えています。また年に一度、最も多くの改善報告を出した従業員に「改善報告大賞」を授与し、賞状と賞金を与えています。

このように従業員の自発的な営業提案・改善提案は、業績向上や生産性向上に大きく寄与してします。

③人事評価基準の納得感・キャリアパスの明確化
人事の評価基準に関して、経営層を含まない10名程度の従業員のみで等級基準を作成しています。そのため、評価が現実と乖離した形にならず、現場の社員にとって納得感の高いものとなっています。また、何をすれば昇格、昇給するかという従業員のキャリアパスも明確になっています。

C社の取り組みは、働きがい・働きやすさの提供が、従業員の内発的・自発的な貢献意欲を引き出すというエンゲージメントの好循環そのものと説明できます。

事例4:従業員一人ひとりが大切な存在である

D社(従業員数約1,200名※パート含む)は、お土産や物産展などでも絶大な人気を誇る商品を生み出してきた菓子メーカーです。D社は「仕事も遊びも一生懸命」という経営理念の下、売上目標も定めず、規模の拡大を優先しない方針を掲げながら、顧客と従業員を満足させるユニークな経営でも知られています。

①社内表彰
D社は春・秋の年2回、全従業員と家族を集めて、ホテルの大ホールにて表彰式を開催しています。優秀従業員、優秀新人、優秀職場、優秀パートなど40名以上を毎回表彰しています。工場での日の当たらない仕事に取り組む従業員も積極的に表彰し、誰もが会社にとって大切な存在であることを従業員全員で共有するイベントとなっています。

②1人1日1情報制度/社内日刊新聞
全従業員・パートは「1人1日1情報」を提出できる権利があり、その提出された情報は社内日刊新聞に掲載され、提案として検討したり、商品開発のヒントとして有効活用されています。社内新聞へ掲載が情報提出へのモチベーションを高めています。

③社内保育園
従業員のワークライフバランス充実を目指し、社内保育園を開設しています。社内の厨房でつくられた食事が提供されるため、お弁当を作る手間を省けると同時に、子どもに温かい食事をとることができます。保育園は週末・祝日も利用できるため、急な休日出勤にも対応できるようになります。

④休暇制度
従業員が興味のあることに公休で挑戦できる制度(公休利用法)があります。また、長年にわたり、全従業員の有給休暇消化率100%を達成しています。

このようにここでは従業員を大切にする社内制度・福利厚生により、D社は高いエンゲージメントを実現しています。

2.まとめ~従業員を大切なパートナーに!

「従業員エンゲージメント」の概念を知ったとき、私はすぐにバーナード理論を思い浮かべました。バーナード理論とは、主著『経営者の役割』(1938年)で知られる経営学者チェスター・バーナードの経営管理論・経営組織論です。彼はニュージャージーベル社長、ロックフェラー財団理事長を務め、経営者としての経験から組織のメカニズムを鮮やかに解明しました。

バーナードは協働システムにおける組織(企業)と個人(従業員)の関係に着目し、「組織が存続するためには、組織の目的達成と(貢献意欲が湧くような)個人の動機の満足の同時達成が必要となる」と述べました。まさに「従業員エンゲージメント」の本質を述べていると思いませんか。バーナード理論は必ずしも組織と個人の対等な関係性を想定したものではなく、そのあたりのアップデートは必要ですが、エンゲージメントを先取りしていた理論ではないかと思います。

「エンゲージメント」という言葉自体は最近のものかもしれませんが、「企業と従業員の良き関係性から、従業員の貢献意欲を引き出す」という視点は、企業という協働組織にとって普遍的テーマであるといえるでしょう。

第2回でも述べましたが、まず経営者が従業員を「大切なパートナー」と位置づけることが重要だと思います。1のエンゲージメント向上の成功事例でも、最初に経営者の強い思いがあり、それを具体的施策に落とし込んでいました。大切なパートナーが笑顔でいきいきと働けるようになるためには何をすべきか、それを突き詰めれば、その先にエンゲージメント向上が待っているはずです。ぜひ企業と従業員の幸せな相思相愛関係を築いてください。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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