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パーパス経営

パーパス×いきいき(3)~パーパス経営の実践

「人とビジネスのいきいき」の視点から「パーパス」を整理する3回シリーズ。第3回は「パーパスの制定」、「パーパスの浸透・定着」、「企業と個人のパーパスの共鳴」という3つの観点から、パーパス経営の実践について検討したいと思います。

1-1 共感が生まれやすいパーパスとは

パーパス経営の実践の第一は、「パーパスの制定」です。これまでも述べてきたように、パーパス経営の本質は、ステークホルダーからの共感です。したがって、「いかにステークホルダーからの共感を生むパーパスを制定するか」という視点が求められます。

第2回「2-2 パーパスの『内発性』と『利他性』」で、「『社会をより良くしたい』(利他性)という大きな志(内発性)だからこそ、従業員を含むステークホルダーの共感が生まれやすい」と述べました。ここから共感を生むパーパスの要件として、「内発性」、「利他性」を挙げることができます。

ただし、「『社会をより良くしたい』という大きな志であれば(=内発性、利他性という要件を満たせば)、誰もが共感してくれるのか」と考えた場合、それだけでは不十分と思われます。欠けているのは、自社の強みや自社らしさといった「独自性」です。すなわち、「自社らしいやり方で社会をより良くする大きな志」であることが求められます。

例えば、従業員目線で考えた場合、自社らしさという「独自性」が反映されることで、パーパスを自分の仕事に結びつけてイメージしやすくなり、「挑戦しがいがある」、「面白そうだ!ワクワクする」、「これならできそうだ」のようなポジティブな心理状態の形成を期待できます。

以上を踏まえると、共感が生まれやすいパーパスの要件は「内発性」、「利他性」、「独自性」となります。

1-2 「Aにより、Bを実現する」

1-1で確認した、共感が生まれやすいパーパスの要件を踏まえると、
「Aにより、Bを実現する」
※A=自社の独自性、B=実現したい社会の姿(利他性)
という表現がパーパスの標準パターンと呼べるかもしれません。具体例をいくつか示します。

パーパス事例:ソニーグループ株式会社

  • クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。

出所https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/purpose_and_values/

「クリエイティビティとテクノロジーの力で」部分が自社の独自性、「世界を感動で満たす」部分が実現したい社会の姿に相当します。

パーパス事例:株式会社カオナビ
※タレントマネジメントシステム「カオナビ」を提供するIT企業

  • “はたらく”にテクノロジーを実装し
    個の力から社会の仕様を変える

出所https://corp.kaonavi.jp/philosophy/

「“はたらく”にテクノロジーを実装し」部分が自社の独自性、「個の力から社会の仕様を変える」部分が実現したい社会の姿に相当します。

※このような標準パターンを示すのは、「共感が生まれやすいパーパスの要件」への理解を深めてもらうことが目的であり、パーパスの標準パターン化を推奨するものではありません。

1-3 従業員主導によるパーパス制定

逆転の発想でパーパスを制定する方法もあります。本来パーパスの受け手である従業員をパーパスの作り手に巻き込む方法です。次の「2.パーパスを浸透・定着させる」でも述べますが、パーパスを制定しても、それを各従業員が理解・納得・共感し、自分事化されないと実践に至りません。一方、従業員自身がパーパス制定に参加すれば、その作成プロセスでパーパスへの理解・納得・共感が高まり、制定時点で既に自分事化されているため、スムーズに実践へ移行できます。

実際に従業員主導によるパーパス制定に成功している企業もあります。理美容や医療の業務用設備機器および化粧品などを製造・販売するタカラベルモント株式会社は、次世代社員主導による社内プロジェクトによって、「美しい人生を、かなえよう。」というパーパスを制定しています。同社HPに基づけば、部門・世代を超えた約40名のプロジェクト・メンバーが、一世紀に渡る同社の歴史を振り返ると同時に、社会変化の兆しから未来を洞察し、多くの議論を重ね、戦わせてパーパスを導き出した模様です。

出所https://www.takarabelmont.co.jp/100th/destinations/purpose/

第2回「1-2 『共感』に基づくボトムアップ型の組織運営」(でも述べたように、パーパス経営のねらいの1つに、各従業員の主体的・自律的行動に基づくボトムアップ型の組織運営があります。パーパスの制定自体をボトムアップで推進することは、パーパス経営の本質に照らしても望ましい取り組みです。

2.パーパスを浸透・定着させる

パーパス経営の実践の第二は、「(従業員に向けた)パーパスの浸透・定着」です。

2-1 パーパス浸透・定着の基本ステップ

パーパスの浸透・定着の基本ステップは、「理解・納得→共感(自分事化)→実践→定着」という4ステップになります。

2-2 パーパス浸透・定着の具体的方策

2-1で示した4ステップを進めるための具体的方策をいくつか紹介します。

(1)浸透アンバサダーの育成
パーパス浸透の推進役を担うメンバーを部門横断的に選抜し、「アンバサダー」、「エバンジェリスト」等の名称で育成するものです。他の従業員に先んじて、ワークショップ等でパーパスへの理解・納得・共感を高めたり、パーパスの実践を体現しておくことが望まれます。

(2)浸透ツールの制作
パーパス浸透を目的とした映像・冊子等のツールを制作することで、従業員の理解・納得が進みます。例えば、パーパスをストーリー化して映像にすることで、ビジュアル・ストーリーとしてパーパスを訴求でき、「ワクワクする」「やってみたい」という思いを高めやすくなります。また、パーパスを体現している従業員にインタビューし、その成功体験(エピソード)を冊子に集約することで、パーパスの仕事への接続を具体的にイメージでき、「自分にもできそうだ」、「自分もチャレンジしてみよう」という思いを高めやすくなります。冊子制作については、(1)で述べた浸透アンバサダーの育成ワークショップ等と連動させると良いでしょう。

(3)浸透キャラバンの実施
全社員向けの浸透活動です。(1)で述べた浸透アンバサダーがファシリテーターとなり、部署単位などでワークショップを実施します。映像・冊子等のツールも交えながら、パーパスへの理解・納得・共感を高め、最終的にパーパスを自分事化させ、行動に結びつけるアクション・プランまで落とし込むことが望まれます。ただし、パーパスはあくまで共感をベースとするものであり、一方的に押しつけるものではありません。従業員同士の対話などから湧き出てくる思いや言葉を大切にし、それらをうまくパーパスと接続してあげるようなファシリテーションが求められます。それに備えて、浸透アンバサダー向けにファシリテーション・スキル習得の研修等を実施する方法もあります。

(4)浸透キャラバンのフォローアップ
浸透キャラバンを実施したならば、その実践状況を必ずフォローアップしましょう。パーパス実践がポジティブな体験となれば、「やってよかった」、「これからもやっていこう」とパーパスに基づく行動が定着しやすくなります。反対に、パーパス実践がネガティブな体験に終われば、「メリットがない」「重荷になるだけ」という思いを抱き、行動は継続しなくなります。

また、パーパス実践の成功事例を収集・集約することも望まれます。集約した成功事例を全従業員向けに発信することで、パーパスの浸透・定着が促進されます。(2)で述べた冊子等を最新事例に基づきアップデートさせる方法もあります。

3.企業のパーパスとマイ・パーパスの整合

3-1 マイ・パーパスとは

パーパス(志)は企業だけのものではありません。個人(従業員)にもパーパス(志)があります。個人レベルのパーパスを「マイ・パーパス」と呼びます。個人主義を重視する欧米では、マイ・パーパスの自覚は当たり前のようです。日本でも従業員にキャリアオーナーシップが求められる時代となり、個人のパーパスに対する意識が高まりつつあります。

従業員主導のキャリア開発を推進する企業であれば、各従業員のマイ・パーパスに対する自覚を促し、マイ・パーパスと自社パーパスとの整合を図ることで、パーパス経営をさらに強化することが可能です。

ただし、従業員のキャリアに対する意識が低い状態で、「マイ・パーパスは何か」を自問自答させても空回りに終わる可能性があります。また、自覚したマイ・パーパスと自社パーパスの間に大きなギャップがある場合、「自分はこの会社にいる必要なない」という思いが強まり、離職を招くリスクがある点にも留意すべきでしょう。その意味では、従業員エンゲージメントがある程度高い状態であることが、マイ・パーパス促進の前提条件となるかもしれません。

※従業員エンゲージメント
企業と従業員の相思相愛を示す概念。具体的には、「企業が従業員との相互理解を深めつつ、働きがいや働きやすさの向上に努め、それに共感した従業員がパフォーマンス発揮で企業に貢献する」という好循環をさす。あるいは、こうした好循環のなかで形成される従業員の貢献意欲をさす場合もある。

3-2 自社パーパスとマイ・パーパスの共鳴

従業員エンゲージメントが高い状態で、従業員のマイ・パーパス対する自覚を促進させると、各人が自社パーパスとの接続を意識しながら、マイ・パーパスを見つけるようになります。

そして、自社パーパスと従業員のマイ・パーパスの重なりが広がるほど、自社パーパスとマイ・パーパスが共鳴し、従業員の高パフォーマンスを引き出しやすくなります。このレベルになると、パーパスは「共感を生むもの」から「共鳴し合うもの」となります。

自社パーパスと従業員のマイ・パーパスの重なりを広げるためには、定期的にキャリア面談を行い個人のマイ・パーパスを尊重したキャリア支援を行うことが有効です。

一方で、若手社員が経験の浅い段階でマイ・パーパスを固定化してしまうことには留意すべきです。「計画的偶発性理論」が示すように、キャリアには「偶然の出来事・出会いによって決定される」という側面があり、経験しないと見えないものがあります。したがって、「マイ・パーパスは変化するもの(変化させてもかまわないもの)」という柔軟性を持たせることも大切です。

※「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」
「個人のキャリアの8 割が予期しない出来事や偶然の出会いによって決定されている」というもの。アメリカの心理学者・教育学者であり、スタンフォード大学名誉教授のジョン・クランボルツによって提唱された。

3-3 マイ・パーパスの見つけ方

最後にマイ・パーパスを見つけるために有効な「Ikigaiベン図」を紹介します。

「Ikigaiベン図」は、書籍『Ikigai: The Japanese secret to a long and happy life』(2017年)で紹介され、注目されるようになったベン図です。オリジナルはアメリカのコンサルタントMarc Winn氏のブログにおける2014年の記事『What is your Ikigai?』であると思われます。

出所https://theviewinside.me/what-is-your-ikigai/

ベン図の中央の「Ikigai(生きがい)」をマイ・パーパスと置き換え、「得意なこと」、「好きなこと」、「必要とされていること」「稼げること」の重なりを探ることで、マイ・パーパスを見出しやすくなります。ちなみに、英語圏では「生きがい」に対応する単語がないため、そのまま「Ikigai」となっているそうです。

自社の大きな志としてのパーパスと、従業員の生きがいとしてのマイ・パーパスが共鳴し合う、まさにパーパス経営の理想の姿だと思います。それは「組織のいきいき」と「人のいきいき」が調和した「いきいき経営」とでも呼べるものではないでしょうか。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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