人とビジネスのいきいきをデザインする

パーパス経営

パーパス×いきいき(1)~パーパスの基本知識

近年、企業の経営理念を見直したり、再編したりする動きが盛んです。そのなかで「パーパス」への注目が高まっています。3回シリーズで、「人とビジネスのいきいき」の視点から「パーパス」を掘り下げます。第1回は「パーパスとは何か」と大まかにイメージしていただくための基本知識を整理していきます。

1-1 パーパス、パーパス経営とは

企業経営における「パーパス(Purpose)」とは、社会における自社の存在意義を意味します。そして、パーパスを掲げ、パーパスを重視した経営スタイルが「パーパス経営」です。

パーパスを重視する経営とは、自社ビジネスを通して「社会をより良くしたい」という社会貢献に重きを置くものです。ビジネスを買い手(顧客)と売り手(自社)という二者の関係ではなく、社会も加えた三者の関係で捉える経営とも説明できます。

ビジネスを買い手、売り手、社会の三者で捉える考え方といえば、近江商人の精神として知られる「三方よし(買い手よし、売り手よし、世間よし)」を想起される方も多いのではないかと思います。その意味でパーパス経営は、現代版「三方良し」と呼べるかもしれません。

1-2 パーパスの具体例

有名企業のパーパスをいくつかご紹介しておきます。

ソニーグループ株式会社 クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。
富士通株式会社 わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくことです。
株式会社サイバーエージェント 新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する
ユニリーバ サステナブルな暮らしを”あたりまえ”にする
ネスレ ネスレは、食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます。

4番目に挙げたユニリーバ(190か国で400以上のブランドを展開するグローバル企業)の取り組みは、パーパス経営の先進事例として有名です。

2.注目されるパーパス

2-1 パーパスが注目されるきっかけ

ここ数年で「パーパス」というキーワードが注目されるようになりましたが、経営理念体系における「パーパス」の概念はそれ以前から存在しています。例えば、世界的ベストセラー書籍『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ/ジェリー・ポラス著、1994年)のなかで「パーパス」の重要性が説かれています。
それでは今なぜ「パーパス」が注目されるようになったのでしょうか。ここでは2つのきっかけを紹介したいと思います。

(1)「ビジネス・ラウンドテーブル」声明(2019年)
ビジネス・ラウンドテーブル(以下BRT)は、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体です。日本における経団連に相当する団体とイメージすれば分かりやすいでしょう。BRTは1997年に「Statement on Corporate Governance(企業統治に関する声明)」を発表し、「企業は第一の目的は、株主に仕えることである」という株主至上主義を掲げました。そんなBRTが2019年8月に「Statement on the Purpose of a Corporation(企業の目的に関する声明)」を発表し、それまでの株主至上主義を改め、顧客・従業員・サプライヤー・地域社会・株主などのすべてのステークホルダーを重視することを表明しました。

この流れのなかで、社会的な意義・貢献性を重視する経営を標榜する企業が増えたことが、今日のパーパス経営への注目につながっています。

(2)ベストセラー書籍『ティール組織』(2018年)
私が「パーパス」という言葉に気にするようになったのは、ベストセラー書籍『ティール組織』(フレデリック・ラルー著、2018年)です。人類の歴史における組織の進化を、レッド・アンバー(琥珀色)・オレンジ・グリーン・ティール(青緑色)という色の波長で表現し、その最新の進化型組織を「ティール組織」として紹介した書籍です。

ティール組織を簡潔に説明すると、メンバー全員が意思決定権を持つ(階層構造を持たない)フラットな組織をさします。そして、ティール組織を実現する3要素として、「セルフマネジメント(Self-management)」、「ホールネス(Wholeness)」と並び「エボリューショナリー・パーパス(Evolutionary Purpose)」が挙げられていました。私の場合、単に「パーパス」ではなく「エボリューショナリー・パーパス」となっていたため、強く印象に残った記憶があります。

本題から逸れるので、これ以上詳細には触れませんが、私と同じく『ティール組織』やその関連書籍・資料を通して「パーパス」という概念がインプットされた方も多いのではないかと思います。

2-2 パーパス経営を要請する社会的背景

現代のビジネス環境が、「パーパス経営」を要請している側面もあります。

(1)VUCA時代への対応
現代のビジネス環境を象徴する言葉として「VUCA」があります。VUCAな時代において、企業には変化を先取りし、柔軟かつ俊敏に適応する「しなやかさ」や、正解を探すのではなく、正解を創り出す「創造性」が強く求められます。
※VUCA
「Volatility(不安定)」、「Uncertainty(不確実)」、「Complexity(複雑)」、「Ambiguity(曖昧)」の頭文字を並べたもの

そのためには、トップダウン型の意思決定のみでは限界があり、各従業員の主体的・自律的行動に基づくボトムアップ型の意思決定が必要となります。そうした従業員の主体的・自律的行動において、原動力や羅針盤となるのがパーパスです。

(2)SDGs、ESGへの対応
今やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)を考慮した経営は、企業にとって必須です。SDGsやESGが重視するものを「社会価値」と捉えた場合、顧客は社会価値の高いブランドを選好する傾向が高まると予想され、自社事業における社会価値を高めることがブランディングにおいて重要となってきています。そこで自社ビジネスを通して社会をより良くするための旗印としてパーパスが大きな役割を果たします。

(3)ミレニアル世代・Z世代の価値観
これから企業の将来を担うのはミレニアル世代(1980〜1990年代半ばに生まれた世代)・Z世代(1990年半ば~2010年代生まれの世代)の人材です。バブル経済崩壊以降の厳しい経済状況下で育ち、インターネットやSNSによる情報収集・情報交換が当たり前の世代です。

これらの世代は、社会問題への関心が高い傾向にあります。地球環境問題への取り組みやダイバーシティ(多様性)の考え方が当たり前に刷り込まれている世代であり、SDGsへの関心も高い傾向にあります。また、インターネットやSNSで育った世代であり、自分に合った価値観への共感を大切にしています。多様性が当たり前の世代だからこそ、共感できるものを重視するのかもしれません。

こうしたミレニアル世代・Z世代の人材を確保・定着させるためには、自社ならではの社会的意義を示す魅力的なパーパスを掲げ、共感を得ることが重要となります。

(4)リモートワーク時代における組織の一体感
コロナ禍によって働き方や企業環境が大きく変化し、リモートワークが当たり前の時代になりました。リモートワークには多様な働き方の実現やワークライフバランスの確保といったメリットがあります。その一方で、お互いが見えづらく、つながりにくい環境下で、組織としての価値観の共有や一体感の確保が難しくなっている面があります。そうした状況下で、組織の一体感を確保する求心力としてのパーパスへの関心が高まっています。

3.経営理念体系とパーパス

経営理念の構成要素の1つに位置づけられるパーパスですが、ミッション、ビジョン、バリューといった概念と何が違うのでしょうか。これらの関係を整理したいと思います。

3-1 ミッション、ビジョン、バリュー

経営理念と聞いて、みなさんが想起しやすいのはミッション、ビジョン、バリューあたりではないでしょうか。まず一般論としてのミッション、ビジョン、バリューを整理します。

ミッション
(Mission)
企業の使命(自社が果たすべき使命は何か)
→不変的な企業の在り方を示すもの
※パーパス的な意味合いでミッションを制定している企業もある
ビジョン
(Vision)
企業の将来像(自社が将来どうなっていたいか)
→自社の将来像ではなく、自社が実現させる社会の将来像を示すケースもある
バリュー
(Value)
企業が重視する価値観(自社がどのような価値観を大切にしているか)
→これまで受け継がれてきた企業DNAや行動指針など

ミッション、ビジョン、バリューに絶対的な定義はなく、上記に示したのは一例です。

ミッション、ビジョン、バリューの具体例を2社紹介しておきます。

事例:ソフトバンク株式会社

経営理念 情報革命で人々を幸せに
ビジョン 世界の人々から最も必要とされる企業グループ
バリュー 努力って、楽しい。

出所https://www.softbank.jp/corp/aboutus/philosophy/

事例:オリオンビール株式会社

MISSION ミッション VISION ビジョン CORE VALUES コアバリュー
人を、場を、世界を、笑顔に。
オリオングループ
顧客:笑顔、Win-Win
社員:働きやすさ、働きがい
社会:環境、教育
株主:成長性、持続性、透明性
a.なにくそやるぞ
b.共存共栄
c. まくとぅそーけーなんくるないさー
d.いちゃりばちょーでー
e.チャンプルー文化
f.報恩感謝

出所https://www.orionbeer.co.jp/company/philosophy.html

3-2 パーパスとミッションの関係

さて、ミッション、ビジョン、バリューとパーパスはどのような関係にあるのでしょうか。特に概念的に理解しづらいのが、パーパスとミッションの違いです。このあたりは理屈で考えるよりも、具体例を確認した方がイメージしやすいかもしれません。ここではパーパスとミッションの両方を制定している企業を2事例ご紹介します。

事例:株式会社ミクシィ

パーパス PURPOSE 豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。
ミッション MISSION 「心もつながる」場と機会の創造。
ミクシィ・ウェイ MIXI WAY ユーザーサプライズファースト
バリュー VALUES 発明 夢中 誠実

出所https://mixi.co.jp/about/

ミクシィの場合、SNSのイメージが強いですが、多様な事業を営む複合企業となっているのが実態です。そこで企業理念体系のアップデートが必要となり、最上位概念としてパーパスを制定しました。「自分たちが実現させたい世界」を示すパーパスが最上位概念であり、ミッションはパーパスを実現するために成すべき使命という位置づけになると推察されます。

事例:花王株式会社

花王が社会に存在する意義(Our Purpose) 豊かな共生世界の実現
花王ウェイ(企業理念) 使命(Mission) 豊かな共生世界の実現
ビジョン(Vision) 人をよく理解し期待の先いく企業に
基本となる価値観(Values) 正道を歩む/よきモノづくり/絶えざる革新
行動原則(Principles) 共生視点/現場起点/個の尊重と力の結集/果敢に挑む

出所https://www.kao.com/jp/corporate/about/purpose/

出所https://www.kao.com/jp/corporate/about/purpose/kaoway/

花王の場合、パーパスとミッションが同じ言葉になっています。このことは、「パーパス=ミッション」ともなり得ることを示唆しています。
また、ミッションはビジョン、バリューズ等と共に企業理念(花王ウェイ)体系のなかに位置づけられているのに対して、パーパスは企業理念とは別に示されている点にも注目です。ミッション、ビジョン、バリューズは従業員やグループ企業のための指針であるのに対して、パーパスは多様なステークホルダーに向けたものという切り分けがなされているように思われます。
このようにパーパス、ミッション、ビジョン、バリュー等を含む理念体系は、企業によって異なります。各企業が自社の状況に合わせた理念体系を構築すべきでしょう。

4.中小企業とパーパス制定

ここまでの話で、「パーパス制定やパーパス経営は大企業が取り組むべきテーマ」と思われている方もいるかもしれません。しかしながら、パーパス経営は中小企業も検討すべきテーマです。いや、中小企業こそ取り組むべきテーマかもしれません。

4-1 経営理念に関する中小企業の実態

中小企業でパーパスを掲げている企業は、まだまだ少数かもしれません。しかしながら、また、プレスリリース配信サービスなどを継続的にチェックしていると、パーパス制定のプレスリリースを行う中小企業が増えてきていることを確認できます。

また、中小企業庁『2022年版 中小企業白書』は、中小企業にもパーパス経営の下地があることを明らかにしています。同白書では、(株)東京商工リサーチが実施した「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」の調査結果から、経営理念に関する中小企業の実態を整理しています。

同調査の要点を述べます。

  • 回答企業の約9割が経営理念・ビジョンを明文化している
  • 経営理念・ビジョンを明文化している企業の約8割が、複数のステークホルダーを意識した経営理念・ビジョンを掲げている
  • 複数のステークホルダーを意識した経営理念・ビジョンを掲げる企業の約6割以上が、経営理念・ビジョンに社会への貢献を含んでいる。

上記の調査結果に対して、同白書では以下のように評しています。

  • 近江商人の「三方よしの精神」に代表されるように、特定の利害関係者ではなく、企業を取り巻く複数のステークホルダーとの共生を追求した経営理念・ビジョンを掲げる企業が少なくないことが見て取れる。
  • ステークホルダーへの貢献・信頼獲得を重視したパーパス経営が世界的に注目されている中で、今回の調査結果を鑑みると、我が国の中小企業は、企業を取り巻く利害関係者(顧客・社員・取引先・社会)との結びつきを意識してきた企業が一定数存在することが確認される。

このように、中小企業にも多様なステークホルダーや社会貢献を意識した経営理念・ビジョンを掲げるが少なくなく、パーパス経営の下地があることを確認できます。

4-2 経営理念の形骸化とパーパス

同白書における(株)東京商工リサーチの調査結果について、もう少し掘り下げましょう。私が注目したポイントを挙げておきます。

  • 経営理念・ビジョンに対する従業員の受け止め方や反応について、経営理念・ビジョンについて従業員が理解している企業は8割以上になるが、従業員の自律的な行動にまで結びついている企業は5割を下回っている。
  • 経営理念・ビジョンを策定した動機・きっかけについて、「事業の継承・経営者の交代」、「会社創業」、「企業規模の拡大・事業内容の変化」、「外部環境の変化」が上位4項目である。

上記のように、経営理念が従業員の自律的な行動にまで結びついている企業は5割以下であり、この結果は経営理念が形骸化している企業が少なくないことを示唆しています。そうした企業では、経営者の交代、企業規模の拡大・事業の多角化などの節目が経営理念を見直す良き機会となります。そこで魅力的なパーパスをタイミング良く掲げることができれば、大きな求心力となり、組織の活性化や従業員の自律的行動を期待できます。

以上、第1回では「パーパスとは何か」、「なぜ今パーパスなのか」、「経営理念体系とパーパス」、「中小企業とパーパス」を整理しました。パーパスについて多少はイメージが湧いたのではないかと思います。第2回は解像度をより上げてパーパスの本質に迫りたいと思います。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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