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物語

物語×いきいき(2)~私たちは物語に共感しやすい

「物語」を活用した組織の活性化の2回目。「なぜ物語は人の心を動かすのか」という観点から、まず物語の描き方を通して、共感しやすい物語のポイントを整理します。続いて、人が物語に共感するメカニズムを明らかにしながら、組織活性化における物語の有用性を確認します。

1-1 物語の基本は複数の出来事の結びつけ。でもそれだけでは・・・

あらためて「物語」について考えてみましょう。物語とは、複数の出来事を結びつけ、筋立てたものです。出来事A、出来事B、出来事Cという3つの出来事があった場合、ある文脈を持ってそれらを結びつければ物語になります。

たとえば、営業職のAさんに起きた出来事で考えてみましょう。

(Aさんに起きた出来事)
「営業プレゼンで失敗した」
「B先輩にお願いして営業に同行し、先輩のプレゼンを見せてもらった」
「プレゼンのやり方を練り直し、後日営業プレゼンに再チャレンジしたら、うまくできた」

この3つの出来事を結びつけると、以下のような物語となります。

(Aさんの成長物語)
営業プレゼンで失敗したので、B先輩にお願いして営業に同行し、先輩のプレゼンを見せてもらった。その後、プレゼンのやり方を練り直し、後日営業プレゼンに再チャレンジしたら、うまくできた

どうでしょうか。「この内容で『成長物語』といわれてもピンとこない」という人も多いと思います。上記の内容でAさんが「何をしたのか」という行動をイメージすることはできます。ただし、まるで報告書を読み上げているような内容であり、これでは読み手を物語に引き込むことや、読み手の心を揺さぶることは難しいでしょう。

1-2 感情・思い・考えが加わると、物語の人間味が増す

単なる出来事の羅列では、他者の心は揺さぶられません。登場人物の感情・思い・考えを織り交ぜることで物語の人間味が増します。

ある出来事が起きた場合、「(その出来事に対して)何を感じたのか、何を思ったのか、何を考えたのか」といった解釈は人によって異なってきます。例えば、仕事で難しい課題に直面した場合、同じ課題でも「大変だ。どうしたらいいだろう」と悩む人もいれば、「面白い。挑戦しがいのある仕事だ」と前向きに捉える人もいます。物語の読み手の立場で考えると、出来事に付随する登場人物の感情・思い・考えに触れてこそ、登場人物の理解が深まり、物語に没入しやすくなります。

1-1におけるAさんの物語に、Aさんの感情・思い・考えを書き足してみましょう。

(Aさんの成長物語)
自分ではそれなりの自信を持って臨んだ営業プレゼンで失敗した。予想外の結果に悔しくて、夜もなかなか寝つけなかった。一体何がよくなかったのだろうか。翌日、B先輩の営業プレゼンへの同行をお願いした。今さらこんなことをお願いするのは恥ずかしいと思いつつ、そんなことを気にしていては成長できないと思い直し、切り出してみた。B先輩は私の悩みに真摯に耳を傾け、快く引き受けてくれた。

そして、B先輩に同行し、営業プレゼンを見せてもらった。B先輩のプレゼンを目の当たりにし、自分のプレゼンとの違いは明白であった。B先輩はお客様とキャッチボールしながら、相手の知りたいことを上手に拾ってプレゼンしていた。一方、私のプレゼンは、こちらの伝えたいことを一方的に伝えていたに過ぎなかった。そこには自ら組み立てたロジックに酔っている自分がいた。完全にお客様を置き去りにしている自分に気づき愕然とした。

その後、貴重な学びの機会を作ってくれたB先輩への感謝と、「同じ失敗を二度と繰り返したくない」という思いを胸に刻み、プレゼンのやり方を練り直した。後日、営業プレゼンに再度チャレンジしたら、うまくできた。これまで以上にやり遂げた充実感があった。単に営業プレゼンのスキルが向上したのみならず、「仕事には必ず相手がいる。相手のために何ができるかが大切だ」という仕事の基本姿勢を学ぶ良い機会となった。加えて、謙虚に他者から学ぶことの大切さを改めて実感できた。

どうでしょうか。今度は「成長物語」という言葉を違和感なく受け入れられるのではないでしょうか。起きている出来事はそのままでも、感情・思い・考えを書き足すことで、Aさんの人間味が増し、読み手として物語に没入しやすくなったのではないかと思います。Aさんの心の揺らぎとシンクロさせながら、物語を追うことで、Aさんの成長体験がより鮮明に刻まれ、人によっては自分の出来事のように感じたかもしれません。それだけ共感しやすい物語になったといえるでしょう。

少しテクニカルなことを述べれば、「成長物語」という物語のテーマに対して、最後にAさんが一連の出来事を通して、「どのように成長したのか」と自ら意味づけて締め括っています。これにより、読み手は「成長物語」というテーマをより強く意識するようになります。このように物語のテーマの観点から、出来事を意味づけて締め括る書き方は、物語の戦略的活用において有効な手法です。

Aさんの物語は創作であり、感情・思い・考えについて何でも書き足すことができる面があるかもしれません。しかし、現実の中で自分に起きている出来事を物語化する場合も、このように書き出すと、そのときの感情・思い・考えといった「心の声」がいろいろと溢れ出てくるものです。その「心の声」こそが、他者の共感につながっていきます。

このように自分に起きた印象的な出来事と、それに付随する感情・思い・考えを整理することで、共感しやすい魅力的な物語を描くことが可能です。

2.物語と共感

2-1 シンパシーとエンパシー

企業経営において物語を活用する効用として、「物語は共感を生みやすい」という点を強調してきました。ここまで「共感」という言葉を何の断りもなく使ってきましたが、少し言葉の意味を掘り下げたいと思います。

多くの日本人が「共感」という言葉を、「シンパシー(sympathy)」と「エンパシー(empathy)」のどちらかの意味で使っていると思います。最近ではシンパシーを「同情」、エンパシーを「共感」のように使い分けているケースもありますが、多くの人はシンパシーとエンパシーの違いをあまり意識せず、どちらかの意味で「共感」を使っているのではないでしょうか。

違いがわかるように両者を対比すれば、シンパシーは相手の考え・気持ちに同意・共鳴することで湧き上がる感情(「自分もそう思う」「その気持ちわかる」)、エンパシーは自分が相手の立場になって相手の気持ちを理解しようとする行為(「相手の立場で考えてみよう」)と説明できます。
企業経営において物語を活用する効用として、「物語は共感を生みやすい」という点を強調してきました。ここまで「共感」という言葉を何の断りもなく使ってきましたが、少し言葉の意味を掘り下げたいと思います。

多くの日本人が「共感」という言葉を、「シンパシー(sympathy)」と「エンパシー(empathy)」のどちらかの意味で使っていると思います。最近ではシンパシーを「同情」、エンパシーを「共感」のように使い分けているケースもありますが、多くの人はシンパシーとエンパシーの違いをあまり意識せず、どちらかの意味で「共感」を使っているのではないでしょうか。

違いがわかるように両者を対比すれば、シンパシーは相手の考え・気持ちに同意・共鳴することで湧き上がる感情(「自分もそう思う」「その気持ちわかる」)、エンパシーは自分が相手の立場になって相手の気持ちを理解しようとする行為(「相手の立場で考えてみよう」)と説明できます。
※英語の「sympathy」は同情、あわれみといったネガティブなニュアンスで使われますが、日本における(外来語としての)「シンパシー」は、ネガティブ/ポジティブ両方の意味合いで用いられています。

2-2 物語に触れる「2つの自分」

シンパシーとエンパシーの違いを整理したところで、これらと物語の関係について考えてみましょう。

人は物語に触れるとき、物語の外にいて第三者視点で物語を眺めている自分と、物語の中に没入し、知らぬ間に主人公の目線になっている自分という「2つの自分」を持っていると思われます。

物語の外から物語を眺めて抱く感情が、「自分もそう思う」「その気持ちわかる」といったシンパシーです。こうした感情は、物語の外から「自分」というフィルターを通して、登場人物の行動・気持ちに接しているからこそ湧き上がるものです。一方、物語の中に没入し、主人公の目線で追いかける行為は、「自分が相手の立場になる」エンパシーそのものです。

舞台であれば、観客目線(外部目線)で舞台全体を映す映像を見て抱く感情がシンパシー、舞台を演じる役者にカメラをつけ、役者目線(内部目線)の映像で舞台を体験するのがエンパシーといえます。

2-3 物語とシンパシー

まず物語がシンパシー呼び起こす効果について考えてみましょう。1-2で示した「Aさんの成功物語」であれば、物語内でのAさんの行動・気持ちに接して、「自分も同じような経験があるから、その気持ちよくわかる」といった感情が湧き上がるとしたら、それはシンパシーを感じたためです。

第1回でも述べたように、人は物語の登場人物の感情表現を聞くと、感情を司る脳の領域が活発になることが脳科学の知見から明らかになっています。感情が描き込まれた物語に触れることで、自分の中にも感情も湧き上がりやすくなり、登場人物の行動・感情に同意できる部分があれば、それに気づきやすくなるのだと思います。

このように、物語に触れることで人はシンパシーを感じやすくなり、心が揺さぶられやすくなります。

2-4 物語とエンパシー

続いて物語がエンパシー呼び起こす効果について考えてみましょう。1-2で示した「Aさんの成功物語」であれば、Aさんの目線で物語を追っている行為がエンパシーです。ここで注目すべきは、私たちが普段エンパシーを発動するときは、「相手の立場になって考えてみよう」という意識的行為であるのに対して、物語に触れてエンパシーを発動するときは、知らぬ間に主人公の目線になっている無意識的行為であることが多いという点です。「自分ではそんなことはしていない」と思っても実際には主人公目線になっているのです。

脳科学/神経科学の分野では、鏡のように相手の行動や感情を自分に映す神経細胞である「ミラーニューロン」がサルや人間に備わっていることが明らかになっています。「相手が笑顔なら、自分も楽しく感じる」「相手は泣き顔だと、自分も悲しくなる」といった反応です。このミラーニューロンがエンパシーを司るといわれています。物語に触れると、無意識のうちにてエンパシーが発動されるのは、ミラーニューロンの影響ではないでしょうか。豊かな表現で描かれる物語の主人公の行動・感情が、知らぬ間に鏡のように自分の中に映されているのです。

2-5「これは自分の物語かもしれない」~組織活性化における物語の有用性

主人公目線で物語を体験することで、「これは自分にも起こりうる物語かもしれない」「もし自分が物語の主人公ならばどうするだろうか」という思いを抱きやすくなります。こうした物語を自分に置き換える効果こそ、組織活性化における物語の有用性となります。

そして、物語の設定、登場人物が読み手に馴染みがあるほど、「これは自分の物語かもしれない」と思いを読み手に強く抱かせることができます。1-2で示した「Aさんの成功物語」で、Aさんが自社の社員であれば、「自分にもこうした成長体験があるかもしれない」「自分ならば、どのような成長物語を描くことができるだろうか」と成長物語を自分の成長に置き換えて考えるようになります。第1回で紹介したSOMPOの未来伝記であれば、同じSOMPOグループの社員の物語だからこそ、他のSOMPOグループ社員は「自分はどのような未来伝記を描くだろか」と自分に置き換えやすくなります。

しかも、物語を自分に置き換えたとき、既に主人公目線で物語をシミュレーションしているので、自分の物語を具体的にイメージしやすくなります。

以上、第2回では「なぜ物語は人の心を動かすのか」を述べました。物語だからこそ伝わるものがあることをご理解いただけたのではないでしょうか。第3回は物語の戦略的活用の実践について述べたいと思います。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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