人とビジネスのいきいきをデザインする

物語

物語×いきいき(3)~物語の戦略的活用の実践

「物語」を活用した組織の活性化の3回目。「どのように物語を活用するのか」という組織活性化における物語活用の実践について考えます。物語活用のアプローチ、物語生成の「場」づくりやツールを踏まえて、物語活用の全体像のデザインをイメージしてもらいます。さらには物語が連鎖的・継続的に生まれる仕組みを「物語のナレッジマネジメント」として示します。

物語活用には、大きく2つのアプローチがあります。

(1)トップダウン・アプローチ
最初のアプローチは、経営理念など経営トップが伝えたいことを、企業や経営者の物語を介して社員に落とし込んでいくトップダウン・アプローチです。多くの場合、社員にも自分自身の物語を描かせることで自分事化させます。

最終的に多くの社員に自分自身の物語を描いてもらうためには、企業や経営者の物語から「いきなり自分の物語を描いてください」と要求しても戸惑うかもしれません。そこで経営トップが伝えたいことを社員レベルに落とし込んだ物語(社員レベルに翻訳した物語)を媒介させると効果的です。たとえば経営理念の浸透であれば、実際に経営理念を体現した社員の物語を媒介させます。そうした社員レベルに落とし込んだ物語は、物語を自分に置き換える発火剤になると同時に、どのような物語を描けばいいのかの絶好のサンプルとなります。

(2)ボトムアップ・アプローチ
もう一つのアプローチは、多くの社員に物語を描いてもらい、それらを集約し、自社らしさ、自社ならではの特性を抽出し、活用するものです。例えば、経営理念の見直すために、多くの社員に企業の強み・魅力を体現した物語を描いてもらい、そのエッセンスを見直しの材料として活用する方法が考えられます。あるいは、社員のエンゲージメントを高めるために、多くの社員に自社での成功・成長体験の物語を描いてもらい、それを全社員で共有することでポジティブな気持ちを醸成するといった活用方法なども考えられます。

ボトムアップ・アプローチにおいても、「いきなり物語を描いてください」と要求しても、やる気とやり方の両面で難しいものがあります。まず選抜社員の物語を用意することが効果的です。選抜社員の物語が他の社員の発火剤となり、ヒントになります。

2.物語生成の「場」づくり、ツールづくり

2-1 物語生成の「場」づくり

社員に物語を描かせる場合、個人任せにしては難しい面があります。そこでワークショップの開催をお勧めします。物語を描く前に、物語のテーマについて社員同士で対話・議論することで、物語を描きやすくなります。あるいは物語の下描きを社員同士で発表し合い、フィードバックし合うことで物語をブラッシュアップできます。

2-2 物語のツールづくり(冊子化・映像化)

物語活用で望まれるのは、物語への共感が生む物語の連鎖です。読み手が物語に共感すると、今度は自分が主人公の新たな物語を描くという物語の連鎖が生じます。

物語の連鎖を生むためには、物語を単独で見せるよりも、複数の物語をまとめて見せた方が効果的です。複数の物語を読むことで、読み手はそれらに共通するエッエンスを抽出しやすくなります。たとえば、社員の成長物語であれば、複数の成長物語を読むことで、「仕事を通じて成長するって、こういうことなんだ」というエッセンスを理解しやすくなります。

また、主人公を自分に置き換えた「自分の物語」を描く際、複数の物語に触れておくと、自分の状況に似ている物語を見つけ、それを手掛かりに自分の物語をイメージできるようになります。反対に、限られた物語しか読めず、その状況が自分とギャップがある場合、自分の物語がイメージしづらくなるおそれがあります。

複数の物語をまとめて見せるためには、物語を冊子化することが望まれます。後述する「3. 物語活用の全体像をデザインする」で具体例を示しますが、最初に選抜メンバーによる物語を集めたプレ冊子を準備し、それに触発された他社員の物語が集まった時点で本冊子にするという二段構えの対応が有効かもしれません。あるいは第1回で紹介したSOMPOグループの事例のように、特に印象的な物語をピックアップし、映像化すると、他の社員を触発する予呼び水としての効果が高まります。

3.物語活用の全体像をデザインする

ここまで述べた1、2を踏まえた上で、下記の物語活用の要素を明らかにすることで物語の全体像を描くことができます。
● なぜ物語が必要なのか(物語活用のテーマ)
● 誰が主人公のどのような物語が必要なのか(活用する物語)
● 誰に物語を届け、どのような行動を期待するのか(物語のターゲット、ターゲットの期待行動)
● どのように物語を作り・共有するのか(物語作り・共有の具体的アクション)
具体的な全体像のデザイン例を2つ紹介します。いずれも先に述べたワークショップ(WS)や冊子化(プレ冊子も含む)を取り入れたデザイン例です。

(例1)活用テーマ:経営理念の浸透 ※トップダウン・アプローチ

(例2)活用テーマ:社員の成長および働きがいの向上 ※ボトムアップ・アプローチ

4.物語のナレッジマネジメント

「物語=企業の大切なナレッジ」と考えれば、企業で物語が連鎖的・継続的に生まれる仕組みづくりが望まれます。これを物語のナレッジマネジメントと呼ぶことにしましょう。

ナレッジマネジメントの代表的モデルといえば、野中 郁次郎 一橋大学名誉教授が提唱したSECIモデルが有名です。
※SECIモデル
知識創造のプロセスを、①共同化(Socialization):個人同士が直接的な相互作用により暗黙知を共有する、②表出化(Externalization):暗黙知を言語化し、概念を生み出すことで形式知に変換する、③連結化(Combination):変換した形式知を組織内外の他の形式知と組み合わせ、体系化して新たな知をつくり出す、④内面化(Internalization):体系化によって増幅した形式知が実行に移される、という4つのプロセスで示したもの

SECIモデルを参考に、物語のナレッジマネジメントを以下のように考えてみました。

こうしたサイクルを回すことで、連鎖的・継続的に物語が生まれる仕組みを形成できます。

以上、3回シリーズで物語による組織活性化について述べました。企業活動においては、物語の種が日々生まれています。それらの種を物語化し、企業の大切なナレッジとして活用することで組織を活性化させましょう。物語でしか伝わらないことを最大限活かすことが「人とビジネスのいきいき」に貢献します。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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