人とビジネスのいきいきをデザインする

心理的安全性

心理的安全性×いきいき(2)~周辺ワードから「心理的安全性」を考える

いきいき組織づくりへの活用から「心理的安全性」を検討する3回シリーズ。第2回は「『学習する組織』を実現するために、いかに心理的安全性を高めるか」を多角的に検討するためのヒントとして、周辺ワードから「心理的安全性」を考えてみたいと思います。

第1回の心理的安全性に対する誤解でも触れたように、心理的安全性と混同されやすいのが「職場の信頼関係」です。「職場の信頼関係」とは、リーダーとメンバーあるいはメンバー間の信頼関係をさします。混同されやすいと同時に、両者の関係も誤解されやすいのではないでしょうか。

たとえば、「上司と部下の関係性が希薄なので、心理的安全性を高めたい」という課題設定をどのように思いますか?

上記課題を言い換えると、「心理的安全性を高めることで、上司と部下の信頼関係を構築する」というロジックになります。一見、筋の通ったロジックのようにも見えます。しかしながら、信頼していない上司の前で、部下が率直な意見を述べたり、自分をさらけ出すことはないでしょう。信頼関係が欠如している状態で、心理的安全性を高めることは非現実的です。

このように考えると、心理的安全性の土台として「職場の信頼関係」があることをご理解いただけると思います。
したがって、「心理的安全性を高めることで、上司と部下の信頼関係を構築する」ではなく、「上司と部下の信頼関係を構築することで、心理的安全性を高めやすくなる」というのがロジックを持つべきでしょう。

心理的安全性を高める具体的方策として挙げられることが多い「1on1ミーティング」も、直接的な効果は上司と部下の信頼関係の構築です。その信頼関係という土台の上に心理的安全性を高めていくことになります。
※1on1ミーティング
上司と部下が1対1で行う対話のこと。ミーティングの目的が「信頼関係の構築」や「部下の成長支援」等である点が通常の面談と異なる。1回30分程度、短いサイクルで定期的に実施されることが多い。

このように心理的安全性を高める具体的方策を検討する場合、信頼関係の構築やその前段階としてのコミュニケーションを介した相互理解の促進という視点を持つことが有効です。

たとえば、メンバー同士の対話もこうした視点からの具体的方策の典型です。チームの定例ミーティングなどで、仕事以外のことも含めた各メンバーに起きた出来事や関心事を対話する機会を設けるものです。業務上の会話のみでは見えない、各メンバーの人となりを知ることで、お互いの心理的な距離が縮まり、日頃の会話もしやすくなります。こうした会話の量が増えることでメンバー同士のつながりが強化され、心理的安全性を高めやすくなります。

2.メンタルヘルスと心理的安全性

第1回で述べたように、心理的安全性研究の第一人者であるエドモンドソン教授は、心理的安全性を「対人関係のリスクをとっても安全だと信じられる職場環境」と説明しました。そして、具体的な対人関係リスクとして、「『無知』だと思われる不安」「『無能』だと思われる不安」「『邪魔』をしていると思われる不安」「『ネガティブ』だと思われる不安」の4つを示しました。

心理的安全性が低い職場は、これらの対人関係リスクが高く、その不安に悩まされる状態であると説明できます。こうした不安が各メンバーのメンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことは想像に難しくないでしょう。メンタルヘルスには個人差がありますが、心理的安全性が低い場合、総体的に各メンバーのメンタルヘルスがあまり良くない状態の職場といえるかもしれません。

職場全体のメンタルヘルスが低下している状態では、いくら能力を有するメンバーであっても、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムにより、思うようなパフォーマンスを発揮しづらくなります。

「アブセンティーイズム」・・・従業員の欠勤、遅刻、早退
「プレゼンティーイズム」・・・従業員が出勤しても健康面で問題を抱え、集中力や意欲が減退している状態

エドモンドソン教授は、心理的安全性の確保された組織に対して、著書名にもなったように「恐れのない組織」とネーミングしました。一方、メンタルヘルスを低下させるような対人関係リスクへの不安がある組織は、「恐れのある組織」と呼べるでしょう。

メンタルヘルスや次項で述べるハラスメントの視点で考えると、心理的安全性の高低に対して、恐れの有無という見方をする意味合いを理解しやすくなるのではないかと思います。

3.パワハラと心理的安全性

1で述べたメンタルヘルスと密接に関係しているのがパワーハラスメントの問題です。

2020年6月に先行して大企業を対象として施行された「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が、2022年4月から「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が全面施行となり、中小企業も含めて職場内のパワーハラスメント防止措置が完全義務化されました。

パワーハラスメント(パワハラ)は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をさします。当然ながら、ハラスメントの被害者はメンタルヘルスの不調に陥りやすくなります。

ここで注目したいのは、パワハラ行為をする人が、被害を受ける人に対して「優位的な関係にある」という点です。別の言い方をすれば、被害を受ける人は「行為に対して拒絶しづらい関係にある(=率直に自分の本音を言えない)」ということになります。

パワハラと心理的安全性の関係は、「心理的安全性が高い職場は、パワハラが発生しにくい。反対に、心理的安全性が低い職場は、パワハラが発生しやすい」といえるのではないでしょうか。その意味で、適切なパワハラ対策を講じることは、心理的安全性の向上にも寄与することになるでしょう。適切なパワハラ対策と心理的安全性の向上は、「お互いを尊重し、認め合う」という点で共通しています。

一方で、パワハラ対応に過敏となり、上司が部下指導に萎縮してしまっているという話もよく聞きます。上司がパワハワを恐れるあまり適切な指導ができない状態では、部下は成長しづらく、チームのパフォーマンスも期待できません。下図のように、これでは第1回で示したエドモンドソン教授の四象限のうち、心理的安全性は高いがモチベーション・責任は低い「快適ゾーン(=ぬるい職場)」のポジションとなり、心理的安全性とモチベーション・責任が共に高い「学習ゾーン」への到達は困難となるので注意しましょう。

4.失敗の許容と心理的安全性

心理的安全性の高い職場環境を象徴する言葉の1つに、「失敗の許容」があります。

一方で、「心理的安全性の高い職場=失敗が許容される職場=ぬるい職場」という誤解を招きやすいことも事実です。こうした誤解を解くためには、「何のために失敗を許容するのか」「どのような失敗を許容するのか」という点を正しく理解することが大切です。

同じ失敗でも「怠慢による失敗」と「挑戦による失敗」は大きく異なります。「失敗が許容される職場=ぬるい職場」というイメージを持つ場合、「怠慢による失敗(やるべきことをやらない)」のような失敗を想定するためだと思います。しかしながら、心理的安全性の高い職場における失敗の許容とは、主に「挑戦による失敗(チャレンジし、手を尽くしたがうまくいかなかった)」を想定したものです。

心理的安全性で失敗が許容されるのは、失敗を恐れず挑戦を促すためです。繰り返しになりますが、「絶え間なく学習する組織をつくるために、心理的安全性を高める必要がある」というのがエドモンドソン教授の基本的な考え方です。変化し続けるビジネス環境に対応するためには、トライ・アンド・エラー(※)で挑戦と失敗を繰り返しながら学ぶことが求められます。こうした行動様式を定着させるために「挑戦による失敗の許容」という職場環境が求められるのです。
※トライ・アンド・エラー
トライ・アンド・エラーは和製英語。英語での正しい表現は「trial and error(トライアル・アンド・エラー)」。

5.ダイバーシティ&インクルージョンと心理的安全性

心理的安全性が高まることで期待される効果の1つに、ダイバーシティ&インクルージョンの(※)推進があります。
※ダイバーシティ&インクルージョン
性別、年齢、国籍、障害、職歴、価値観などの属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすこと

ダイバーシティ&インクルージョンが推進されると、組織の多様性にもとづき多様な意見・アイデアが出されるため、新たな気づき・学びが生まれやすくなり、「学習する組織」の強化につながります。

一方で、いくら組織の多様性(ダイバーシティ)があっても、アンコンシャス・バイアス(※)などにより、個々の属性の「差異」が受け入れられない状態(=差別された状態)では、多様な個の能力発揮にブレーキがかかってしまいます(インクルージョンの欠如)。差別を受けた人間は、気兼ねなく発言したり、本来の自分をさらけ出すことができなくなってしまいます(心理的安全性の低下)。
※アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)
「無意識の思い込み、偏見」と訳され、誰かと話すときや接するときに、無意識に「この人は○○だからこうだろう」と思い込むことをさす。典型的なものに性別、年齢、国籍、障害による偏見がある。

このようにダイバーシティ&インクルージョンの推進と心理的安全性の確保は密接に関係しています。

第2回は心理的安全性を多角的に考えるために、「職場の信頼関係」「メンタルヘルス」「パワハラ」「失敗の許容」「ダイバーシティ&インクルージョン」といった周辺ワードとの関連性を整理してみました。第3回では、心理的安全性を高め、学習する組織をつくるためのアプローチについて述べたいと思います。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

あわせて読みたい関連記事

いきいき組織についての
お問い合わせは こちらより

いきいき組織への変革を見える化する
組織サーベイ

社員の「自社ファン度」を見える化し、
未来の組織づくりに活かす

自社ファンが会社を強くする

fangrow
「自社ファン度」組織サーベイ〈ファングロー〉