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心理的安全性

心理的安全性×いきいき(3)~心理的安全性を高め、学習する組織をつくる

いきいき組織づくりへの活用から「心理的安全性」を検討する3回シリーズ。第3回では、心理的安全性を高め、学習する組織をつくるためのアプローチについて述べます。心理的安全性を高めること自体が目的化しないように、学習する組織をつくることまで視野に入れたいと思います。

具体的方策を挙げるというよりは、リーダーシップ論、組織論、社会心理学、当事者研究などの知見をヒントにアプローチ方法を探っていきたいと思います。また、あえて第一人者のエドモンドソン教授のアプローチ方法には触れません。

心理的安全性を高めるためには、リーダーが果たす役割が大きいことは言うまでもありません。問題は、具体的にどのようなリーダーシップを発揮すればよいのかという点です。

これに関して、海外の先行研究において、「謙虚なリーダーシップが心理的安全性を高める」という報告があります。熊谷晋一郎 東京大学先端科学技術研究センター准教授を筆頭著者とする、内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第203号 2021年 論文「当事者研究の導入が職場に与える影響に関する研究」にもとづき、その内容を簡潔に整理します。

「謙虚なリーダーシップ(humble leadership)」は、以下の3つの資質で定義されるリーダーシップをさします。
1.他者視点を取り込むことで、正確な自己認知を求めようとし続ける態度
2.能力を評価する基準を複数持ち、自分にはない他者の強みを素直に承認できる資質
3.自分の弱みを素直に認め部下からも教えを乞う態度

そして、いくつかの海外先行研究を踏まえて、「謙虚なリーダーシップが組織の心理的安全性を高め、ひいては部下の創造性を高める。さらに、心理的安全性が創造性に与える効果は、メンバー同士の知識の共有が高い状態によって修飾される」と上記論文では述べています。

謙虚なリーダーシップに求められる具体的な行動について、前述の熊谷晋一郎准教授は、「リーダーの謙虚さ」を測定する尺度として以下の7つを示しています(英語尺度の日本語版)。

《謙虚さ表出尺度》
1.この人物は、批判であっても、フィードバックを積極的に求める。
2.この人物は、自分が何かのやり方がわからないときに、そのことを認める。
3.この人物は、自分よりも他人のほうが多くの知識やスキルを持っているとき、そのことを認める。
4.この人物は、他人の長所に注目する。
5.この人物は、他人の長所をよく褒める。
6.この人物は、他人の独創的な貢献に対して感謝を示す。
7.この人物は、他人から意欲的に学ぼうとする。
8.この人物は、他人のアイデアに耳を傾ける。
9.この人物は、他人の助言に耳を傾ける。

(出所)熊谷晋一郎 東京大学先端科学技術研究センター准教授「産業構造審議会教育イノベーション小委員会 学びの自律化・個別最適化WG」資料(2021年10月1日)

この7つの尺度は、心理的安全性を高めるために必要なリーダーの具体的行動の1つの指針となるのではないでしょうか。

2.シェアード・リーダーシップ

謙虚なリーダーシップに関する書籍の1つに、エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン著『謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』(2020年、英治出版)があります。組織心理学の大家エドガー・H・シャインの著作ですが、注目すべきは「1人のリーダーに依存しない組織をつくる」というサブタイトルです。

このように、謙虚なリーダーシップは1人のリーダーに依存するものではありません。前項で確認した謙虚なリーダーシップの定義や測定尺度で示したように、リーダーは自分にはない他メンバーの強みに着目し、それを最大限活かすことを想定しています。

ここまで書いてくると、謙虚なリーダーシップに加えて、もう1つのリーダーシップ概念が想起されます。それは「シェアード・リーダーシップ(shared leadership)」です。謙虚なリーダーシップはシェアード・リーダーシップと密接に関連しているといえるのではないでしょうか。

「シェアード・リーダーシップ」とは、チームの複数の人間あるいは全員がリーダーシップを執るというリーダーシップ概念です。従来のリーダーシップ概念が「垂直的な関係」のリーダーシップであったのに対して、シェアード・リーダーシップはそれぞれのメンバーが時々にリーダーのように振る舞って、他のメンバーに影響を与え合うという「水平的な関係」のリーダーシップであると説明できます。

シェアード・リーダーシップを推進するためには、チーム全体で以下のような共通認識を持つことが大切です。
「一人ひとりがチームに不可欠なオンリーワンの存在である」
「各メンバーが自分の強みをテコにリーダーシップを発揮できる」
「すべてのメンバーがリーダーとしての役割を期待されている」

存在や強みを認め、役割を期待することで、各メンバーのやりがい・使命感が高まります(モチベーション・責任の向上)。また、存在や強みを認め、役割を期待することは対人リスクにおける不安の払拭にもつながります(心理的安全性の向上)。このように見てくると、シェアード・リーダーシップの推進は、第1回で示したエドモンドソン教授の四象限の「学習ゾーン」(心理的安全性およびモチベーション・責任が共に高い)へ近づくアプローチとして有効であるように思われます。

以上のように、謙虚なリーダーシップとシェアード・リーダーシップは親和性の高い概念であり、両者を一体的に推進することが心理的安全性を高める効果的なアプローチとなるのではないでしょうか。

3.知識の共有とアコモデーション

「1.謙虚なリーダーシップ」で先行研究により、「心理的安全性が創造性に与える効果は、メンバー同士の知識の共有が高い状態によって修飾される」という報告があることを述べました。

もう少しわかりやすく説明すれば、心理的安全性が高まることで、チーム内で活発な情報交換・意見交換が行われるようになると、メンバーが創造性を発揮しやすくなるということです。

ここで大切なことは、各メンバーが自分とは異なる価値観・考え方・意見を受容し、興味を持つことです。いくら率直な意見を述べることができても、同じような価値観・考え方・意見ばかりでは、固定観念に囚われ、思考が硬直化しやすくなります。そうした事態を避けるためにも、異なる価値観・考え方・意見に耳を傾けることが大切です。自分とは異なる価値観や視点に気づくことで、選択肢が広がり、思考の柔軟性が生まれます。

一点、注意すべきは異なる多様な意見・アイデアをどのように収束させるかという点です。たとえば会議で考えた場合、会議はアイデアを出す「発散」フェーズと、アイデアを取捨選択しながら合意形成を目指す「収束」フェーズから成るといわれます。

異なる多様な考え方・意見がある場合、無理に意見一致による合意形成(コンセンサス)を目指すと、多くの時間を費やしたにもかかわらず合意に至らないといったケースが多く見られます。あるいは、妥協の産物としての中途半端な折衷案に落ち着いたり、最後は声の大きなメンバーの意見に押し切られるといったケースも見られます。特に声の大きなメンバーの意見に押し切られてしまうと、押し切られたメンバーの心理的安全性を低下させるおそれもあります。

こうした事態を避けるために、コンセンサスによる合意とは異なる「アコモデーション」という合意の方法もあります。アコモデーションとは、意見・アイデアは異なっても、その根底部分の共通認識を持つことで、異なる意見・アイデアを同居させたまま合意するものです。例えば、「方法論は異なるがチームをより良くしたいという思いは共通している」といった合意です。

アコモデーションにより、意見・アイデアは異なっても、互いにそれを認め合うことができます。アコモデーションというワンクッションを挟んで仕切り直すことにより、互いの意見・アイデアの折衷案ではない、より創造的なアイデアへと発展させることも可能です。

心理的安全性をメンバーの創造性に結びつけるためにも、知識の共有(特に異なる価値観・考え方・意見の共有)を活発化させましょう。また、異なる意見・アイデア同士を創造的に発展させるためには、アコモデーションを用いることも有効です。

4.発達指向型組織

心理的安全性が高く、学習する組織を考えた場合、その本質は「失敗を恐れずチャレンジすることで成長する組織」ではないかと考えます。このようなイメージと親和性の高い組織として、「発達指向型組織(DDO:Deliberately Developmental Organization)」を紹介したいと思います。

「発達指向型組織」は、ハーバード大学教育学大学院教授のロバート・キーガンと同大学院「変革リーダーシップ・グループ」研究責任者のリサ・ラスコウ・レイヒーによって提唱された、成人発達理論に根差した組織文化を持つ組織形態です。その内容は書籍『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』(2017年、英治出版)で詳説されています。

みんなが自分の弱さをさらけだせる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される、などの特徴を持つ発達指向型組織は、組織と個人の両方の潜在能力を開花させることを意図しています。書籍タイトルにもなっている「弱さを見せあえる組織」というのは、「心理的安全性が高い組織」と言い換えることもできるのではないかと思います。

発達指向型組織には「エッジ」「ホーム」「グルーヴ」という3つの側面があります。今回、発達指向型組織を紹介したのも、この3つの側面が前述の「失敗を恐れずチャレンジすることで成長する組織」のポイントをズバリ指摘していると感じたためです。

「エッジ(edge)」
発達への強い欲求(チャレンジ)をさします。組織メンバーは自分の弱さは資産であると考え、自分の能力の限界を認識した上で、それを超えるべくチャレンジします。

「ホーム(home)」
発達を後押しするコミュニティ(サポート)をさします。「失敗を隠さず弱いところを見せても大丈夫」という相互信頼に基づき、自分をさらけ出し、互いにサポートし合うようなコミュニティです。別の言い方をすれば、心理的安全性が確保されているコミュニティと説明できるでしょう。こうしたコミュニティがあるからこそ、恐れることなくチャレンジできるのです。

「グルーヴ(groove)」
発達を実現するための慣行(プラクティス)をさします。メンバーのチャレンジやサポートを個人任せにするのではなく、組織の慣行として徹底させるものです。ここでは特にチャレンジに対するフィードバックの仕組みを強調しておきたいと思います。各人がチャレンジしてうまくいかなかったことをさらけ出し、それに対して他メンバーがフィードバックを行うことが、組織や個人にうねり(グルーヴ)を生み、学びや成長を加速させます。

ここでは「エッジ」「ホーム」「グルーヴ」を、「エッジ(チャレンジ)」「ホーム(心理的安全性)」「グルーヴ(フィードバック)」のように解釈したいと思います。この3つが確保されることで、「失敗を恐れず挑戦し、結果に対するフィードバックを得ることで学び・成長を加速させる」という流れをイメージすることができます。心理的安全性を高め、学習する組織をつくる1つのヒントになると思います。

以上、3回シリーズでいきいき組織づくりへの活用から「心理的安全性」について述べました。心理的安全性の場合、「いかに心理的安全性を高めるか」という具体的方策の話にフォーカスしがちで、木を見て森を見ずと感じていたため、大局的・多角的にアプローチしてみました。まず目指すべき組織像を明らかにした上で、心理的安全性の向上に取り組むことが大切だと思います。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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