心理的安全性が高く、学習する組織を考えた場合、その本質は「失敗を恐れずチャレンジすることで成長する組織」ではないかと考えます。このようなイメージと親和性の高い組織として、「発達指向型組織(DDO:Deliberately Developmental Organization)」を紹介したいと思います。
「発達指向型組織」は、ハーバード大学教育学大学院教授のロバート・キーガンと同大学院「変革リーダーシップ・グループ」研究責任者のリサ・ラスコウ・レイヒーによって提唱された、成人発達理論に根差した組織文化を持つ組織形態です。その内容は書籍『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』(2017年、英治出版)で詳説されています。
みんなが自分の弱さをさらけだせる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される、などの特徴を持つ発達指向型組織は、組織と個人の両方の潜在能力を開花させることを意図しています。書籍タイトルにもなっている「弱さを見せあえる組織」というのは、「心理的安全性が高い組織」と言い換えることもできるのではないかと思います。
発達指向型組織には「エッジ」「ホーム」「グルーヴ」という3つの側面があります。今回、発達指向型組織を紹介したのも、この3つの側面が前述の「失敗を恐れずチャレンジすることで成長する組織」のポイントをズバリ指摘していると感じたためです。
「エッジ(edge)」
発達への強い欲求(チャレンジ)をさします。組織メンバーは自分の弱さは資産であると考え、自分の能力の限界を認識した上で、それを超えるべくチャレンジします。
「ホーム(home)」
発達を後押しするコミュニティ(サポート)をさします。「失敗を隠さず弱いところを見せても大丈夫」という相互信頼に基づき、自分をさらけ出し、互いにサポートし合うようなコミュニティです。別の言い方をすれば、心理的安全性が確保されているコミュニティと説明できるでしょう。こうしたコミュニティがあるからこそ、恐れることなくチャレンジできるのです。
「グルーヴ(groove)」
発達を実現するための慣行(プラクティス)をさします。メンバーのチャレンジやサポートを個人任せにするのではなく、組織の慣行として徹底させるものです。ここでは特にチャレンジに対するフィードバックの仕組みを強調しておきたいと思います。各人がチャレンジしてうまくいかなかったことをさらけ出し、それに対して他メンバーがフィードバックを行うことが、組織や個人にうねり(グルーヴ)を生み、学びや成長を加速させます。
ここでは「エッジ」「ホーム」「グルーヴ」を、「エッジ(チャレンジ)」「ホーム(心理的安全性)」「グルーヴ(フィードバック)」のように解釈したいと思います。この3つが確保されることで、「失敗を恐れず挑戦し、結果に対するフィードバックを得ることで学び・成長を加速させる」という流れをイメージすることができます。心理的安全性を高め、学習する組織をつくる1つのヒントになると思います。