人とビジネスのいきいきをデザインする

ダイバーシティ

ダイバーシティ×いきいき(1)~多様な個を活かす経営(前半)

「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進」(※)が多くの企業で叫ばれています。一方で、その取り組みが表層的なものとなり、真の意味でのD&Iになっていないケースも数多く見られます。4回シリーズでいきいき組織づくりに資するD&Iについて、述べたいと思います。
※近年はD&Iに公正性・公平性を意味する「エクイティ(Equity)」を加えた、「DEI」を掲げる企業も増えています。

1.中堅・中小企業にも求められるダイバーシティ経営

1-1 ダイバーシティ経営とは

企業をとりまく環境変化のスピードが加速化する中、企業の抱える経営課題も絶えず変化しています。こうした変化に適応するための方略として位置づけられるのが「ダイバーシティ経営」です。

経済産業省では「ダイバーシティ経営」を以下のように定義しています。

多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営

ダイバーシティ経営によって、従来の慣例や慣習に捉われることなく、新たな視点で、経営戦略・人材戦略を見つめ直すことが求められています。

1-2 ダイバーシティ経営に対する誤解

前述の「ダイバーシティ経営」の定義をもう少し深掘りしてみましょう。

ポイント1:社員の多様性を高めること自体が「ダイバーシティ経営」の目的ではない
「diversity」が「多様性」と訳されるため、「ダイバーシティ経営=社員の多様性確保」と誤解されている面があると思います。確かに、社員の多様性を高めることはダイバーシティ経営に必要です。しかし、その多様な人材が能力を十分に発揮できなければ、ダイバーシティ経営とは呼べません。

ポイント2:「ダイバーシティ経営」の第一義は、CSR(企業の社会的責任)を果たすことではない
ここでは女性社員活躍の例で考えてみましょう。女性活躍を示す指標の1つに「管理職に占める女性比率」があります。女性活躍推進法に基づき、従業員数101 人以上の企業では、こうした指標の情報公開が求められています。このため、女性活躍推進は、多くの企業で国からの要請に対応するCSR(企業の社会的責任)の一環として位置づけられています。国の要請に対応し、法律を遵守することは大切です。一方で、CSRの側面が強調されすぎると、反対に女性活躍推進の本質が見えづらくなる気もします。

ダイバーシティ経営の本来目的から考えれば、女性活躍を推進するのは、国からの要請の有無に関わらず、それを推進した方が自社の価値創造にプラスとなるためです。経営者は「どうすれば女性社員が今以上に能力発揮しやすくなるのか」を第一義に考えるべきでしょう。

ポイント3:「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍などデモグラフィックの観点のみではない
私たちは「多様な人材」と聞くと、女性(性別)、高齢者(年齢)、外国人(国籍)、障害者(障害の有無)などデモグラフィック(人口統計学的属性)の観点からの多様性(目に見えやすい多様性)をイメージしがちです。しかしながら、多様性には性的指向、宗教・信条、価値観、さらにはキャリアや経験、働き方など外見に表れにくいものも含まれます。

このように考えると、「組織の一部に少数の多様な人材が存在するのではなく、組織とはそもそも多様な個の集合体である」という見方ができるはずです。そして、このような見方ができれば、どんな企業であろうと、自社組織内に人材の多様性を見出すことができ、その多様な個を活かす経営に取り組めるはずです。

1-3 中堅・中小企業におけるダイバーシティ経営の必要性

ダイバーシティ経営は大企業だけに求められるものではなく、中堅・中小企業でも取り組む必要があります。

経済産業省「多様な人材の確保と育成に必要な人材マネジメントに関する調査」(2020年10~11月)によれば、「ダイバーシティ経営を行う中堅・中小企業は、そうでない企業と比べて経営成果が良い」という結果が示されています。

上記のように、「ダイバーシティ経営」を推進している企業では、新入社員や中途社員の採用においても、同業・同規模他社と比較して「良い/うまくいっている」と回答する割合が高く、正社員の定着、人材の能力開発の状態、正社員の仕事に対する意欲、会社や仕事に対する満足度においても「良い/うまくいっている」と回答する割合が高くなっています。加えて、売上高や営業利益も高いことは、定着した人材が持てる能力を発揮できる職場環境があるため、と考えられます。

人材の多様性をどのように高めるかは、各企業の事業特性や社員構成等により異なります。自社の特性を踏まえて、社員一人ひとりの個が尊重され、活躍できる組織風土を醸成することが「ダイバーシティ経営」の実現には不可欠です。

2.ダイバーシティ経営の実現に必要な「インクルージョン」

人材の多様化を高めたのみでは、新たな価値は創造できません。その多様な人材、多様な個が能力を十分に発揮することで価値が創造できます。そこで必要となってくるのが、多様な個が能力を発揮できる「組織風土」、すなわちインクルージョンです。

ダイバーシティとインクルージョンをセットにして、「ダイバーシティ&インクルージョン」という呼称がよく用いられるのも、ダイバーシティがインクルージョンを伴うことで、はじめてダイバーシティ経営が実現可能となるためです。

インクルージョンについて、もう少し掘り下げましょう。インクルージョンは「包括性」などと訳されます。もう少し具体的に説明すると、組織で働く一人ひとりが「職場で尊重されたメンバーとして扱われている」と認識している状態をさします。

「インクルージョン(Inclusion)」の反対の概念が「排他(Exclusion)」であり、「排除しないこと」「仲間はずれにしないこと」のように理解するとわかりやすいかもしれません。

経済産業省のダイバーシティ経営関連資料では、インクルージョンを「職場の一員として認められている程度」「独自の価値が認められている程度」という2軸から説明しています。言い換えれば、①職場の一員として認められている、②(その人の)独自の価値が認められている、という両方の条件を満たさなければ、インクルージョンの状態とは呼べないことを意味します。

このように「インクルージョン」の反対の概念である「排他」に加えて、「同化」「分化」にも留意する必要があります。

(例1)
外国籍の社員に対して「海外市場への進出」に際して言語や文化的側面でだけアドバイスを求め、その他の重要事項は日本人の社員だけで決めてしまう。
→「分化」の状態の可能性

(例2)
シニア社員が「昔の経験を語ると社内で疎まれる」と考えて有益な知識の共有を控える
→「同化」の状態の可能性

「排他」「同化」「分化」の状態にあるメンバーは、「自分は職場の一員ではない」「自分は軽視されている」「自分は期待されていない」と感じ、その人ならではの個の能力発揮にブレーキがかかってしまいます。

ダイバーシティに取り組むためには、インクルージョンという組織風土が不可分であることを再認識しましょう。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

あわせて読みたい関連記事

いきいき組織についての
お問い合わせは こちらより

いきいき組織への変革を見える化する
組織サーベイ

社員の「自社ファン度」を見える化し、
未来の組織づくりに活かす

自社ファンが会社を強くする

fangrow
「自社ファン度」組織サーベイ〈ファングロー〉