「志」に基づく経営といえば、先日惜しくも逝去された稲盛和夫氏の「フィロソフィ」に基づく経営を想起される方も多いでしょう。
稲盛氏が残した数々の名言は、パーパス経営のヒントとなるものばかりですが、ここでは2つご紹介したいと思います。
(1)「動機善なりや、私心なかりしか」
この言葉は、1984年に第二電電(現KDDI)を設立したとき、稲盛氏が自問自答した言葉として有名です。
DDI(第二電電)は、1984年に日本の電気通信事業が自由化され、新規参入の機会が訪れたときに、京セラを中心として設立された会社です。その新規参入に際して、私利私欲からではなく、正しい動機に基づくものかを、「動機善なりや、私心なかりしか」と自分に厳しく問い続けたそうです。そして、「新しい通信会社をつくって長距離電話料金が安くなれば、国民のためになる」という思いに嘘偽りはないと確信し、新規参入の決断に至りました。
これをパーパス制定に適用すれば、「パーパスを掲げる動機は利他なりや、利己なかりしか」といったところでしょうか。
(2)「利他の帆、他力の風」
利他という心で帆を揚げておけば必ず他力の風を受けられる、という言葉です。
「人が自分一人で成し遂げられることはとても小さいものかもしれないが、周囲の人の力を借りる(=他力の風を受ける)ことができれば、大きなことを達成できる。風を受けるためには自分の帆を張る必要があるが、それが利己的な心の帆であれば、穴だらけの帆で風を受け止めることができない。利他の心の帆だからこそ他力の風をたくさん受けることができる」という主旨の言葉です。
これをパーパス制定に適用すれば、「他力の風を受けることで、『社会をより良くしたい』という大きな志(パーパス)を実現できる。そのためには利他の帆を掲げる必要がある」ということになります。
第2回では、「共感」、「志」、「内発性」、「利他性」といったキーワードや、先人の言葉を手掛かりにパーパスの本質に迫りました。パーパス制定には、本心からの志、正しい動機が求められます。第3回はパーパス経営の実践を考えたいと思います。