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物語

物語×いきいき(1)~物語で組織や人を動かす

分析や理屈ではなく物語だから共感できる!企業において出来事や体験を物語として整理し、その物語を共有する重要性が高まっています。3回シリーズで「物語」を活用した組織の活性化について、述べたいと思います。

1-1 社員100名の伝記を作ったSOMPO

最初に企業経営における物語の重要性を示す事例を紹介します。

2022年11月11日、日本経済新聞朝刊にSOMPOホールディングス株式会社の見開き全面広告が掲載されました。そこには「なぜSOMPOは、社員100名の伝記を作ったのか。」という見出しで、SOMPOグループで働く社員100名の原体験・生き方を約500時間かけて取材・執筆・編集し、100名分の伝記を作ったことが述べられています。物語の内容は、各社員が「SOMPO」という舞台で、「MYパーパス」(自分の志)を実現していく未来伝記です。

100名分の伝記は、同社の『SOMPO伝』特設サイトで公開されています。伝記は縦書きで書かれ、まるで小説を読んでいるかのような気分になります。さらには声優を起用した朗読で聴くこともできます(各話3~4分程度)。さらには人気の墨絵師が描いたイラストを用いたビジュアルと朗読を組み合わせたスペシャルムービーも5話分が公開されています。情感豊かな声優の朗読で社員一人ひとりの物語を聞いていると、自然と物語に感情移入し、心揺さぶられるものがあります。
https://www.sompo-dna.info/

広告には、100名分の伝記を全社員に届けたことも述べられ、最後は「社員一人ひとりにもっと幸せな働き方を見つけてもらうために。働くことの価値、生きることの幸せ。それをアップデートしていくのが、私たちSOMPOだから。」というメッセージで締め括られています。

社員の伝記を作ったねらいを、同社のプレスリリースでは以下のように述べています。

『SOMPO伝』を通じて、役職員一人ひとりのMYパーパスを起点に、SOMPOのパーパスである「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしく健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」という企業姿勢を発信し、企業価値向上を目指します。

出所パーパス経営に取り組む企業姿勢を発信するプロモーション『SOMPO伝』を実施~日本経済新聞に見開き全面広告を3回シリーズで掲載~_SOMPOホールディングス (sompo-hd.com)

社員一人ひとりのMYパーパスという物語を通して、SOMPOのパーパスに対する関心・理解・共感を高める取り組みといえるでしょう。

1-2 物語で伝えることの効果

物語という形式で伝えることの効果について、SOMPOの事例で考えてみましょう。

SOMPOの場合、物語という形式で伝えられることで、MYパーパスが鮮明に印象づけられます。認知科学の分野では、説明的な情報と比べ、人は物語に対して注意深く耳を傾け、すぐに理解し、より正確に記憶できることが明らかになっています。受験勉強において、各用語を使った印象的な物語をつくり出し、それをまるごと覚えてしまう「ストーリー暗記」という暗記法があるのも、こうした人の脳の特性を踏まえたものです。

また、物語という形式で伝えられることで、私たちはMYパーパスに共感しやすくなります。物語だからこそ共感するといえるかもしれません。認知科学の分野では、人は物語の登場人物の感情表現を聞くと、感情を司る脳の領域が活発になることが明らかになっています。社員一人ひとりの信念・思いが込められた物語だからこそ、まるで自分の身に起きていることのように体験し、感情が揺らぎます。

さらに物語という形式で伝えられることで、同じ「SOMPO」という舞台で働く他の社員が触発されやすくなります。前述のように、人は物語を聞くと、まるで自分の身に起きていることのように体験します。そして、主人公を自分に置き換え、「自分ならば、どのようなMYパーパスを描くだろうか」と想像するようになります。同じ舞台で働く仲間の物語だからこそ大いに刺激を受け、「自分にもできる(can)」「自分もやりたい(will)」「自分もやらねば(must)」という思いが内面から湧き上がりやすくなります。

このように物語には、「鮮明に印象づけられる」「共感しやすい」「触発されやすい」という特性があります。したがって、物語を効果的に活用すれば、「物語を理解する→物語に共感する→物語に触発され行動する」という流れで、行動変容を期待できます。

2.企業の物語を伝える

1で述べたSOMPOの事例は、社員一人ひとりの物語を通して、自社パーパスへの共感を高めるというアプローチですが、企業活動を物語仕立てで伝え、共感を高めるアプローチもあります。

アメリカのアウトドア・アパレル企業であるパタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッション・ステートメントを掲げ、環境保護に力を入れる企業として知られています。また、同社はさまざまな「ストーリー」を発信する企業としても知られています。企業活動や商品の背景にある物語がパタゴニアの「ストーリー」として発信されており、それらの物語への共感が企業・商品の愛着へとつながっています。アウトドアや自然を心から愛し、環境保護に本気に取り組む人々の物語が顧客等の共感を生み、従業員の活力源となっているのではないでしょうか。

同社Webサイトのグローバルナビゲーション(全ページ共通表示メニュー)には,「ショップ」「アクティビズム」「スポーツ」と並び「ストーリーズ」のメニューがあり、こういった点からも同社が物語を戦略的に活用しようとしていることを確認できます。

出所https://www.patagonia.jp/home/

東洋紡株式会社の事例も紹介しましょう。同社が2022年の年末から開始した「物語が生まれる会社」を打ち出した企業広告キャンペーンも物語を戦略的に活用したものです。

キャンペーンに際して、男性アイドルグループNEWSのメンバーで作家としても活躍する加藤シゲアキさんが、東洋紡の「フィルム」、「ライフサイエンス」、「環境の各事業に携わる従業員への直接取材をもとに、3篇のオリジナル・ストーリー(物語)を書き下ろしました。そして、3篇の物語全文やショート・ムービーが公開され、「加藤シゲアキ×TOYOBO」、「物語が生まれる会社」をキー・ヴィジュアル/フレーズとするCMやオンライン広告が展開されています。

出所https://www.toyobo-monogatari.com/

3つの物語を通して、社外の人々は「フィルム」「ライフサイエンス」「環境」というTOYOBOの事業を知ることができます。一方、社員たちには「自分たちも『物語が生まれる会社』の物語の一員である」という意識が芽生え、エンゲージメントの向上や働きがいの向上に寄与するのではないかと推察します。

3.物語の戦略的活用のススメ

3-1 企業は物語で溢れている

ここまで述べてきたように、物語には人の心を揺さぶり、共感を生む効果があります。物語は経営理念の策定・浸透、良い企業文化の醸成、社員のエンゲージメント向上、人材育成、チームマネジメントなどさまざまな組織活性化に活用できます。

事例ではSOMPO、東洋紡といった大企業の取り組みを紹介しましたが、企業ではその規模に関係なく日々物語が生まれます。その意味で物語は規模格差のない企業資産であり、中小企業でも戦略的に活用することが可能です。むしろ中小企業こそ自社内の魅力的な物語を積極的に発信すべきだと思います。

複数の出来事を結びつけ、筋立てると物語になります。企業やそこで働く人は、これまでさまざまな出来事を経験しており、それらはすべて物語の素材となります。長いスパンで考えれば、企業の歴史や従業員一人ひとりのキャリアは、節目の出来事や転機となった出来事を筋立てれば物語となります。短いスパンで考えれば、印象に残った仕事経験を順序立てて出来事を整理すれば、魅力的な物語となります。たとえば、チームが一丸となって挑戦的な課題をやり遂げた経験、従業員が自分の成長を実感できた経験などです。

このように企業には物語の素材が溢れています。それらを物語化し、物語への共感が高まることで組織活性化に寄与します。

3-2 自らに起きた出来事を、自分らしく語れば物語が生まれる

「物語を描く」と聞いて、ハードルが高いと感じる人がいるかもしれません。しかしながら、ここで求めている物語は創作(フィクション)ではなく実話(ノンフィクション)です。自分や自分が属する組織で実際に起きた出来事を整理すれば、物語を描くことができます。ただし、単なる出来事の羅列では、他者の心は揺さぶられません。そこで自分(あるいは登場人物)の感情・思い・考えを織り交ぜる必要があります。それも実際に自分が感じたこと、思ったこと、考えたことを素直に書き出せばいいのです。

最終的により魅力的な物語とするためには、SOMPOの例のように専門家による取材・執筆・編集が必要となるかもしれません。かくいう私も経営者や社員の物語を執筆・編集する仕事に携わっています。そこで大切にしているのは、主人公(経営者や働く人)の率直な言葉や思いです。それらの言葉や思いにその人らしさが表れ、その人にしか語れない物語が生まれます。

経営者や従業員が自らに起きた出来事を、自分らしく素直に語れば、それは魅力的な物語になるのです。

以上、第1回では事例を通して物語による組織活性化をイメージしてもらいました。物語というツールの持つ可能性をご理解いただけましたでしょうか。第2回は「なぜ物語は人の心を動かすのか」について述べたいと思います。

(著者:タンタビーバ パートナー 園田 東白)

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