1で述べたSOMPOの事例は、社員一人ひとりの物語を通して、自社パーパスへの共感を高めるというアプローチですが、企業活動を物語仕立てで伝え、共感を高めるアプローチもあります。
アメリカのアウトドア・アパレル企業であるパタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッション・ステートメントを掲げ、環境保護に力を入れる企業として知られています。また、同社はさまざまな「ストーリー」を発信する企業としても知られています。企業活動や商品の背景にある物語がパタゴニアの「ストーリー」として発信されており、それらの物語への共感が企業・商品の愛着へとつながっています。アウトドアや自然を心から愛し、環境保護に本気に取り組む人々の物語が顧客等の共感を生み、従業員の活力源となっているのではないでしょうか。
同社Webサイトのグローバルナビゲーション(全ページ共通表示メニュー)には,「ショップ」「アクティビズム」「スポーツ」と並び「ストーリーズ」のメニューがあり、こういった点からも同社が物語を戦略的に活用しようとしていることを確認できます。
出所https://www.patagonia.jp/home/
東洋紡株式会社の事例も紹介しましょう。同社が2022年の年末から開始した「物語が生まれる会社」を打ち出した企業広告キャンペーンも物語を戦略的に活用したものです。
キャンペーンに際して、男性アイドルグループNEWSのメンバーで作家としても活躍する加藤シゲアキさんが、東洋紡の「フィルム」、「ライフサイエンス」、「環境の各事業に携わる従業員への直接取材をもとに、3篇のオリジナル・ストーリー(物語)を書き下ろしました。そして、3篇の物語全文やショート・ムービーが公開され、「加藤シゲアキ×TOYOBO」、「物語が生まれる会社」をキー・ヴィジュアル/フレーズとするCMやオンライン広告が展開されています。
出所https://www.toyobo-monogatari.com/
3つの物語を通して、社外の人々は「フィルム」「ライフサイエンス」「環境」というTOYOBOの事業を知ることができます。一方、社員たちには「自分たちも『物語が生まれる会社』の物語の一員である」という意識が芽生え、エンゲージメントの向上や働きがいの向上に寄与するのではないかと推察します。